伊藤まさこさんといっしょに、
三重県四日市市に
陶芸作家の内田鋼一さんを訪ねました。
この日は、この1年ほどかけてふたりが準備してきた
「鋼正堂」の白いうつわと鍋の完成品が、
はじめて窯から出る、という日。
窯を見学したあと、内田さんの運営するミュージアム
BANKO archive design museumのカフェで、
今回つくったお皿、うつわ、鍋のことを話しました。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/08/0S8A3745.jpg)
内田鋼一
うちだ・こういち。陶芸作家。
1969年愛知県名古屋市生まれ。
愛知県立瀬戸窯業高等学校陶芸専攻科修了後、
東南アジアをはじめヨーロッパ各地、
北米、南米、アフリカなど、
世界各地の窯業を職人として働きながら体得。
1992年から三重県四日市市に制作の拠点を置き、
日本各地から世界を舞台に
個展でさまざまな作品を発表しています。
2016年には、四日市の萬古焼(ばんこやき)を
紹介する博物館
「BANKO archive design museum」を設立。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/08/koseido.jpg)
鋼正堂
2018年、伊藤まさこさんと内田鋼一さんが立ち上げた
うつわと道具のブランド。
ふたりがプロデューサーとなり、
作家性が強すぎず、けれども機械的で無機質なものではない、
あたらしいタイプのプロダクトをつくることを目的としている。
名前の由来は、伊藤さんによると──、
「内田さんがあの風貌ですから、
横文字のしゃれた名前ではなく、
漢字でかために、の方が合うかなと思いました。
また、最初のアイテムが萬古焼だったので、
『萬古堂』もいいかなと思ったけれど、
萬古焼の要素よりも、
内田さんが形にした、という方に重きをおきたいと思い、
最終的に鋼一から『鋼』の字を、
正子(私の本名の漢字)から
『正』の字を一文字ずつとって、名付けました」。
ロゴは、内田鋼一さんによる筆書き。
デビューは、2018年6月恵比寿で行われた
「第3回 生活のたのしみ展」だった。
その3使うことでなにかが変わったら。
- ──
- オーブンウェアの白とお皿の白、
同じ白でも、違う白ですね。
- 内田
- これは、加熱して使うという特性上、
もとの土の色が違うっていうのと、
鍋は鍋でまた特殊なことをしているということ、
そして、白の展開の中でも、色をそろえるより
バラツキがあったほうがいいと思ったこと。
そんな、いろいろな理由があります。
つくりかたも、見ていただいたような
お皿をつくるときの方法ではなく、
鋳込成形といって、
一つの型の中に流し込んでつくります。
- ──
- 内田さんの最初のプロトタイプは
どうやってつくったんですか?
- 内田
- オーバル耐熱皿はつくっていないですよ。
ろくろでは楕円をつくることができないので、
指示をして工場で型でつくってもらい、
ととのえていきました。
でもキャセロールは僕がろくろで挽いて、
サイズ、フタの感じ、つまみの形、
持ち手の形などを伊藤さんと詰めていきました。
- 伊藤
- 空気穴をあけるとか、
そういうことは内田さんにお任せです。
- 内田
- この作り方もいろいろあるんですが、
縁に「返し」がないので、
空気穴をあけました。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/08/MG_7110-800x800.jpg)
- ──
- ストウブやル・クルーゼだと
返しがあって、穴はないですね。
- 伊藤
- それはそれで、鋳物ならではのよさがある。
でもこれは土もので、やわらかい感じだし、
かといっていわゆる土鍋は和っぽい印象が強すぎる。
今回作った萬古焼のプレートや耐熱皿と合うような、
同じテーブルに載せてもいいようなものを
つくりたいと思いました。
だからわたしからは
「見たときに、何もないほうがいい」と
お伝えしました。
意識して目に留まる部分が
ないほうがいいなと思ったんです。
すごくキレイなんですよ、使っていても。
- 内田
- 白い鍋なので、使っていくと
焦げ跡がついたりしますが、
掃除は基本ラクですよ。
- 伊藤
- ラク、すっごいラク。
- 内田
- あるようで、ないものでしたね。
器の延長ではあるんだけど。
- ──
- 内田さんは鍋類をつくられているんでしたっけ。
- 内田
- ええ。昔はよくつくってました。
- 伊藤
- 持ちやすさとかも、とても考えられていますね。
そのへんがさすがだなと思います。
私には分からないところで、
いろんな工夫をしてくださっています。
- 内田
- 伊藤さんが言った部分もありますよ。
持ち手なんかそうだよ。
- 伊藤
- ほんとに?
- 内田
- 「こうしてくれ」って、
写真を送ってきたりして‥‥。
- 伊藤
- はじから忘れていくから!
よかった、覚えていてくれて。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/08/MG_7117-800x800.jpg)
- ──
- ふたりのつくるものには、
お客さまも期待していると思うし、
僕らもぜひ一緒にやっていけたらと思っています。
なので「売り切れたらおしまい」ではなく、
なくなったら、工場に追加をお願いして、
定番的につくっていきたいです。
レストランで使ってもらったりも、
素敵なことだと思いますし。
- 内田
- そうですね。お店なんかでも、
カジュアルだけどいい料理をつくるとか、
おいしいものをつくるよね、っていうお店が
喜んでくれるだろうし、そこの料理に合うと思う。
「これ使ったら?」って言ったら、
喜ぶだろうなっていうようなお店も知っています。
そういうところで使ってもらって、
「すごくいいよ」って、なるといいですね。
- 伊藤
- 置いてある姿、並んでる姿もいいし、
鍋がコンロの上に置いてあるだけでかわいい。
料理が、美しいっていうのもあるんだけど、
出番を待っている姿もうれしいんです。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/08/MG_7108-800x800.jpg)
- ──
- 大事ですよね、そういうのって。
家にあるもの全般でそれを思います。
電化製品で、機能や使い勝手はいいんだけれど、
置いてあるのが嫌だなって思うものもありますし。
- 内田
- デザイナーはなぜ誇張するんでしょうね。
何か残したいっていうのは分からなくはないし、
ちょっとしたことをやると、
一見「おっ」ってなって、手が伸びるんでしょうね。
そのあたりって、器にもあって、
その部分を出すのが効果的な場合もあるし、
それを抑えたほうが効果的な場合もあるんです。
使われる場所であったり、
そこの雰囲気でも変わります。
だから、量産のものでも
「これはいっけん使えそうだけど使えないな」
「ここをこうしたら、もっと残るのにな」
と感じることもあります。
そのあたりの微妙なさじ加減って大事なんですよ。
これから、さらなる大量生産で大量消費の時代は、
もう来ないわけですから。
「どんどんどんどんつくったら、
どんどんお金になるよ」っていう時代ではない。
だから、いいものをつくって、
確実にちゃんと売り切って、
またつくって、という方法がいいでしょうね。
だからこそデザインをしっかり考えるべきなんです。
- 伊藤
- デザインっていうと、レリーフを入れようかとか、
そういうふうになりがちですが、
横から見た角度だってデザインのうちですものね。
- 内田
- 使われることを想定することが大事ですよね。
どういう姿で使われてるんだろう、
どういう人たちがどういうふうに手に取って、
どういう人たちに向けて使うんだろう。
どういう壁の色のところなんだろう。
そう、ぼんやりとでも想像することが、
みんな欠落しているように思えますね。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/08/MG_7125-800x800.jpg)
- 伊藤
- 私は、自分が使いたいものを提案します。
- 内田
- だからスタイリストという
仕事をしているわけだものね。
- ──
- 作家のものって、作家一代だから、
「いま買わなきゃ」
「いま、同時代に生きてるから」買ったりする。
でも、じゃあ大量生産品がいつまでもあるかというと、
器でも機械ろくろを扱う職人が減っている、
後継者がいないという話を聞くと、
安心してもいられないんですよね。
「鋼正堂」も、人の手がなければできません。
- 内田
- そうなんですよ。
- 伊藤
- だから、一枚だけでも、
お気に入りとして使ってくださるといいな。
何となく使っていたものじゃなくて、
「このためにキレイに盛り付けようかな」
と思うきっかけになるかもしれない。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/08/MG_7090-800x800.jpg)
- 内田
- そういうものをチョイスすることを、
多くの人が、自分でするようになりましたね。
器だって昔は五客とか六客買うのが当たり前だったのが、
一客一客、自分の気に入ったものを買うっていうのが、
今の若い子の日常にありますよ。
ただ‥‥。
- 伊藤
- ただ?
- 内田
- 逆に人を招いたりしなくなったから、
複数の器の使い方を知らないとか、
テーブルのセッティングの仕方を知らなかったりする。
この間もそういう話になったんだけど、
若い人が「家に人なんて入れませんよ」って。
- 伊藤
- そうなの?!
- 内田
- 「外食もしないです」って。
ふたり暮らしなら
「器も2つ以上は買わないです」。
- ──
- 「誰か来たときのために買っておこう」
というのが、ないんですね。
- 内田
- 「来るんだったら外で」となるようです。
だから来客を想定をした家にしていない。
人が来るって思ったら壁に絵をかけようかなとか、
ここに置き物があったらいいなとか、
そういうふうに周りのものにも気を遣うけどね。
だから今、自分オンリーのためのものっていうのは
すごく売れるんですよね。
たとえば酒器は売れる。
いくつも買うもんじゃないから。
- 伊藤
- 気に入った酒器を一個買いますっていうと、
置いたときにテーブルの質感と合わないなとか、
窓にかかっているカーテンの色や素材が違うとか、
だんだん視野が広まっていくと思うんだけれど。
ならないのかな?
- 内田
- ならないんだよ。
- 伊藤
- そうやっていったら、
家の中が気に入ったもので囲まれて、
気分いいと思うんだけれどな。
- 内田
- 人それぞれなんだろうけど、
外食もしない、飲みにも行かない、
車も乗らない人が増えていますね。
ウチは、外国人が何ヶ月もいるとか、
毎日入れ替わり立ち替わり誰かが泊まってたりとか、
僕が帰ってっても僕の知らないやつがいて、
「誰だろうな、こいつ」と思いながら
一緒にご飯食べているような家なんですよ。
「君って、ところで誰?」
「さっきまでいたやつの友だちです」って。
子どもたちは、それをずっと見てるから、
来る人に「今日泊まるの?」って、普通に訊きます。
- ──
- いいお家ですね。
伊藤さんもお客さんウエルカムですね。
- 伊藤
- うちは、
いつでも人が呼べるようにしています。
泊まりはしないけれど、
お茶飲みに来たりごはん食べに来たり。
- ──
- 「鋼正堂」のお皿は、
ぜひ大勢でということでもなく、
ひとりで食べるときも、
大勢で食べるときも、
どっちでもいいと思うんですよ。
だから最初は1枚でも、ぜんぜん。
- 伊藤
- そう、なにかのきっかけになるかもしれないから。
- 内田
- 使ってみると違いが分かってくるはずです。
- ──
- そして、やっぱり2枚欲しいな、
3枚欲しいなってときに、
買えるようにしておきたいですね。
- 伊藤
- そう!
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/08/MG_7084-800x800.jpg)
- 内田
- 僕は作家としては、
全然そういうのに対応しない人だけれどね。
言われてつくるのはイヤだからね。
- 伊藤
- そうでしょうねえ。
- 内田
- だから、今回のものはまた違うんです。
光泉セラミックさんといっしょにつくるからね。
- 酒井
- 僕だって言われたからって
つくるのはイヤですよ!(笑)
つくりたいから、つくるんです。
- ──
- 「ほぼ日」も同じです。
つくりたいものをつくりたいです。
だからこの器は、ずっとつくりたい。
- 内田
- ありがとうございます。
- 伊藤
- ありがとうございました。
こうしてできあがって、ほんとうによかった。
内田さん、こんどは、オーバル皿ね!
オーバル皿。
- 内田
- ん?(聞こえないふり)
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/08/0S8A3938-800x533.jpg)
- ──
- ありがとうございました!