「ずっとお目にかかってみたかった」という
内田也哉子さんを、伊藤さんの部屋にお招きして、
のんびり、ゆっくりと話をしました。
テーマをとくに決めずに始まった対話ですが、
自立の話であり、
母であること、娘であることの話であり、
人生の理不尽の話でもあり、
出会いと別れの話であり‥‥。
尽きない話題を、7回にまとめました。
ふたりといっしょにお茶を飲みながら、お読みください。
(写真=有賀 傑)
その1はじめまして。
- 内田
- こんにちは、内田と申します。
今日はお会いできて光栄です。
- 伊藤
- こちらこそ、ありがとうございます。
よろしくお願いします。
- 内田
- こんな、いきなりお宅におじゃまして‥‥。
これ、おすそわけなんですけど、
山形のラ・フランスです。
もしよかったら。どうぞ。
- 伊藤
- えっ! うれしい!
ありがとうございます。
- 内田
- すてきなお部屋ですね。
伊藤さんのお好きなように
リノベーションしたんですか?
- 伊藤
- 模様替えはしましたけれど、
照明を換えたり、ペンキを塗ったり、
その程度なんですよ。
- 内田
- そうなんですね。
とても広い。
bedroomはいくつあるんですか?
Two-bedroom?
- 伊藤
- !(英語の発音の良さに驚く)
也哉子さんって、
インターナショナルスクールに通われて
いらっしゃったんでしたっけ。
- 内田
- はい、幼稚園から小学校6年生までと、
高校から大学まで。
だから日本語も英語もフランス語も
中途半端で‥‥お恥ずかしいです。
- 伊藤
- フランス語も?
- 内田
- フランス映画を見て、
「フランス語の響きがステキ」と思って、
中学から週1回習って。
- 伊藤
- フランス語が似合いそうな声をされてますよね。
- 内田
- 籠もってる感じですよね。
いまも、響きが好きなんですよ。
友だちには、もっと実用的な
中国語かスペイン語を習えば?
って言われましたけれど。
それにしても、壁の色、ほんとうに素敵。
- 伊藤
- イギリスのペンキで塗ったんです。
- 内田
- イギリス! たしかにイギリス的というのがわかります。
- 伊藤
- 最近まで、お住まいでしたものね。
- 内田
- はい。6年住んでいたんですよ。
お部屋の壁一面の収納は、
最初からあったんですか?
- 伊藤
- はい。クローゼットだったんですけれど、
ハンガーパイプを外して、棚板を入れて、
食器棚として使っています。
- 内田
- わあ、すてき。ぴったりですね。
伊藤さんらしい。
- 伊藤
- でも、ここは賃貸住宅なので、限界もあって。
やっぱり、自分で家をつくりたいなと
最近は思うようになりました。
内田さんのお家って、どういう感じですか?
- 内田
- 牢屋みたいなお家です。
テーマが牢屋なんです。
- 伊藤
- ‥‥ええっ? そんなテーマ‥‥。
- 内田
- 外側はなんにも窓がなくて、
威圧感のある、コンクリートのかたまりって感じで。
育った家は別の場所だったんですが、
結婚したとき、母の提案で、
「いい物件があるから、本木さん一緒に買わない?」
と移った土地なんです。
最初は日本家屋が建っていて、
そこにしばらく住んでいたんですよ。
最初に母が住んで、次に私たちが住んで、
でも子どもが生まれたときに、
和室って障子だけでプライバシーもなにもないので、
「建て直そうか」と。
- 伊藤
- なるほど。
お母様は不動産がお好きだったというのは、
有名な話ですよね。
- 内田
- そうなんです。
わたしの通っていたインターナショナルスクールも、
売りに出ていたのを母が聞きつけ、
買おうか悩んでいた知人に
「買いなさい」と勧めたりして。
シャーリー・マクレーンという女優さんが
日本にいたときに住んでいた建物だったそうです。
- 伊藤
- 「買いなさい」って。
- 内田
- 大好きなんです、物件!
誰かが楽しく暮らしていることを
想像するのが、この上なく好きで。
- 伊藤
- きっと、ピンとくるんですね、
これはあの人に合う、とか。
- 内田
- そうです。なぜその話をしたかというと、
母がこの伊藤さんの部屋を見たら、
一目惚れだと思ったんです。
きっと「買いなさい」って言いますよ。
(紅茶を飲んで)‥‥おいしい!
- 伊藤
- よかった。娘のです。
- 内田
- えっ?
- 伊藤
- 紅茶がすごく好きで、
お小遣いをはたいて茶葉を買うんです。
- 内田
- おいくつですか。
- 伊藤
- 20歳になったばかり。
- 内田
- うちの2番目と同い年だ。
- 伊藤
- どちらにお住まいなんですか?
- 内田
- 今はニューヨーク大学に行っています。
中高の6年をロンドンで過ごしたら、
「もうヨーロッパはいい。
アメリカに行きたい」って。
- 伊藤
- そういうものなんですね。
- 内田
- ほんとは、もうちょっといてほしかったけど。
- 伊藤
- 別れて暮らしているんですね。
- 内田
- といっても、イギリスでも、彼女は12歳から
ウィークデイをボーディングスクール
(全寮制寄宿学校)で過ごし、
週末、私たちの住んでるロンドンに戻ってくる、
という生活をしていました。
- 伊藤
- 日本に戻っていらしたのは‥‥。
- 内田
- 2年前、母が亡くなる1年前です。
下の子が当時7歳だったんですけど、
もう少し母との時間を過ごさせたいということで。
- 伊藤
- お子さんは3人?
- 内田
- 男、女、男です。
上の2人は成人していて、
下はまだ小学校4年生。
- 伊藤
- かわいいでしょう。
- 内田
- ちょっとかわいがりすぎちゃってて、
心配なくらいです。
もう、孫のように(笑)。
- 伊藤
- 30代で産んだっていうことですよね。
- 内田
- 最初は21で産んで、最後は34です。
伊藤さんは、娘さんと一緒に住んでいないんですか?
- 伊藤
- 一緒に住んでいますよ。
- 内田
- 一人暮らししたい、とか言いません?
うちもそうでしたけれど、
自分だけがマネージするスペースが欲しいって。
- 伊藤
- うちは、言わないかな。
でも、也哉子さん、
あれしなさい、これしなさいって言わなさそう。
「うるさいな、お母さん」みたいな感じには
ならない気がするんです。
- 内田
- うーん、そうでもないです。
私の母は一回しか注意しない人だから、
私は、聞き漏らしたら恐ろしいっていうぐらい、
神経を研ぎ澄ましていましたが、
「それに比べると、あなたはしつこい」って言われます。
たとえば靴下が置きっ放しになっているとしますよね。
でも子どもに「靴下、なんでここに置いてあるの?」
って言っても、だいたい一回目なんて聞こえてない。
で、1時間後もまだあるから、「ねぇ」って言う。
結局3回くらい言ってる。
- 伊藤
- なるほど。
お母様はどうだったんですか?
- 内田
- 一度言ったら、二度は言いません。
そうしたら、もう、永遠にそこに置いてある。
自分で気がつくまで‥‥。
- 伊藤
- 「一回言ったわよね」とかじゃなく?
- 内田
- うん、もう言わないし、捨てるわけでもない。
- 伊藤
- 捨てるっていうのは、
片付けるってことですもんね。
それもしない。
- 内田
- でも、よく、外国から帰ってくると
許可なく勝手に整理されていることはありました。
私のものが半分ぐらいなくなっていたりして、
気付くと友だちが私の服を着ていて、
「也哉子のお母さんにもらったんだよ」って。
- 伊藤
- おもしろーい!
- 内田
- なので私は極力、その対極を行ったというか‥‥。
逆転の発想というか、ないものねだりがあって、
普通のお母さんになりたいという理想はあったんですけど、
やっぱりちょっと、はみ出しちゃってますね。
(つづきます)
2019-12-27-FRI