神奈川県伊勢原市で
200坪の面積で倉庫兼ショップを構える
「北欧家具 talo」。
フィンランドやデンマークの
ヴィンテージ家具を探すならここ! と、
目利きたちが注目しているお店です。
店主の山口太郎さんは、
もちまえのエネルギーと人の縁で、
27歳のとき、フィンランドとつながり、
それ以来、北欧家具ひとすじの人。
今回「weeksdays」では
太郎さんと伊藤まさこさんが選んだ
30脚のヴィンテージチェアを紹介します。
太郎さんって、どうしてこの仕事に就いたんだろう?
伊藤まさこさんがインタビューしました。
山口太郎さんとtaloのこと
山口太郎
1973年神奈川県生まれ。
北欧家具 talo(タロ)主宰。
フィンランド、デンマークから買い付けた
ヴィンテージ家具を輸入、
自社で殺菌・除菌をし、リペアして販売をおこなう。
日常的に使われてきた家具を、
高品質でリーズナブルに提供することをめざす。
taloのウェブサイトはこちら。
その3フィンランドデザイン
との出会い。
- 伊藤
- 輸入の仕事に夢破れかけた太郎さんが、
幼なじみのいるフィンランドに
3泊5日で遊びに行くことに。
そこで何が起きたんですか。
- 山口
- その幼なじみは、一級建築士の免許を取ったあと、
勉強のために大学に行っていたんです。
彼はフィンランドの建築に夢中だから、
会っても建築やデザインの話しかしないんですよ。
「このゴミ箱は誰がデザインしたんだ」とか、
「このカップは、この角度が‥‥」って。
- 伊藤
- 夢中だったのね。
まさしくその現場ですもんね。
- 山口
- そうなんですよ。
それで有名な建築を見に行こうって、
「中を見れる機会をつくったから」って
アアルト大学に連れて行かれたんですけど、
僕は全く興味がなくて。
ところが、3日間ずっと聞かされてたら、
「デザイン、カッコいいな!」みたいになって。
- 伊藤
- 3日間で(笑)。すごい。
- 山口
- それまで自分の中には
「デザイン」っていう概念がなかったんです。
ゴミ箱ひとつにしても「誰かがデザインした」なんて
考えたこともなかった。概念がなかった。ホントに。
だからそこからして新鮮でした。
- 伊藤
- 椅子一脚を、名前のある人がデザインをしてる。
たしかに不思議なことだと思ったでしょうね。
例えばカップひとつ、
デザイナーがいるっていうことに。
- 山口
- ビックリしました。
しかも、その幼なじみが詳しいから、
これはこうでこうなんだ、みたいなウンチクが
ちゃんとある。もうほんとうに驚いて。
- 伊藤
- 世界がぱあっと開きますよね。
良かったですね。
- 山口
- そうなんですよ。良かったです。
で、3日目に、インテリアショップ、
ヴィンテージ屋さんに連れて行ってもらったんです。
そこで「フィンランドに来たんだから、
俺、とりあえず、家具を買って帰る」って。
- 伊藤
- すっかりその気に!
- 山口
- そうなんですよ。
「だって、俺、デザインの国に来てるんだもん」って。
脳内イメージは、
サングラスの似合う、デザインを知ってる男が、
家具を買いに来た、みたいな。
- 伊藤
- (笑)
- 山口
- で、そのとき、口座にあったお金を全部引き出して、
50万円ぐらい持っていたんです。
それで「50万円分買う。日本に配送できるか?」
って訊いたら、「できる」って言うんですよ。
「でも、輸出は難しいんだぞ、大丈夫か?」
「大丈夫だ。何度もやったことある」って。
「配送代金、いくらだ?」と訊いたら、
「3万円だ」って言うんですよ。
山のように買ったのに。
- 伊藤
- 安い! ちょっと怪しい(笑)。
- 山口
- そうでしょう?
でもマジメそうな人間だし、
フィンランドのひとが優しいっていうのは
3日間、肌で感じていたから、
嘘をつくわけないなって。
50万円分も買ったから、サービスなのかなって思って、
任せて、帰国したんです。
- 伊藤
- 最初に買った家具は、どんなのだったんですか?
- 山口
- エーロアルニオとか、アアルトとか、
名作と言われる家具が多かったです。
ちゃんとしたいい家具でした。
木のものも、プラスチックのものもいっぱい買いました。
ところが、日本に戻って、
2か月経っても、3か月経っても、ものが来ないんですよ。
- 伊藤
- 嫌な予感‥‥。
- 山口
- そう。来るわけがないですよね、3万円で!
- 伊藤
- うん‥‥。
ダマされちゃったの?
- 山口
- まずフィンランドの幼なじみに電話したら、
行ってくれたんです。すると、
「出荷したって言ってる」。
「ああ、そうなんだ」って、
結局、半年‥‥8か月くらいかな、経っても、
ウンでもスンでもない。
これはやられたな、
「ふざけんな」ってなるじゃないですか。
若かったんで、「アジア人、舐めてんのか」って思って、
もう1回エアチケ買って、
ガラス窓を割る勢いで乗り込んだんです。
- 伊藤
- アハハハハ。
- 山口
- 冗談ぬきですよ。ホントに許せない、
少なくとも、会って文句を言わなきゃいけない。
そしたらその店主、満面の笑みで
「よく来たな~!」って、ウェルカムで。
- 伊藤
- いけしゃあしゃあと。
- 山口
- いけしゃあしゃあと。
「お前、ふざけんなよ、俺の荷物、送ってないだろう」
って言おうと思ったんです。
それはちゃんと英語を調べて暗記して。
それも、近所に住むアメリカ人に、
強い口調で汚い言葉で言いたいからって、
教えてもらった強気の英語で。
ところが笑顔で「ウェルカム」。
「前の発送したの、着いたか~?」
なんて言うわけです。
「着いてねえよ!」ってなったんですけど、
ホントに悪気がない感じなんですよ。
この人、そもそも騙す気はないぞ、って。
これはもしかしたら、時間にルーズなのかな?
こういうのを理解しないと
輸入業はできないのかな? と、頭がグルグルして。
そうしたら「また買うのかい?」。
- 伊藤
- もしや、「うん」って、言っ‥‥。
- 山口
- 言いました。
- 伊藤
- アハハハハ。
- 山口
- 「文句を言いに来た」って
言えなくなっちゃったんですよ。
- 伊藤
- えー。
- 山口
- そのときは70万円くらい持っていたんです。
貯めたお金。
で、70万円分買って、帰りました。
- 伊藤
- えっ、えっ? 届いたの?
- 山口
- 来ないんです。
待てど暮らせど。
- 伊藤
- そ、それで‥‥。
- 山口
- さすがに俺もバカだったと。
そんなことをやってたら、ダメだ。
疲れてしまって、もう諦めようと思いました。
「輸入業、もう諦めた」ってホントに思ったんですよ、
心の底から「サラリーマンになろう」って。
そうしたら、突然「荷物が届いてます」って
税関から電話が家にかかってきたんですよ。
「すごくたくさんあります」って。
第一弾と第二弾が一緒に来たんですね。
だから、「あいつ!」と思って。
おそらく、二度目に行ったときには、
まだ出してなくて、
また買ったからまとめて送ったんだと思います。
- 伊藤
- ほんとうに、騙すつもりはなかったのかな?
- 山口
- ちょっとそう思いますよね。
ところが、荷物の中に、
買った覚えがない、いろんなオマケが
入っていたんですよ。
頼んでない家具が5、6点。
けっこうな額ですよ。
それで「まあいいか」と。
それをさっそく父のリサイクルショップに並べたら、
今度は都内のインテリアショップのオーナーの人たちが
買いに来てくれました。
飛ぶように売れちゃったんです。
- 伊藤
- すごい(拍手)。やっと、今の仕事につながりました!
そのフィンランドのショップの人とは?
- 山口
- さっそく3回目のフィンランドです。
オーナーに「おまえ、半分騙したな!
これからお前は俺のパートナーだからな!」つって、
結局その彼と10年間、仕事で組みました。
それでわかったのは、
そいつは、審美眼もあるし商売は正直にやってし、
人を騙そうと思ってはいないのに、
結果的には騙しちゃうことになる、
っていう、いちばんたちの悪い人だったんです。
- 伊藤
- ああ。
- 山口
- 熱意もあるし、真剣味もあるんだけど、
結果的に平気で「金払えないんだよ~」ってなる。
たとえば、400万円のクルマがほしい。
手元には100万円しかない。
まず100万円借金して200万円になった。
さらに200万円のローンを組んで、
400万円のクルマが手に入った。
すると「お金がないから返せない」。
ひどいでしょう?
その反面、それ以外のものを持ってる人だったんですよ、
取引の仕方とか、ものの見方とか、
センスが抜群だったのは間違いないし、
何よりもアクティブだった。
27、8で英語もろくに喋れない僕を、
結果的にデンマークに引きずってってくれて、
トップディーラーに紹介してくれて、
スウェーデンに行って、
またいちばん大きいディーラーさんに紹介してくれて。
彼のおかげですごく広がっていったんです。
この人の元にいたら、俺、強くなれるなって思って、
結局、10年仕事をしました。
最後は彼がスイスに移住することになって、
パートナーは解消することになったんですが。
そいつに学んだことが、今の仕事に
大きく影響しているのは確かです。
- 伊藤
- すごいですね。
お母さんのひと言がきっかけで。
(つづきます)
2020-02-11-TUE