“ねむきゅん”こと夢眠ねむさんが経営する書店
「夢眠書店」を、伊藤まさこさんといっしょに訪ねました。
対談のテーマは「下着」。
世代のちがいで下着に対する感覚のちがいはあるのかな?
と考えてのテーマ設定だったのですけれど、
なにしろ「ねむきゅんに会いたかった!」
という思いの強かった伊藤まさこさん、
話はずいぶんと、あっちへ行き、こっちに戻り、
アイドル時代の話や二人暮らしの話などをぐるり。
でも、結局、ちゃんと下着の話になりましたよ。
アイドルを10年続けたねむきゅん、
いま、暮らしもファッションも
「リスタート」の時期みたいです。
全7回で、おとどけします。
夢眠ねむさんのプロフィール
夢眠ねむ
三重県に生まれる。
年の離れた姉の影響で「渋谷系」の音楽が好き。
小さい頃からの夢である広告デザイナーを目指し、
多摩美術大学に進学したが美術家に転向。
2009年、アイドルグループ、でんぱ組.incに加入。
2019年1月にでんぱ組.incを卒業。
2019年3月に芸能界を引退した後は、
東京・下北沢にて、
“これからの本好きを育てる書店”、
「夢眠書店」を開業した。
「ほぼ日」では2019年「好きなものを集めたら
PARCOができた。」に登場。
その2なぜ本屋さんに?
- 伊藤
- アイドルから本屋さんになるって、
どういうことだったのかな。
もちろんファンの人たちは知ってると思うんですけど、
あらためて教えていただけたら。
- ねむ
- もともと、私、美術家になりたくて、
大学のために上京してきたんですね。
そのときは、アイドルになるなんて、
1ミリも考えてなかったんです。
- 伊藤
- 世間がほっとかなかったのかなぁ。
- ねむ
- そんなカッコいい話じゃないです(笑)!
でも、表現って、なんだろう? って行き詰ったんですね。
自分で好きな作品を発表して、満足してるって、
意味はあるのかな? って思っちゃった。
そのとき、ちょうど流行っていたメイド喫茶に
行ったことがあったんですね。
そうだ、あそこにもう1回、行ってみようと思って、
行ったら、これは説明書きがない芸術だなと思って。
自分はご主人様、お嬢様。
向こうはメイド。
お互いどんな立場かが説明なしに分かって、
帰るときに幸せな気持ちになってる。
これって、すごいインタラクティブアートだ!
って思って、そこから、研究をし始めたんです。
- 伊藤
- 研究?
- ねむ
- 秋葉で、メイドになったんです。
- 伊藤
- そんな人、いないですよ!
- ねむ
- はははは。
人によっても違うと思うんですけど、
目の前にいる人を幸せにするっていう使命で
やってるメイドが多いんです。
普段はできない「非日常」を提供して、
楽しかった、現実もがんばろう!
っていうことを提供している。
- 伊藤
- そうか。バイトとして割り切るんなら、
普通に働けばいいわけですもんね。
それをあえてメイドになるっていうことは、
究極のサービス業というか。
- ねむ
- そう。好きで、好んで、選んで
メイドをやってる子は、なにかしら、
エンタメの気持ちでやっている。
もちろんかわいいお洋服が着たい、
そういうきっかけの子もいるんですけど、
けっきょくそれだけじゃ続かなかったりする。
私も入ってみたら、すごく楽しくって。
学校そっちのけで
「萌え産業」について調べたりしちゃって(笑)。
- 伊藤
- 萌え産業。グッときます。
心つかまれまくり(笑)!
- ねむ
- (笑)それで、メイドを辞めた後に、
「秋葉原ディアステージ」ってお店で働いた時に
「アイドルにならない?」って言われて。
まあ、人生1回だし、
1曲で終わるって聞いていたので、
記念にと思って始めたら、
10年続いた、っていう感じです。
- 伊藤
- 10年!
- ねむ
- はい、10年です。
アイドルをしていたときも、
元々、本が好きだったりして、
日販(日本出版販売株式会社)っていう
書籍の取次さんの主宰するネットで
連載をやらせていただいたりして、
「やっぱり、本、好きだな」って再確認しながらでした。
その連載は「私が本屋をオープンするなら」
っていう仮の設定で連載してたんですが、
だんだんその気になってきて。
「あ、本屋やりたいなぁ」って。
一生、アイドルはやらないかもしれない、
というか、やれないと思っていたので。
やっぱり体力的にも。
- 伊藤
- 例えばアイドルから、女優さんになる人はいますよね。
- ねむ
- セリフが5文字しか覚えられないんですよ(笑)。
- 伊藤
- 5文字‥‥(笑)。
- ねむ
- 「ありがとう」しか言えないです(笑)。
- 伊藤
- 「愛してます」だと‥‥。
- ねむ
- も、ギリ、ダメ(笑)。
「愛して『る』」だっけ?
「愛して『ます』だっけ?
みたいになっちゃう。
元々が芸能を目指してなかったのが、
「でんぱ組.inc」だから続けられた。
芸能は、すごい経験をさせてもらって
ありがとうございました、って感じで、
10年を閉じました。
そして、自分で生きていくなら、なにがいいかな?
ていうときに、やっぱり本屋さんがやりたいなって。
- 伊藤
- 本が好きっていうのもあるでしょうけれど、
ねむきゅんは文を書いたり、絵を描いたり、
本にもなるけれど、
本にする以外の表現もできるじゃないですか。
- ねむ
- そうですね。
- 伊藤
- でも、やっぱり、本が好き?
- ねむ
- 本屋っていう場所がどんどん減っているということに、
ショックを受けて。
自分も本をネットで買いますけれど、
本屋がなくなっているという現実を目の当たりにして
「うわ~」って。
気づいてなかったんですよ、
多くの人が本屋に行かなくなってるって。
周りの友達や、自分がそうじゃないから‥‥。
- 伊藤
- 行きます?
- ねむ
- わたしは、行きます。
- 伊藤
- 確実に、自分も、本屋に行くことが
減ってるような気は、する。
- ねむ
- そう、減っているんです。
私たちには、いつでも本が好きだった記憶があるから
また本を手に取れるけど、
本屋が減っていったら、ちっちゃい子たちって、
本屋さんに行って楽しかった思い出が
なくなるんじゃないかなと思って。
- 伊藤
- たしかに、触れる機会が減ってますものね。
ここには、ちっちゃい子がうれしそうに
過ごせる場所がありますね。
- ねむ
- そう、ここは、ママがホッとできるというか。
書店に行ったときに、どうしても、
ちっちゃい子が泣いたりしてるのを、
キッて睨む大人がどうしても目に入るようになっちゃって。
それまでは、なんにも気にしなかったんですけど、
自分の周りの人たちが子どもを持って、
姉にも2歳になる子がいたりとかして、
ママたちと遊ぶようになってから、
ショックな出来事が多くなりました。
そして、子ども向けの場所はあっても、
お母さんが謝らなくていい場所は
あんまないなって思って。
本屋をするっていうのは決めてたんですけど、
そこは、子どもがいても手を離せて、
ママたちは人が作ったものを食べられる
食堂や喫茶店のような機能があって、
しかも、本も開ける。
そういう場所にしたかったんです。
それで、この形に落ち着きました。
- 伊藤
- すごくいいと思う。
- ねむ
- ママって、誰かが作ったもの食べるにも、
理由がいるようになっちゃうって聞きました。
子どもを連れて食べに出ると、
なんだか人の目が気になるって。
- 伊藤
- そもそも外に行けなくなるし。
- ねむ
- はい。でもこのお店だったら、
ちょっと子どもを転がしておいて(笑)、
ママはカウンターでひとり食べていても、
誰かが見ているから大丈夫。
そういう本屋にしたかったんです。
- 伊藤
- 子どもは好き?
- ねむ
- 全然、普通ですよ。
- 伊藤
- ん。普通だったら、
こんな、優しい空間は作れないと思います。
- ねむ
- 子どもが好きというより、
親になってる子たちが友達だったり、姉だったりする、
そのことが大きかったですね。
あんなに普通の暮らしをしてた人たちが、
急にこんな疎外感を味わって、大変になるなんて、
超ヤダ! と思って(笑)、
本屋になりました。
子どもは、大人と同じで、
仲良くできる子もいれば、
けんかしちゃうおチビもいますよ。
- 伊藤
- そうですよね。わたしも、
年齢はどうであれ、好きな人は好き。
同じですよね。
(つづきます)
2020-02-15-SAT