長く伊勢丹新宿店で婦人下着を扱ってきた
「世界一オッパイを見た魔女」こと、松原満恵さん。
彼女の接客を受けたことがあるという伊藤まさこさんは、
そのすばらしさ(魔法のよう!)に感動、
かねがね、年齢を重ねてからの下着の選び方について、
ちゃんとお話をお聞きしたいと思っていたそうです。
ということで対談のテーマは「40代以上の下着選び」。
「まだ」というかたにも、
ぜひ読んでいただきたい内容ですよ!

(写真=有賀 傑)

松原満恵さんのプロフィール

松原満恵 まつばら・みつえ

1945年2月生まれ。
伊勢丹新宿店で長く婦人肌着に在籍し、
婦人肌着コーナー「マ・ランジェリー」の
バイヤー、マネージャーを経て
2005年に定年を迎える。
そののちも、さらに10年間、勤務を続けた。
56歳のとき就任した
「ボディコンシェルジュ」は、
予約制でお客さまをお迎えし、
一対一で下着選びをアドバイスする、
伊勢丹ならではのサービス。
現在も松原さんの後輩たちが、本館3階の
「マ・ランジェリー」
ボディコンシェルジュとして活躍している。

「ほぼ日」のこちらのコンテンツも、副読本としてどうぞ。
「世界一オッパイを見た魔女。」
「やさしいおっぱい、なりたいおっぱい。」

その1
40代からの下着選び。

伊藤
松原さん、
お越しくださってありがとうございます。
松原さんに下着のこと、
いろいろ教えていただきたくて。
松原
こちらこそ呼んでいただいてありがとうございます。
40歳以上ってね、
下着に関心が高くなる年齢なんですよ。
伊藤
たしかに40代になると、
誰かにアピールするためじゃなく、
自分のために下着を揃えたい、
という人が増えますね。
自分を大事にしたいっていうか、
自分のことに気が向く歳ってことですよね。
松原
そうですね。
40代は人生にとっても、
女性の身体にとっても、分岐点です。
青春を謳歌している20代、
恋愛、結婚、出産などを経験する30代。
そして子育ての一段落した人、
社会人として心にも経済的にも余裕が出来る人など、
公私のバランスがとれる40代。
女性にとって40代は人生の中での
大きなターニングポイントともいえます。
伊藤
そうかもしれないですね。
松原
それと、また、
女性の身体のサイクルをつくっている
女性ホルモンの働きが減退しはじめ、
30代後半からは大幅な体重増加や
体型変化が見られます。
40代、50代、年を重ねて、
今は人生100年時代ですので、
いくつになっても若々しく輝けるために、
女性の身体の変化に寄り添える下着を選び、
身も心も充実した人生を送ってほしいと思います。
伊藤
子育ての時期は、
下着より先に、することがあるんですよね。
松原
そう。だからもう、パッと着られて脱げる、
ユニクロさんのブラキャミソール的な下着に
人気が集まるんだと思いますよ。
伊藤
たしかに、いま、ファストファッションの下着って、
すごく安いですし。
松原
安いです。しかも優れてますよね。下着に限らず。
デパートで売ったら2900円ぐらいするものが、
1000円で売っていたりする。
下着は洗濯が激しいじゃないですか。
すごくいいものを持っていても、
おんなじくらいには、洗濯するわけだから、
そういうものが欲しくなる気持ち、わかります。
伊藤
いい下着も、手洗いをするのかと思うと、
くじけそうになりますよね。
かといってクリーニングに出すわけには、いかないし。
松原
ユニクロさんが席巻しているのもわかりますよね。
よく言われている言葉で、
25歳がお肌の曲がり角、
35歳が体の曲がり角。
だいたい38歳を過ぎたあたりで、
体が衰えはじめるのを実感しますよね。
伊藤
分かります。
ほんとに、38の時、実感しました。
あれれ? って。
松原
そのとおり。
伊藤
そのあとは、どんな感じですか?
松原
そのあと、もうどんどん下降線ね。
伊藤
ほんとに‥‥?!
松原
40代~50代の身体の変化として、
体型や体質の変化が実感され始める頃です。
それは女性の閉経が、
個人差はありますが50歳頃、
その前後の5年間、
だいたい45歳から55歳が更年期で、
筋肉や脂肪は量も質も変わります。
体型、体質、感覚の変化が出てきて、
いままで着けていた下着があわなくなります。
60代以上は、骨格や呼吸、体質などが変わってきて、
体型を変えてしまったりします。
でもフランス人作家のミレイユ・ジュリアーノさんの本、
『フランス人の40歳からの生きる姿勢』に、
女性のピークは65歳であり、
年寄りとは90歳以上のことで、
年をとることは
いいことがたくさんあると書かれています。
今日は、40代以降のみなさんに
着てほしいなと思うものを持ってきました。
自分で着けようかなと思って買ったものなんですけども、
もちろん未着用でございますよ。
着用済みだったらドキッとしちゃうものね。
伊藤
松原さん、可笑しい(笑)。
‥‥わぁ、素敵!
松原
見ていただきながらのほうが、
いいかなと思って。
伊藤
伊勢丹時代には、
すごくたくさんの女性の裸を
ご覧になりましたよね。
松原
ええ。もうほんとうに。
伊藤
バストの話をすると、たとえば同じCの70でも、
体の厚みとか、かたちが、
人によってぜんぜん違うんですよね。
松原
そうです、ええ。
女性の下着のサイズがどれだけあるかっていうのを、
外国と日本で比較してみましょう。
日本、アメリカ、ヨーロッパ。
‥‥たとえばイタリアは、
1、2、3、4、5、6、7、
8まであるんだけれど、
日本に入ってるのは、4ぐらいまでなの。
なぜかというと、いろんなものを入れちゃうと、
パンクしちゃって、お店が潰れちゃうので、
輸入物は、せいぜい4くらいまでしか入ってないんです。
でも、作ってるのは、6、7、8まであって、
そういうふうに大きなほうへの幅はあるけれど、
刻みは、かなりざっくりしているんです。
いっぽう日本の下着はサイズがこまかく、
2.5㎝刻みくらいで揃っている。
だから日本の人たちっていうのは、
ちょっときついわとか、ゆるいわって感じても、
なんとか合うサイズを見つけることができるんですね。
逆に言うとわがままがとおるということです。
伊藤
日本と比べて、海外ブランドの下着って、
ブラジャーでもカップがしっかりしてる感じは、
イメージに、ないんです。
松原
ボディメイクをしているブラジャーもありますが、
日本に輸入されているものが少ないのかもしれません。
伊藤
わりと、おおらかですよね。
あんまりパッドも入ってないし。
松原
そうです。海外では下着って、
きれいな胸に、ふわっとのせるだけで形がつくられる。
バストのかたさによるんですけれど。
ただ、そういうタイプも、あったらいいなと思いません? 
こういうタイプの下着も、高いものばかりではないし、
これを着けることでちょっとエレガントな
気持ちになるんじゃないかな、っていうふうに思う。
伊藤
はい。やっぱり素敵ですね。
松原
いっぽうでね、
これはふだん私の使っているタイプなんですが、
「なんにもない」タイプ。
伊藤
なんにもない? 
あ、ほんとだ! 
ワイヤーも入っていませんね。
松原
すごく楽なんです。
伊藤
これ、ラ・ペルラなんですね。
松原
ラ・ペルラが
レースだけだと思ったら大間違い。
これ、ほんとに、すごくいいですよ。
白と黒とベージュがあるんですけども、
その3色を持っていればいいと私は思ってます。
ずっとそれを使っている。
ところが。
伊藤
ところが?
松原
飽きちゃうんですよ。
そうすると、レースのものを着ようかなと思う。
そんなときにはこれ。
伊藤
ああ!
松原
飽きちゃう、っていうよりも、
そればっかり使ってると、
だんだん、どうでもよくなっちゃうんですね。
やっぱり、下着って、
着替えるとき、一番最初に肌につけるから、
つけた時、「あっ!」って気分が上がって、
じゃああの洋服を着ようとか、
そんなふうに思える。
それが大事なんです。
伊藤
まさに!
松原
これだったら、黒でツルンとしてるから、
透けて目立たないような色を着よう、
だったらあの洋服を着よう、っていうようにね。
次のステップの夢が描けるようなものが
いい下着だと思うんですよ。
伊藤
確かにそうですね。
松原
ですから、そればっかり着てると、
慣れになっちゃうんです。
だからこうやって、混ぜこぜにしておく。
伊藤
じっさいに松原さんにも、
「どうでもいいわ」っていう時期があったんですか?
松原
じつは若い頃はずっとそうでした。
お化粧もそう。苦手だった。
下着は、あんまり胸がなかったもんですから、
ブラジャーはつけてもつけなくても、おんなじかな、
なんて思っていたんです。
でもこうやって、コンシェルジュとして、
お客様と接するようになった時、
「松原さんは、どういうのを着てるの?」
と聞かれるようになった。
そのとき、私が何を着ているのか、
確固たるものを持っていないと、
説得力がないと思われるんじゃないかなと、
いろんなタイプのものをつけてみよう、となりました。
伊藤
それは、お客様から、
実際、聞かれたりもするんですか?
松原
もう、すごく、聞かれます。
「見せてくださる?」って。
伊藤
そういえば松原さんの接客は、
初めてでも、すごく距離が近いですよね。
普通に試着していただいたのを見て「いいですね」、
っていうんじゃなくって。
もういきなり、裸の関係になる。
松原
だってお客様が裸になって
着替える覚悟でいらっしゃるのに、
こちらが構えちゃうと、
あちらも構えちゃうと思うんですよ。
ですから、気持ちは裸同士で付き合ってないと。
伊藤
そうなんですよね。
だから、着替え終わってのあのひと言、
「よろしいですか?」っておっしゃる時、
一気に距離が縮まるんですよ。
物理的にもそうだけれど、
心理的にも松原さんがすごく近い存在になる。
松原
そうですね。
(つづきます)
2020-03-28-SAT