長く伊勢丹新宿店で婦人下着を扱ってきた
「世界一オッパイを見た魔女」こと、松原満恵さん。
彼女の接客を受けたことがあるという伊藤まさこさんは、
そのすばらしさ(魔法のよう!)に感動、
かねがね、年齢を重ねてからの下着の選び方について、
ちゃんとお話をお聞きしたいと思っていたそうです。
ということで対談のテーマは「40代以上の下着選び」。
「まだ」というかたにも、
ぜひ読んでいただきたい内容ですよ!
(写真=有賀 傑)
松原満恵さんのプロフィール
松原満恵
1945年2月生まれ。
伊勢丹新宿店で長く婦人肌着に在籍し、
婦人肌着コーナー「マ・ランジェリー」の
バイヤー、マネージャーを経て
2005年に定年を迎える。
そののちも、さらに10年間、勤務を続けた。
56歳のとき就任した
「ボディコンシェルジュ」は、
予約制でお客さまをお迎えし、
一対一で下着選びをアドバイスする、
伊勢丹ならではのサービス。
現在も松原さんの後輩たちが、本館3階の
「マ・ランジェリー」で
ボディコンシェルジュとして活躍している。
「ほぼ日」のこちらのコンテンツも、副読本としてどうぞ。
●「世界一オッパイを見た魔女。」
●「やさしいおっぱい、なりたいおっぱい。」
その3心で選び、心で着る。
- 松原
- サイズのことで、
伊藤さんにお話しようと思ったことがあるんです。
これ全部、私のものなんですけれど、
サイズ、ずいぶんちがうでしょ?
- 伊藤
- ほんとうですね。
- 松原
- なぜかっていうと、
サイズは、目安だから。
数字にしばられないでね、
という意味ですけれど。
- 伊藤
- はい。
- 松原
- これは、ぴったり入る。
これだって、ぴったり入る。
それから、これも。
数字だけじゃないんですよ。
接客をしてきて思うのは、
「これ!」と決める瞬間に、
サイズは関係がないということです。
いくらわたしが一所懸命しゃべっていても、
その人が自分で決めます。
決めますっていうよりも、
体が決まっちゃってるみたいなの。
顔が変わります。うっとりするんですよ。
- 伊藤
- ええっ?!
- 松原
- ほんとに、ほんとなの(笑)。
顔が変わる。
だから最後に決めるのは、
私のアドバイスではなく、
やっぱり自分の心と体です。
- 伊藤
- 伊勢丹の試着室って、
全身の三面鏡じゃないですか。
あれは、自分を知る、恐ろしい機会です。
- 松原
- そうそう。
- 伊藤
- こんな後ろ姿なの?! って。
- 松原
- そうです、そうです。
恐ろしいですよ。
- 伊藤
- あそこはね、ほんと恐ろしいです。
それで、ためらっちゃって、
やめたりすることもあって(笑)。
あんまり素敵すぎるとね、
この素敵な下着に自分がついていけてない、と思って、
やめることもありますよ。
- 松原
- でも、これはダメだと思っても、
いくつか着るとね、
絶対、妥協点が見つかりますよ。
色を変えてみるとか。
眩し過ぎる、若すぎると思ったら、
すこしダークな色にしてみると、
しっくりくることもあります。
ですから、いろんなものを試すっていうのは、
ぜひやっていただきたいことなんです。
- 伊藤
- 最初にしっくりこなくても、
必ず、顔がパアっとなる瞬間が訪れるんですか。
- 松原
- どんな人でも、自分で決められる瞬間が来ます。
- 伊藤
- 伊勢丹新宿店のあのコーナー(マ・ランジェリー)に
足を踏み入れるということに、
第一段階があるような気がしますね。
- 松原
- 簡単です。電話で予約して
来店してくださるだけです。
直接ご来店の際は、
ランジェリーコンシェルジュにお願いしますと
言ってくだされば良いです。
ただ、直接の場合はお待ちいただくことに
なるかもしれません。
- 伊藤
- うちの娘も、伊勢丹の地下2階の
基礎化粧品売り場には行きやすいけど、
1階のいわゆるブランド化粧品フロアは、
「ママ一緒に来て」って言います。
そういう感じかもしれませんね。
下着売り場は、ちょっとドキドキする。
足を踏み入れるとき。
- 松原
- 私も、化粧品売り場って苦手だったんですよ。
なぜかっていうと、バアーっとみんな寄ってきて、
「どうしましょう、どうしましょう?」
っていう感じでしょう?
- 伊藤
- そうなんですよね。
全然分からないから、
すすめられるままに買ったり。
- 松原
- 昔はね、化粧品と下着売り場って、
悪の売り場だったのよ。
- 伊藤
- 悪(笑)!
- 松原
- お客様が入ってくると蟻地獄だって言われていたの。
ようするに、逃げられない、助けて!
っていう売り場だったのね。
もちろん大昔の話ですよ。
でも蟻地獄じゃいけないということで、変革があり、
ボディコンシェルジュという職種もできたんです。
こういったものが欲しいという
お客様の声をちゃんと聞きましょうって。
- 伊藤
- 松原さんは、お客様に、
まずどんな質問をするんですか。
- 松原
- 「どういう胸になりたいですか?」って。
- 伊藤
- そんなこと、考えたこともありませんでした!
- 松原
- もちろん最初は「なにをお探しですか?」から聞きますよ。
そうするとね、
「結婚式のときにウェディングドレスの下に着たい」とか
「下着が古くなっちゃったので、新しいのを」とか、
いろんなふうに返ってきます。
でもね、下着売り場にいらっしゃるお客様が
望んでいることっていうのは、ただ、ひとつ。
「着て、わぁ、素敵だ! と思うものが、欲しい」
ということです。
- 伊藤
- そうですよね!
- 松原
- でも、そんなふうには言えないじゃないですか。
- 伊藤
- たしかに、そういうふうには言えませんね。
- 松原
- ちょっと恥ずかしいしね。
だから、一所懸命聞いて、
全部で3枚を望んでいるとわかったとしますね、
そして「ふだん用に白が1枚と‥‥」とおっしゃったら、
ほかの2枚は、仕事用、遊び用っていう提案を
入れてあげるんです。
そうすると、ドンピシャじゃなかったとしても、
それがヒントになって次のステップに進めるんですね。
- 伊藤
- 仕事の時は、こういう感じとかって、
あるんですね。
- 松原
- それもいろいろなんです。
一日デスクワークをするから
楽なのがいいという場合もあれば、
人前で話をするから、
精神までキチっとするようなタイプが
いい場合もありますね。
- 伊藤
- そっか、立場やシチュエーションで違いますよね。
人を管理する仕事で、上に立つ女性だったら、
キリっとしていたいかもしれないし。
- 松原
- そう。いろんなお客様に接してきて、
つくづく印象に残っているのが、
会社をひとりで立ち上げたばかりの方。
ところがその方の接客をスタッフがみんな怖がって、
私が担当することになったんです。
勧めるブラジャーをどれもこれも、
「合わない」ってはねつけてしまうのね。
しかも、試着姿を見せてくれないから、
どう合わないのかがわからないんです。
- 伊藤
- 合わない、としか、言わないんですね。
- 松原
- 「どこが合わないのか、見せてください」
と言ってもダメなんです。
ほんとにもうどうしようもなく怒っていらして。
でもね、分かったんです。
その人は私たちにサイズを選んでもらうことを
望んではいないと。
- 伊藤
- どういうものを、望んでいたんですか?
- 松原
- その方は、アンダー80だったんですが、
70を着たいとおっしゃるんです。
ふつう、80の人が70を着けたら、
お肉がボコっとするからおかしいんです。
ところがその方は「70でいい」と。
でも、わたしは、ようやくその方の試着姿を
見せていただいて、こう思いました。
「それで、いいんだ」と。
その人の言ってることは間違いないと。
なぜかというと、合うんですよ、70でも。
- 伊藤
- それは、気持ちの問題ってことですか?
- 松原
- 気持ちです。
見方によってはね、もちろん、
多少はお肉は出てますよ。
でも、気持ちが70なんです。その方。
- 伊藤
- ええ。
- 松原
- ほんとに心で着ちゃうんですよ。
70を着けたときのほうが、
その方らしさが出るんです。
そうか、下着は心で着ればいいじゃないかと、
その時、ほんとにそう思いました。
- 伊藤
- そっか、心で着る。
- 松原
- 自分にも思い当たることがありますもの。
私は、痩せていて、
アンダーが68ぐらいしかなかったんですけれども、
75のブラジャーが好きだったんです。
私も、心で着ていたんですよ(笑)。
とくに、日本のブラジャーっていうのは、
寄せて、上げてですから、
非常に乳間が狭くできています。
サイズは、ほんとに目安で、
実際はサイズが75のブラジャーも
そのまま測ったら67ぐらいしかないものもあります。
そういうものは、ちょっと小さめを選んで、
着るときに伸びることで、ぴったり合わせるんですね。
それは商品によっても全然違う。
- 伊藤
- 試着に行った時、
その「顔が変わる」ようなぴったり感のほかに、
チェックしておくべきことってありますか。
- 松原
- まずバンザイしてください。
それから、腕をふって、
2、3歩、歩いてみてください。
サイズの合ったブラジャーなら、
ぴったりくっついているんですけれども、
その動きで、絶対、緩みますから、
少しはズレるんです。
そのズレが気持ち悪いものだったら、
そのサイズはやめたほうがいいですね。
(つづきます)
2020-03-30-MON