伊藤まさこさんと「ほぼ日」がつくる
あたらしいネットのお店「weeksdays」。
2年ほど前から計画をスタートしたこのプロジェクトが、
ようやくこの7月にオープンのはこびとなりました。
週に何日も(ときには平日毎日!)「ほぼ日」に詰めて、
計画をすすめてきた伊藤さん。
開店の日が決まってすぐに
伊藤さんは糸井の部屋をたずね、
「糸井さん、ここまで、できました」と報告。
そのときの2時間ほどのおしゃべりを、まとめました。
伊藤さんがどんな気持ちで
このプロジェクトをはじめたのか、
「weeksdays」のバックグラウンドが
なんとなくわかっていただける対談です。

その2
「いいなあ」像が、その人をつくる。

伊藤
個人の作家でも、大企業でも、
いいものをつくっていて、
いっしょにつくりたいものがあったら、
断られてもいいから、
おそれず声をかけようって決めたんです。
糸井
「ほぼ日」のやり方と似ていますよ。
すでに価値を認めあってるんで、
あとはなるべく平らにやりましょう、みたいな。
認めていない人に頼まないしね。
伊藤
そうですね。大企業の場合、
その会社の人がどういう人か、
どういう方針か分からないけれども、
使っていて、ものがいいのは確かならば、
それをつくっている会社の人は
きっと分かってくれる! 
と思って出かけています。
皆さん、ほんとうに素晴らしいんですよ。
温かく迎え入れてくださるし、
おもしろがってくださるし。
糸井
うん、よかった。
「weeksdays」でまさこさんが扱うものは、
衣食住、全部ですよね。
伊藤
はい、そうなんです。
糸井
「何が流行でカッコいいか」
というようなこととは、
まさこさんって、全く関係ないでしょう?
だから、おもしろいんです。
「だって、いいものは、いいじゃない?」
そう言えるんだもの。
伊藤
たしかに、何が新しいとか、
次は何が来るとかは
あまり考えたことはありません。
そういう歳になったのかなあって
思うんですけれど‥‥。
糸井
いやいやいや、歳じゃなくて、
そういうふうに生きたいと
最初から思っていたんじゃないのかな。
例えば、まさこさんが仮に
誰かすっごく新しいもの好きの人に会っても、
なんにも批判をしないはず。
たぶん、そんなことは、どうでもいいでしょう?
伊藤
はい。
糸井
でも、そういう人同士が会ったら、
「え、それまだ着てるの?」って、
なると思うんです。
「それ古いよね」
なんて言い合うお友達同士で狭い場所にいると、
「え、そうなの? じゃあやめようか」
みたいになって、いつも自信がなくなる。
でもまさこさんは
そういう競争から外れているんだ。

内田鋼一さんと伊藤さんが立ち上げた「鋼正堂」のお皿。

伊藤
わたしはたぶん、
ただの“おもしろがり”だと思うんです。
そして、気分良く生きていきたいと思っている。
それで全部の事柄が──自分の生活が、
進んでいるような気がするんです。
よどんだ場所は好きではないし、
着心地の悪い服は着たくない。
掃除や片づけも、
そうしたほうが気分がいいから、
しているだけなんですよ。
糸井
でも同時に、人が
「そんなこと、やめてほしいなあ」
って思うようなことはしていないよね。
ポイントはそこじゃないのかな?
したいことばっかりしているのに、
同時に人が嫌がらないのは。
伊藤
そうなのかな?
ご迷惑をおかけしてませんか。
糸井
「この人はワガママ放題だから楽しいんだね」
って、人は思うかもしれないけど、そうじゃないよ。
伊藤
わたし、たぶん、
ちょっと動物っぽいんだと思います。
日の出とともに起きるとか、
食材の具合を嗅ぎ分けるとか。
その感覚で「これはいい」「これは嫌」
って言ってることが、
みんなに、「あ、そうそう」と
受け入れてもらっているんじゃないのかな。
糸井
でもさ、動物って、生まれっぱなしで、
ちょっとずつ学んでいったことは
蓄積されてるんだけど、
作法とか知識とかってなくて、
だから衝突もする。
いわゆるワガママな人が
「わたし、動物的だから」っていうのとは、
まさこさんは全然違うと思うよ。
誰かに教わったことが結構あるんじゃないかと思う。
母なり、祖母なり、父なり。
まさこさんが母もなく生まれて、
天から降ってきて、
こういうふうになったとは言えないわけだからさ。

じつはぼくは今日、ちょっとしたことで、
「自分はちょっと騙されてる側に回るくらいで
バランスがいいのかもしれない」って思ったの。
なんで自分はそんなことを
思うようになったんだろうって、ふっと考えたら、
そう、祖母に言われていたんだよ。
少年の頃に言われたことが、
70歳の手前になって腑に落ちたんだ。
伊藤
母のおおらかさっていいな、と、
育てられながら、思っていました。
この前、サニーレタスを買ったら、
ちっちゃいカエルが入っていたんです。
ちょうど実家にいたので、母を呼んで、
庭にふたりで逃がしてあげたんですね。
お店で買った野菜に
虫やかたつむりやカエルが入っていても、
わたしは気にしないし、騒ぐこともない、
まあ、そういうこともあるさ、と思う。
その感覚はまさしく母の影響です。
糸井
「いいなあ」像が、その人をつくるんだね。
あっこちゃん(矢野顕子さん)も同じだよ。
伊藤
矢野さんも、ご自分のしたいことが強くあって、
それを実行なさっている。
そして、みんなからすごく好かれていますね。
糸井
あっこちゃんはそれこそ動物ですよ。
動物だけど、大丈夫なのは、
ラインが引かれてるっていうか、野放図ではない。
それはひとりで作ったものじゃないと思うんだよね。
彼女のお母さんはものすごく厳しく、
武士みたいな人だったっていう。
いっぽうお父さんはものすごく優しいんだ。
その中で彼女ができていったんだと思う。
何がキレイか、
何がカッコいいかって思えるのは、
キレイなもの、カッコいいものを
見せてくれた人がいたからだよね。
それを守りとおしたのは本人の努力だけれど。
伊藤
そうですね。
「この人好きだな」って思う人のことは真似て、
「これ苦手だな」って思うことは真似しない。
その積み重ねな気がします。
うちは、きちんとするところはする、
おおらかなところはおおらか。
決して神経質ではない感じでしたよ。
母からも、父からも、
人と比べられたことが一度もありませんでした。
「誰々はどうだから、こうしなさい」
と、言われたことがありません。
糸井
厳しいのを売り物にしちゃうと、
人を責めるものになっちゃうからね。
伊藤
その父を見送ったときの話なんですが、
父が亡くなってすぐ、病院に葬儀屋さんが来て、
○○コースはいくらですとか、
戒名はいくらですとか、
ボーッとしているあいだに、
どんどん、ことが進んでいったんです。
そうしたら姉‥‥長女が、ふと、こう言って。
「そもそもパパは信心深くなかったんだし、
知らない寺でお葬式をあげて、
わたしたち、いいの?!」
さすが長女! と思ったんですけど。
糸井
ハッと気がついたわけだ。
伊藤
はい、それでみんなも「ハッ!」となって、
結局、葬儀屋さんには頼まず、
父を家に連れて帰りました。
リビングルームを小さな会場にして、
長女がお花をたくさん飾り、
父の好きだったシャンパンの大きい瓶を用意して。
ほんとうに仲のいい人だけにお伝えし、
3日間、オープンハウスにして、
いらしてくださった人にシャンパンをふるまって、
父の思い出を話し、ゲラゲラ笑ったり、
泣いたりして過ごしたんです。
それが伊藤家のお葬式でした。
糸井
そいうことがね、全部、実は、繋がってるんだ。
それはもう、まさこさんのラッキーな部分なんだよ。
もらってるものの大きさが、すごいと思う。
伊藤
ほんとですねえ‥‥。
長姉が10(とお)離れていて、
次姉は7つ離れている、
そういう環境も良かったのかもしれませんね。
糸井
うん、それも良かったんだと思う。
それが、まさこさんが、
押しつけがましくなく、人が
「あ、いいな」と思えることが、
できている、おおもとにあると思う。
伊藤
ずーっと、すばらしい大人が、周りにいたんですよ。
糸井さんももちろんそのひとりです。
糸井
無理に入れなくてもいいよ!(笑)
(つづきます)
2018-07-09-MON