心がゆたかになる化粧品をめざして、
肌が敏感な人にも使える製品を開発してきた、
OSAJIのディレクター、茂田正和さん。
今回、「weeksdays」といっしょにつくった
フェイシャルトナーとボディゲルについて、
スキンケアの観点からお話をききました。
ベテランの茂田さんにしてみても、
伊藤まさこさんとのコラボレーションは、
「むずかしいけれど、面白い」こころみだったそう。
結果として、とてもいいものができましたよ。

茂田正和さんのプロフィール

茂田正和 しげた・まさかず

1978年生まれ。化粧品技術者、スキンケアアドバイザー。
2002年より化粧品開発に従事。
東北大学皮膚科・相場節也教授に師事し、皮膚科学を学ぶ。
2010年にスキンケア、ボディーワーク、フードなど
トータルライフスタイルから築く真の美容を広く提唱すべく
「バランスケア・アソシエーション」を発足。
多くの美容関係者とともに
セミナーやワークショップを開催。
ファッション雑誌等でも美容に関わる情報を執筆する。
2013年「子供を紫外線から守る会」を発足。
現在は化粧品開発業務と合わせ、
美容関係従事者への皮膚科学、
化粧品学分野の講師を務める。
以降、肌トラブルに悩む様々な方々に寄り添った
スキンケアブランドや専門店を開発し、
世に送り出している。
日本皮膚科学会正会員、
日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会、
日本化粧品技術者会、日本香粧品学会所属。

OSAJIのウェブサイト

その1
ストレスと肌。

──
茂田さんがOSAJIを立ち上げたきっかけについては、
以前、伊藤まさこさんとの対談のなかで
教えていただいたことがあります。
お母様が交通事故に遭われて、
その後遺症で顔や身体に湿疹ができ、
いままで使っていた化粧品では
炎症を起こすようになってしまった。
それで、肌にやさしい化粧品をつくろうと思い立ったのが、
OSAJIにつながっていったんですよね。
いま、茂田さんは、
視覚障害を持った方のための美容など、
そういう活動をされていると聞きました。
つまり鏡の中に、自分の顔は見えないけど‥‥。
茂田
見えないけれど、指の感覚で
自分の顔にフルメイクをするっていう
「ブラインドメイク」っていう技法を
編み出した人たちがいるんです。
ホントに目から鱗ですよ。
実際、視覚障害を持った方が、
自分でメイクをすることによって、
社会に出ていけるきっかけになり、
恋をして結婚する人もいる。
協会の理事長は全盲の方で、
彼女もブラインドメイクで人生がかわり、
結婚するところまで至ったんだといいます。
ある時期から視力を失った方というのは、
その時からお化粧ができなくなるわけですよ。
そうすると、怖くて当然外に出られなくなる。
だけど、自分たちの感覚でメイクができるようになると、
「どう? 変じゃない?」「似合ってるよ」と、
周りの人たちとのコミュニケーションのきっかけになり、
自分はちゃんとメイクができてるから外に出られる、
そんなふうに思えるようになるんです。
すごく素敵な取り組みでしょう?
いまはデバイスに音声読み上げ機能があるので、
メールもLINEも、全盲の方とのコミュニケーションに
使うことができるんです。
──
すごいって思いました。
茂田
そんなことをやっていると、
化粧品のこれからのあり方って、
だいぶ変わってくるなと思えるんです。
さらに、その関連団体で、
化粧とメンタルヘルスの関係を研究しているところがあり、
例えば認知症の人たちが化粧することによって
進行を少し遅らせられるのではないか、とか。
口紅を塗るだけで、脳の萎縮スピードが
遅くなるんですよ。
──
えー、すごい。
茂田
ホントに、ホントに。
──
あれは『レナードの朝』だったかな、
原題が『Awakenings』っていうタイトルの映画で、
原作はオリバー・サックスの医療ノンフィクション。
ロビン・ウィリアムズがお医者さんで、
ロバート・デ・ニーロが何十年寝て起きなかった患者さん。
そういう人がいっぱいいる病床に、
新薬を投与すると、彼らが目覚めるんです。
そうすると、若い頃昏睡におちいり、
何十年も寝ていた女性は、
目覚めたらおばあさんになってる自分を発見して、
たいへん落ち込むんですが、
お化粧をするシーンがあるんですよ。
そのときの、喜びの顔。感動的でした。
もちろん女優さんの芝居ですけれど、
ほんとうにそうなんだろうなと思って。
茂田
そうなんですよ。
──
キレイでいることって、
ものすごく大事なんだなと思ったんです。
茂田
脳科学者の茂木健一郎先生の著作に
『化粧する脳』というタイトルの本があるんですが、
他人のメイクのビフォーアフターを見ても
MRI上で脳の変化は何も起こらないんだけど、
自分のメイク前・メイク後の写真を見ると、
興奮作用が発現するらしくて。
──
ワクワクしたり、ドキドキしたり、
いいなって思ったりする気持ちが
身体に訴えかける刺激は、
人のを見るより、自分が変わるほうが、
ずっと大きいってことですね。
茂田
それが鏡を見るっていう習慣の大事さという話に
繋がってくるんです。
鏡を見て自分の変化を日々見ることによって、
脳の活性が全然変わるという研究なんです。
──
それはきっと女性だけの話じゃないですよね。
茂田
男性は髪型をセットする前とセットした後で
同じような傾向があるらしいですよ。
──
OSAJIさんは、メイク系のラインナップもありますが、
もとはスキンケアですよね。
茂田
そうですね。僕はずっとスキンケアの開発をしてきたので、
OSAJIもスキンケアが中心になっています。
──
いちばん最初に作ったのは‥‥。
茂田
化粧水と保湿ゲルです。
──
まさしく、今回の「weeksdays」のラインナップですね。
その開発にあたっていちばんポイントになったことは、
どういうことだったんでしょう。
茂田
究極的に肌トラブルを起こしたときって、
アブラが大敵になるんですよ。
経皮吸収されてしまって、
免疫系に働いちゃうんです。
経皮吸収されなかったら
免疫細胞にふれないんでいいんですけれど、
経皮吸収されるとどうしてもリスクが高まる。
──
何でも経皮吸収するんですか? 人間って。
茂田
すごくざっくり言うと、
基本的には人の体っていうのは、
水に対するバリア膜なんです。
だから、水ははじくけど、
アブラは馴染んでしまう。
だから、水溶性のものであれば
基本的に通過しないんだけれど、
油性のものだとバリアを通過してしまう。
極端な皮膚疾患を起こしてる状態では、
アブラ系のものだと悪化させちゃうので、
完全に油性の成分を一切使わないっていうコンセプトで、
最初の、母親のための化粧品を作りました。
だから「クリーム」じゃなくて、
「保湿ゲル」だったんですよ。
──
つまり、水分ははじくけど、そのはじく水を
皮膚の上にどれだけとどまらせておくか、
っていうことですか。
茂田
そうですね。
で、また不思議なもので、
人の細胞っていうのは、
再生していくプロセスの中で、
絶対に水が必要なんですよ。
細胞が機能として壊れてしまってるところを
再生させるためには、やっぱり水の力が要る。
水が届くエリアは決まってるんだけれど、
そこに水を満たしてあげることが重要なんです。
──
そういうことですか。
はじいちゃうのになって、、
半分疑問に思いながら聞いてたんです。
化粧水と保湿ゲルの役割は全然違うんですか?
茂田
角質層って角質細胞が15層ぐらい重なってて、
健康な肌の人だと上の五層ぐらいまでしか
化粧水が届かないんですね。
その下っていうのは完全にガッチリとした
バリアが働いてくるので。
その5層に水を馴染ませてあげることが
けっこう重要なケアなんです。
そこに水をしっかり馴染ませてあげることによって、
細胞がキレイに整列しなおして、
本来のバリア機能を呼び起こす。
ただ、水を一回吸っても、
急激なスピードで蒸発してしまうと、
より悪化するんですよ。
──
よく、水が乾く段階で肌が荒れると、
聞いたことがあります。
茂田
そうそう。
ただ、絶対蒸発しちゃいけないんじゃなくて、
速いスピードで蒸発してしまうと肌が荒れる方向にいく。
けど、ゆっくり蒸発するプロセスの中で
細胞が再整列するっていうロジックもあって。
だから、水を吸わせてあげるのは化粧水の役割だけど、
それをゆっくり蒸発させるプロセスのために
保湿ゲルというものが役割を果たす。
──
そういうことですか!
茂田
化粧水にも、当然、
ゆっくり蒸発するような保湿剤を入れて
処方設計をするのだけれど、
さらにそこに保湿ゲルを塗ってやることによって、
よりゆっくり蒸発するようになるんです。
──
ということは、ダブルで使うほうが良い?
茂田
ダブルで使うことは、
すごくメリットが高いです。
今回は、化粧水がフェイシャル用、
ゲルがボディ用ですから、
それぞれで使い分けていただくことで
じゅうぶんな効果を発揮しますけれど、
ボディには、重ねて使っていただいても大丈夫ですよ。
──
顔とボディって、
やっぱり違う肌だと思ったほうがいいんでしょうか。
茂田
実際、角質層の厚さという意味では、
顔は薄くて、15層もないんです。
それは外的要因で少なくなってるのか、
生態学的にもともと少ないのか、
微妙なところではあるんですけれど。
一説には、紫外線を浴びるからターンオーバーが速くなって顔の角質層というのは薄くなるという言い方もあるし、
毎日顔を洗う習慣があると、
それに伴って当然薄くなっていくっていうふうにも
考えられています。
──
どこからが「顔」でしょう。
首は身体に入りますか。
茂田
顎の付け根ぐらいからが顔ですね。
──
じゃあ、あんまり顔を洗わない文化の人たちは
厚かったりする?
茂田
厚かったりします。
そういう人たちは基本的に全般的に厚いです。
顔だけじゃなく。
あと、角質層って不思議なもので、
乾燥状態にさらされると厚くなるんですよ。
だから、いっとき「肌断食」というトレンドも
世の中にはありましたね。
肌を強くするために、一切スキンケアをやめるという。
──
えっ、それは正解なんですか?
茂田
半分正解で半分間違ってます。
実際、乾燥状態にさらされると
角質層っていうのは厚くなって強化されるんですよ。
そういう意味では正解です。
ただ、角質細胞っていうのは灰色なんですね、
だから見た目上は、
角質層が厚くなると自ずと顔が灰色側に寄る。
──
くすむ。
茂田
だから乾燥状態にして角質層を厚く、
バリア機能を強化することは当然できるんで、
それは事実だし、
健康面でいったら異物の侵入も
防げるようになるからいいんだけれど、
角質層が厚くなることによって
顔色は灰色になってくるからくすんでしまう。
だから、良し悪しみたいな。
──
茂田さんは、勧めますか? 肌断食。
茂田
土日だけやめてみる、とかは勧めます。
例えば、外に出かけなくてもいい週末だけ、とかね。
──
そうか、紫外線を浴びない日。
茂田
そう。今日は一日家にいるって決めこんだ日だったら、
一切やめてみるとかっていうのはありだと思いますよ。
その人の肌の状態にもよりますけれど。
──
甘やかしちゃうのかな? 
丁寧に丁寧にしてばっかりいると‥‥。
茂田
そういうことです。
いわゆるホメオスタシーっていうやつで、
熱ければ汗かいて体温を下げようとするのと
同じなんですよね。
乾燥状態にいたら乾燥から体を守るために
角質層を厚くして、
自分の体の水分保持能を高めようとするっていう、
体の恒常性がなすワザ。
──
化粧って、考えたら不思議な文化というか、
原始的なころからずっとあったわけですよね。
肌にいいかどうかっていうと、どうなんですか? 
お化粧って。
茂田
化粧をすること自体は、
肌にいいか悪いかで言ったら、良くはないですよね。
──
だけど、さっきおっしゃったような精神的なものや、
コミュニケーションにおいての何かとか、
それを補ってあまりある効果が
あるんだというふうに見えますよね。
茂田
うん。例えば、メイクをして精神的に充足されれば、
バリア機能が高くなるという論文も出ているし。
逆に、過度なストレスがかかると
バリア機能が落ちるという論文も出ているし。
そういう意味では、精神と肌の機能の連携っていうのは
常にありますから。
──
まず肌に出ますもんね。化粧しない男性だって、
ストレスが高かったり、あまりに忙しい日が続くと、
大人なのにニキビができちゃったり
荒れたりしますからね。
茂田
そういうとき、一番最初に起こる現象は
肌表面の菌のバランスが崩れることなんですよ。
──
肌表面に、菌、いっぱいいるんですよね。
茂田
いっぱいいます。腸内細菌と同じで、
最近、乳酸菌で腸内細菌を整えよう、
みたいなのが増えてるけれど、
例えば、コロナの影響で外出できなくなります、
家の中にいます、ストレス溜まってきます――、
そうすると、まず腸内細菌が乱れる。
腸内細菌が乱れたことによって
免疫力の低下に繋がっていく。
──
そうすると、外敵に弱くなる。
茂田
弱くなる。肌も全く同じで、
まずストレスを感じると
菌のバランスが崩れてきて、
肌は全体的なバリア機能が落ちてきて、
そうすると異物の侵入がブロックしづらくなり、
肌荒れを起こす。
──
なるほど、悪循環におちいるんですね。
(つづきます)
2020-04-05-SUN