OSAJIと「weeksdays」がつくった、
あたらしいフェイシャルトナーとボディゲル。
そのボトルづくりを手伝ってくださったのが、
イラストレーターの山本祐布子さんです。
絵を描く、という仕事だけでなく、
このボトルがどんな存在になったらいいだろうかと、
いちばん最初の段階から、
伊藤まさこさんといっしょに考えてきました。
山本さんがベースにしている、
薬草園蒸留所のmitosaya(みとさや)に伺い、
山本さんのこと、ボトルづくりのこと、
いろんなお話をうかがいました。

山本祐布子さんのプロフィール

山本祐布子 やまもと・ゆうこ

イラストレーター/mitosaya株式会社
1977年東京生まれ東京育ち。
京都精華大学テキスタイル学科を卒業後、
イラストレーターとして活動を開始、
雑誌や広告、プロダクトデザインのディレクションなど
様々な業務に携わる。
なかでも通販会社フェリシモでのものづくりは
15年を迎える。
現在は夫である蒸留家の江口宏志氏とともに、
千葉県大多喜町にあるmitosaya薬草園蒸留所の
運営に関わると同時に、
ノンアルコール部門であるお茶やシロップ、
来客にむけた料理などの担当も。
二児の母でもあり、犬、猫、鶏も世話をする忙しい日々。

山本祐布子さんのウェブサイト
mitosayaのウェブサイト
フェリシモの山本さんのアイテム

全1回
イラストレーター/mitosaya
山本祐布子さんインタビュー

東京っ子、
京都でイラストレーターになる。

──
とっても可愛いボトルが出来ました。
ありがとうございます。
山本
良い感じで出来上がりましたね。
──
ちいさなほうがフェイシャルトナー、
おおきなほうがボディゲル。
それぞれ香りが2つずつ。
山本
“Herbes”のほうは、
セージとかローズマリー、コリアンダー、
フェンネル、そしてレモン。
ちょっとさっぱりした草っぽい香りですね。
“Fleurs”は、ダマスクローズ、
ジャスミン、ラベンダー。
──
きょうは、山本さんの拠点である
mitosaya(みとさや)という
薬草園蒸留所にうかがっているんですが、
まさしくこの環境とイラストレーションが
ぴったり合っている印象があります。
「weeksdays」はもちろん、
「ほぼ日」でもはじめて組ませていただいたので、
山本さんがどんな方なのかを
おしえていただきたいなと思っているんですが、
mitosayaのウェブサイトのプロフィールは、
わりと短めにキュッと書かれていて。
イラストレーター/mitosaya株式会社 取締役
mitosayaでは、ボタニカルプロダクトの開発や、フード・ドリンク全般に携わる。マップのイラストレーションももちろん彼女によるもの。京都精華大学テキスタイルデザイン科卒業。切り絵、水彩画、ドローイング等いくつかの技法を使い、装丁、広告、プロダクトデザインなどに関わる。
東京生まれとお聞きしましたが、
大学は京都なんですね。
山本
はい、東京育ちです。
京都の大学は、
東京からは私ひとりでした。その時代は。
──
そこにしかない何かがあったんですか。
山本
高校生の時に学校案内を見て、
「ここなら自分がいられるかも」って。
ほんと“感覚”ですよ。
高校時代は東京の美大を目指していて、
たとえば、武蔵美の視覚デザインのような学科を
受験するつもりだったんです。
そこで予備校に行き、受験のための
デッサンの対策をしていました。
そんななか、ちょっと立ち止まっちゃう時が
あったんでしょうね、
東京にある大学に行くのではなく、
もう少し自分らしい道はないかな? 
と思ったんです。
そして「デザインって何だろう?」と考えた時に、
自分は手を動かすような、少し工芸的なことを
やってみたいんと思い直して。
そんなふうに視野を広げた時に、
四年制大学で人文もあって、
普通の学科も学ぼうと思えば学べて、
しかもテキスタイルデザインの
専攻がある京都の学校を知りました。
その頃はなかなか珍しいことだったんです。
そういう条件がパーッと目の前に並んで、
「私、ここかも」と、決めたんです。
──
東京の人には思い切った決断!
山本
(笑)そうですね、
何かピョーンと飛びたくなっちゃったんでしょうね。
──
大学生活は、楽しかったですか?
山本
はい、楽しかったです。
──
イラストレーションを描きはじめたのは?
山本
在学の頃からチョコチョコ落書きみたいのをしていて、
友達が少しずつ増えていった中で、
「ファンジンを作るからイラスト描いてほしい」と、
描きはじめたのが最初でした。
そういうのが京都でものすごく流行った時期だったんです。
──
そういう潮流があったんですね。
山本
「京都系」とか言われていました。
そういう渦の中に私も飛び込んで、
すごく楽しくみんなで本を作ったり、
イベントを開催したり。
京都に行ったことで、
人とのつながりが出来たんですね。
──
そこから,プロフェッショナルの道へ進まれたわけですが、
大学を出て、すぐに
フリーランスでやっていく覚悟をなさったんですね。
山本
はい。自分はこういう友達の輪の中で、
ひとりでやれるんじゃないかな? って
思っちゃったわけです。
テキスタイルの勉強をいかして
工業繊維会社に行くのではなく。
──
学生時代からお仕事もなさっていた?
山本
はい。学生時代は恵文社さんに
つくったカードを置いてもらったり、
包み紙を作らせてもらったり、
友達関係でチョコチョコ仕事をもらい、
活動をしていました。
卒業後は東京に戻ってきていたんですが、
京都とのつながりは残っていたんです。
──
京都に残るという選択肢は考えましたか。
山本
気持ちは、残るのも半分、帰るのも半分でした。
でもやっぱり東京っ子だったので、
ちょっと帰ろうかなって。
──
すごくざっくり言うと、そのまま仕事が増えていって、
今に至るわけですね。
山本
はい、卒業して1、2年目ぐらいかな、
編集者の方から本の装丁のお仕事をいただいて、
そこから、ドドドッと
いろんな仕事が舞い込んできて。
画業としては、それで20年間やってきました。

「絵」から「モノ」へ。

──
今回、「weeksdays」では
山本さんにOSAJIのボトルのデザインを
お願いしたわけですけれど、
そういうパッケージの仕事も。
山本
そうですね、コンスタントにというよりは、
単発でポーンポーンとですけれど、
こういった、自分の絵を図案として
モノにしていくっていうプロセスは、
何回か経験させていただいています。
──
イラストレーション単体ではなく、
どんなボトルにしようか、
全体のトーンから相談をさせていただきました。
山本
そうですね、私自身も絵を
絵として媒体で発表する以外に、
額縁に飾って大事に絵として見てもらう、
ということだけじゃなくて、
モノとして人が手に触れて使えるものになる、
というのは、学生時代からの憧れだったんです。
そういうものとしてのデビューはマッチでしたよ(笑)。
──
マッチ? 火をつける、マッチ?
山本
はい。甲斐みのりさんという、
文筆家としてご活躍の方がいらっしゃって、
その方と京都ですごく仲が良かったんです。
学生時代に彼女とちっちゃいブランドを立ち上げて、
その時にマッチを作ったのが最初です。
ほんとにつたない絵でしたけれど、
そのマッチが出会いになって、
いろいろなことにつながっていきました。
──
印象的だったのが、
伊藤さんと一緒にここに伺って、
さあどうしましょうという時に、
伊藤さんがお願いするというよりは、
山本さんが伊藤さんに
インタビューしてるみたいな感じで、
どんどん引き出していったことです。
「イメージは細かい絵? 太い線? ベタ塗り?」と、
細かく訊かれていましたね。
山本
限られた時間なので、
訊けることは訊いとこうと(笑)。
キーワードを全部自分の中に入れるんです。
──
ある意味アーティストにお願いするというより、
プロダクトづくりのチームのひとりとして
参加してくださった感じがすごくして。
山本
そうですね、わりとそういう立場で
仕事をすることが多いので。
自分がこうしたいからこう、というより、
ほぼ日さんらしさだったり、
まさこさんらしさだったり、
OSAJIの感じとかも含めた、
そういうチームの中に私がいて、
図案描き担当、みたいな、
そういう気持ちでやってました。
──
ほぼ日らしさって、
山本さんから見て、どういうことでしたか。
山本
いわゆるエッジーではなく、
分かりづらいこともなく、明快であり、
みんなが手に取って笑顔になれるような、
そういうプロダクトのイメージです。
──
いい言葉をありがとうございます。
山本
そう思うんです。
私、weeksdaysのファンで、
毎日のようにチェックしてますから!
──
嬉しいです。
じゃあOSAJIさんと伊藤さんと私たちと
話し合って決めたことは、
山本さんの中でそんなにずれていなかった感じ?
山本
ずれてなかったです。
まさこさんがけっこう委ねてくださったのも、
とってもやりやすかったです。
──
パッケージで悩んだことはありましたか?
山本
文字のからみを、ちょっと悩みました。
文字って、判読するためのものですから、
見えないと意味がない。
まさこさんからは、文字を絵の中に入れていいですよ、
と言われていましたが、
やっぱりものとして読めないと、と思って。
そして香りの違いをボトルでわかってもらいつつ、
統一感もないといけないかなと、
ここにたどりつきました。
──
“Herbes”のほうは風が吹いてるみたいです。
山本
そうなんですよ。
まさこさんがお話しされていた、
「薬草園を散歩してる時に踏みしめた時の香り」
そのシーンを思い浮かべて。
──
風景ではなく、
草をばらばらに描かれていますね。
山本
散歩する時に、草をちぎるじゃないですか、
これどんな香り? とか言って。
その葉っぱを、いっぱい手に持って、
最終的にはちぎれた草がワーッとなってるみたいになる。
そこから来ているイメージです。
フェンネルのちっちゃい先っぽを摘んで、
ああいい香り! って、
ポケットに入れたり何となく籠に入れたりして、
散歩の最後に残ったかけら、です。
──
そういうことでしたか!
山本
そんなイメージをスタートにして、
あんまり散らばさず、ちょっと整列させて描きました。
──
“Fleurs”は咲いている姿そのものですね。
山本
「モッコウバラがフワッと咲いている姿を
見上げた時に季節感を感じる」というキーワードを
まさこさんからいただいたので、
こちらはその時のフワッとした感じを、
感覚的なところで描いています。
まさこさんにピタッときたようで、よかったです。
──
言葉と絵が同じイメージでシンクロするのって、
すごいことですね。
そして、山本さんの説明も明快です。
山本
見れば伝わる、っていうことも、
もちろんあるんですけど、
でもやっぱり言葉でこうやって説明しないと、
合点がいかないこともあるじゃないですか。
だからなぜこうしたかということを、
常に自分の中に持っていながら描くということを、
日々、心がけているんです。

mitosayaの山本さん。

──
mitosayaのこともちょっとだけ聞かせてください。
すごく簡単に言うと、結婚した人が、
こういうことをやりたかったから、
一緒に始めた、ということなんでしょうか。
山本
そうですね(笑)。
蒸留所をやりたいと江口さん
(夫でありmitosayaのCEOである江口宏志さん)から
声がかかった時に、
私は基本的には絵を描く仕事を
やめないでいいんだったらどうぞ、
と言ったんです。
──
イラストレーションとの両立は、大丈夫でしたか。
山本
どういうふうにバランスをとればいいだろうかと、
そこは自分の中での戦いでした。
自分で決めないと完全に呑み込まれていっちゃう
状況だったので。
──
江口さん、人を巻き込みそう!
山本
そうです、そうです、
人を巻き込むのが得意なタイプです。
なので巻き込まれる部分と、
自分できちんとやりたいと思っていたことを
やめずにやるということを、
けっこう葛藤しながらやってた時期も
あったかなと思います。
どんどんmitosayaのほうが忙しくなってきた時に、
絵を描く仕事をやめちゃえば‥‥、と
考えたこともあります。
フリーランスだし、
「忙しいんで」って言っていれば
仕事も減っていくだろうから、
そうしていくべきなのかなって、
ちょっと決心をしかけた時もあったんです。
でも、絵を通じて貴重な出会いがたくさんあるので、
そういうのをなくしちゃうのは
私にとってあり得ないな、
ほんとに受けたい仕事だけをやっていこう、
というふうにちょっと匙加減をして、
舵を取りつつ、やっている感じです。
──
減らしたと言うよりは、
ほんとうにやりたい仕事を選ぶ。
山本
そうですね。
でも最近は「mitosayaでもお馴染みの」みたいに、
どっちかというとmitosayaの人としての認識のほうが
高いような気がしています。
若い方なんか特に。
でもそれはそれで私としてはよくて。
今って「私はこうです」と言っても、
「それ以外ではありません」ということって
ないじゃないですか。
やっぱり何であり何であり、何であり何である、
というところをうまくやってる人のほうが、
絶対楽しそうに見えるなって思うから、
──
実際、楽しいでしょうね!
山本
そうですね。なのであんまりそこで、
「いや違うんです、私は絵を描く人間です!」
みたいなことは言いません。
mitosayaでできることは精いっぱいやります。
──
ほんとうにすばらしい環境ですよね。
薬草園に住むなんて! 
ここで育つこどもたちや、
犬や猫が羨ましいです。
山本さんにもストレスがなさそう。
山本
そうですね。忙しかったり、
常に追われてるような感覚はあるんですけど、
ストレスっていうのは、私は、あんまりないですね。
──
もともとなかったのか、
ここに来てからなくなったのか。
山本
さあ、どうかなあ。
ストレスがあったとしても、
負けないですよ(笑)。
──
ああ、強い!
この商品もそういう個性になるといいなって思います。
是非お使いくださいね。
山本
ぜひぜひ! 楽しみです。
──
ありがとうございました。
(おわります)
2020-04-08-WED