伊藤まさこさんと「ほぼ日」がつくる
あたらしいネットのお店「weeksdays」。
2年ほど前から計画をスタートしたこのプロジェクトが、
ようやくこの7月にオープンのはこびとなりました。
週に何日も(ときには平日毎日!)「ほぼ日」に詰めて、
計画をすすめてきた伊藤さん。
開店の日が決まってすぐに
伊藤さんは糸井の部屋をたずね、
「糸井さん、ここまで、できました」と報告。
そのときの2時間ほどのおしゃべりを、まとめました。
伊藤さんがどんな気持ちで
このプロジェクトをはじめたのか、
「weeksdays」のバックグラウンドが
なんとなくわかっていただける対談です。
その4決断の速さと責任の重さ。
- 糸井
- ところで、まさこさんは仕事が速いでしょ?
- 伊藤
- はい。みんなに速いって言われます。
「やさしいタオル」は、
1日に100カットくらい撮る、
餅つきみたいな撮影なんですよ、
ハイッ、ハイッみたいな。
- 糸井
- 「完成形にいかなくてもいい」
っていう判断がないと、
その速さにはならないですよね。
- 伊藤
- だって、タオルを使うカットに、
「完成形」って、いらないですよね?
- 糸井
- そのとおりだ!
もう横尾忠則さんですよ、それ。
いちばん感動するのはそこだよ、やっぱり。
- 伊藤
- えっ、そうなんですか?
- 糸井
- 「これが正しいっていう答えにたどり着くまでに、
ぼくはいっぱい考えた」
って人がいたとしたら、
「え、それで何だったんですか?」
ってなるよね。
- 伊藤
- 「じゃあ、あなたの答えは見つかったんですか?」
って。
- 糸井
- 答えなんて、ないんですよ、そんなの。
「生きること自体がそうなのだから、
全部プロセスだと思えばいいんだ」
っていうのを、横尾さんが言う。
自分のことを言い訳するために
どんどん考えていったんだと思うよ。
みんな、自分の考えって、
言い訳だから、おおもとは。
- 伊藤
- そうですねえ。
- 糸井
- その横尾さんに、ぼくは感心して、
自分もそうなのにそうじゃないフリをしてたりとか、
そういうのをなるべくやめようとしているんです。
今まさこさんに、
「速いでしょ」って言ったのも、
「あ、おんなじだ」と思ったからなの。
横尾さんも、決めるっていうことに
値しないことだらけなのに、
みんなが腕組みしてウンウン言ってるっていうのを、
「歩いてるのに、次の足をどう出すかなんて
考えなくていいじゃない」みたいに言うの。
- 伊藤
- 雑誌の撮影の仕事でもありますよ。
わたしが「これ、ここからこう撮ってください」と
お願いするとしますよね。
すると編集者は
「一応、寄り(アップ)も」って、
カメラの人に頼んでいたりする。
でもわたしは「撮らなくていいですよ」と言う。
だってそれは、絶対に使わないカットなんです。
それが分かってるのに、
どうしてカメラマンに
よぶんな仕事をさせるのかなぁと思います。
そんなふうに仕事をしていたら飽きちゃうし、
自分の仕事も増えるだけです。
「一応」とか「抑えで」は、禁句!
わたしの仕事は、それを先に考えて
スタイリングすることなのに。
- 糸井
- 世の中は、そっちなんだよね。
「抑え」だらけです。もっと言えば、
どういうふうに撮りたいかの3案か4案、
あらかじめラフを持って行って撮影して、
なおかつ、撮ったときに
「これも抑えといて」って言うから、
30案ぐらいになっちゃうことがある。
だから時間がなくなるんだよ。
しかも、そこの時間が
自分の労働時間っていうふうに
カウントされちゃうから、
ものをつくるっていうところに行かないの。
「ほぼ日」では、それはダメです。
- 伊藤
- 速いといえば、
「weeksdays」の準備で、
いろいろなメーカーやブランドのかたと会って
オリジナルの色や形をつくってもらったんですが、
それを決めるのも、あっという間に終わりました。
それに、仕事をしている日でも、
なんだかんだいって
17時すぎには飲んでるんですよ、毎日。
- 糸井
- すごいね!
- 伊藤
- それはやっぱり、決断が早いからかなあとか。
早寝早起きというのもあるんですけどね。
- 糸井
- テレビ的時間がないんじゃない?
テレビを観る的な時間が。
- 伊藤
- ふだんテレビは観ないですね。
ニュースとマツコ・デラックスだけ
チェックしてますけど。
- 糸井
- あと、インターネットを
チェックなんかしてないでしょう。
- 伊藤
- してないです。
- 糸井
- この2つで、
なにかしてるような気になる時間を、
世の中の人は過ごしてる。
お家にテレビはあるの?
- 伊藤
- テレビ、あります。でも仕舞ってあって、
観るときはズズズッて出して、差して。
テレビが邪魔なんですよ、暮らしの風景として。
- 糸井
- この話、かみさんが聞いたら
ジーンとくるだろうな、
いいなって思うだろうなあ。
オレなんか、
おもちゃの水鉄砲まで置いてあるもん、そのへんに。
- 伊藤
- (笑)樋口さんも速いですか。
- 糸井
- 速いねえ。それはつまり、
「身についてることしかしない」
っていうことですよ。
そうか、上役がいないんだね、
まさこさんも、ウチの奥さんも。
誰かに「これでいいですか?」って
訊く必要がないから決められる。
でもそれは、いつも本当の判断を
しなきゃならないから、
いちばん責任があるわけです。
それを繰り返していかないとダメですよね。
- 伊藤
- その責任は自分で負わなきゃいけない。だから
「わたしは好きじゃないけど、ちょっと売れるかも?」
なんて言い出しちゃダメなんですよ。
ほんとに好きなものじゃないと。
- 糸井
- 「ちょっと売れるかも」は、
もうすでに頭に入ってるんじゃない?
身に備わってることしか言ってないわけだから。
- 伊藤
- あんまり意識はしていないんですが、
そうかもしれませんね。
今まで、旅の本を出したら
みんながそこに行ってくれるとか、
おいしいものを紹介したら
みんながおいしいって言ってくれる、
ものをつくったら買ってくれるっていうのは、
わたしがほんとにいいと思ってるものしか
出したことがないからだと思っています。
「これいい!」ってすごく思っているから。
- 糸井
- ぼくらでもそうですよ。
「生活のたのしみ展」で
スピーカーのキットを出したけれど、
あれは分かりやすくて、
「わたしもつくりました、いい音がしました」
「いくらなの? あ、だったら俺も欲しいな」
ということなんです。
そういうのはおたがい、分かるよね?
って言えることだけをしてる。
でも、世の中は
「それのピンクって市場ではどうですかね」
「女性がいるから売れるかもしれませんね」みたいな。
- 伊藤
- 嬉しいのは、わたしがなにかを紹介したとき、
「そのまま」が売れるわけではないことなんです。
じゃあ自分に似合うのはどうなのかな?
って考えてくださるお客様が多いと聞きました。
それも「weeksdays」を始めようと思った
動機のひとつです。
- 糸井
- それはすごいね。
お客さんが支えてるんだよね、実はね。
(つづきます)
2018-07-11-WED