伊藤まさこさんと「ほぼ日」がつくる
あたらしいネットのお店「weeksdays」。
2年ほど前から計画をスタートしたこのプロジェクトが、
ようやくこの7月にオープンのはこびとなりました。
週に何日も(ときには平日毎日!)「ほぼ日」に詰めて、
計画をすすめてきた伊藤さん。
開店の日が決まってすぐに
伊藤さんは糸井の部屋をたずね、
「糸井さん、ここまで、できました」と報告。
そのときの2時間ほどのおしゃべりを、まとめました。
伊藤さんがどんな気持ちで
このプロジェクトをはじめたのか、
「weeksdays」のバックグラウンドが
なんとなくわかっていただける対談です。

その5
「もの」から「こと」へ。

伊藤
ものを売る以外で、
ネットで見れるからこその楽しい買い物って、
糸井さんはなんだと思われますか?
糸井
やっぱり、ものじゃなくって、
一緒にいる時間に価値がある、
っていうことかもしれないね。
まさこさんも、単純なおもしろさ、
それこそ動物的に考えてやりたいことがあったら、
「あ、これやりたい!」って思えばいいんだと思う。
伊藤
これをしたら仕事になるんじゃないかっていうより、
普段楽しく過ごしてるうちに
「あっ」って思いついたことを‥‥。
そうだ、「旅行」にも興味があるんです。
糸井
旅行ね。
旅行は「仕事としてじゃなく」と
腹をくくればできるよ。
じつは、旅行を仕事にするというのは、
ほんとうにたいへんなことだから。
ただ楽しい体験を提供したいのだったら、
現地集合現地解散にして、
イベントだけを楽しむとか。
伊藤
なるほど。
糸井
イベントは、何人集まるかの
イメージが作れたら、できますよ。
つまり、50人集まればできるんだなっていうことと、
1000人必要なことと、
10000人必要なことは、全部違う。
「ほぼ日」の「野球で遊ぼう」というイベントは、
だいたい1000人でやってきたんだけど、
みんなで野球に行くだけなんです。
で、損するかっていうと損しない。
儲かるかって、そんなこともないんです。
でも、それを楽しみにしてる人たちが
ずーっといるっていうのが、
「ほぼ日はいつも元気だね」って言われる
ひとつの理由のように思うんです。
集まって時間を過ごして何かすると言えば、
バーベキューだっておもしろいよね。
伊藤
そうですよね。
糸井
バーベキューはどう?
伊藤
家でやってました、小さな頃から実家で。
最近では、ウチの娘と母と、
牛タンを一本買ってきて、焼いて、
一本食べるんですよ、ひたすら、
シャクシャクシャクって‥‥。
時々シシトウとかも食べますし、
あと母がおにぎり握ってくれたり。
糸井
‥‥力、あるわあ。
伊藤
そういうのは好きかも(笑)。
糸井
日本のバーベキューは、
ほんとに可能性があると思う。
魚焼くのもバーベキューだし、
野菜焼くのもバーベキューだし。
伊藤
おいしいですしね。
おにぎりを焼いただけでおいしくなる。
糸井
強火の遠火っていうのが、
本当にできる場所なんか、家の中にはないし。
って考えると、砂なんか入らない場所で、
水が出て、火が焚けて、清潔なトイレがある場所で、
いろんな人が主宰するバーベキューをやったら、
ぼくはもうそこに一日中いたいな。
「生活のたのしみ展」じゃなくてさ、
「生活のたのしみバーベキュー」だね。
伊藤
料理家も、料理家じゃない人も、
いろんなかたがつくって。
楽しそうですね。

伊藤さんと内田鋼一さんの新ブランド「鋼正堂」のグラタン皿。撮影時の料理は、伊藤さん作。

糸井
じっさいは、食べ物まわりって、
許可とか設備とか、
すごくたいへんなんだけれどね。
でもいっしょにつくって食べることは、
伊賀の土楽に行ったときの御馳走や、
接待のされ方を思い出すんだけど、
ある種、ケモノっぽい品の良さがあるんです。
そういうぶつかりは、同じ旅でもおもしろいね。

ところで、「weeksdays」の準備で、
やめたり諦めたこともきっとあるでしょうね。
伊藤
いろんなメーカーやブランドの方に
お目にかかって商品の提案や
相談をしてきたんですが、
こころよく迎えてくださっても、
話をすすめていくなかで、先方の会社の方針で
実現にいたらないこともありますし、
わたしがつくりたいと思って
お話をうかがっていたのだけれど、
「ほんとうにほしいものはこれだったのかな」と
いちど立ち止まるべきだと思ったり。
そこで「じゃあ、やめよう」
という判断をしたこともありました。
糸井
それは大事だよ。
そういうのでいちばん素敵だったのは、
崎陽軒の「生活のたのしみ展」への参加が
かなわなかった話なんだけど、
崎陽軒は横浜に関係することだったらウエルカム、
そうではないものは、きっちり断るんです。
これね、素晴らしいと思う。
伊藤
そうなんです! 醤油入れのひょうちゃんの絵に
ぴったりの絵を描く人を知っていたので、
広報の方にお会いしたときに
「いい人がいるんですけど」と言ったら、
「横浜にゆかりのある人にお願いをしています」と。
徹底していますよね。
糸井
「weeksdays」でまさこさんが
商品を選んだりつくったりするとき、
「誰も欲しがらないけど、わたしは好き」
っていうのがもしあったら、
自分の何かを変えるチャンスでもあるから、
「ヨイショ!」って、いい気持ちで、
「失敗してもいい!」と前に進む、
そんな場合も、なくはないと思うよ。
伊藤
そうですね。
糸井
まさこさん、食べ物がそうじゃない?
おしゃれな暮らしだと人が思う姿で、
山手線の駅前ビルの地下にある
おじさんたちが肩寄せあって食べる
とんかつ屋を薦めてくれたじゃない?
あれは、それっぽくないじゃない。
でも、行けば分かる! って
言いたい気持ちがあるから薦めてくれたんだよね。
それは「ヨイショ!」だよ。
あそこ、あっこちゃん(矢野顕子さん)も、
今までいちばんおいしいカツだったって言ってたよ。
伊藤
えっ、矢野さんが?!
糸井
ヒレカツにカキフライを載せた、
「このミックスはやっぱキツいな」って
男たちが言ってるようなセットを、
全部たいらげた。
伊藤
さすがですね!
糸井
同じとんかつ屋を薦めるのでも、
美意識派の人は別のお店が好きだよね。
もちろんそれも本気で言ってるからすごく伝わる。
でも、矢野顕子はたぶん、
「その良さはあるけどね」って言って、
まさこさんが薦めたほうを選ぶと思うんだよ。
ぼくは自分がないから、
人が「いい」って言うほうに付き合うけど。
それぞれ価値を置いてる場所が
違ってておもしろいよね。
伊藤
ほんとですね。
糸井
そういうまさこさんがつくるお店だから、
みんなもたのしみにしていると思うよ。
ほんと、いよいよだね、
伊藤
いよいよです!
(これで伊藤さんと糸井重里の対談はおわり。
明日からtrippenさんとつくるアイテムを
紹介していきます。どうぞおたのしみに!)
2018-07-12-THU