あなたには赤が似合わない。
パティシエ、塗師、イラストレーター、画家。
4人のクリエイターのみなさんに
「赤」についてのエッセイを書いていただきました。
つるみ・たかし
1986年神奈川県生まれ。パティシエ。
東京・Café Lisette、
大阪・ELMERS GREENなどのカフェをプロデュース。
2016年熊本市で地元の果物を使った
ジャムやパフェのお店
「FLAVÉDO par Lisette」
(フラベド パー リゼッタ)をオープン。
現在熊本に暮らす。
著作に『Café Lisetteのお菓子』
(エンターブレイン)がある。
■Instagram
「あなたには赤が似合わない」
むかし付き合っていた恋人にそう言われて以来、
赤という色がどうも苦手だ。
タンスにしまっていた赤いセーターも、
ロンドンで買った赤いタータンチェックのシャツも
速攻捨てた。
赤い車に乗ってる人とは多分友達になれないし
(ラーダニーヴァを除く)、
歩いているときはよく赤信号を無視する
(だって車走ってないんだもの)。
だけど赤い食べものは大好き。
今の季節、私の住んでいる熊本で赤い食べ物といえば、
トマトとスイカが真っ先に思い浮かぶ。
私が東京から熊本に移住してきて間もない頃、
県民の友人が
「ここでは梅雨が明けてから
スイカ食べてる人なんて一人もいないよ」
と得意げに教えてくれた。
真夏の日差しが燦燦と降り注ぐなか、
うちわ片手にタンクトップで食べるスイカのイメージは
ここにはない。
最初は夏目前の6月までに
スイカを食べ納めるということに違和感があった。
けれど、移住してから3年も経つと郷に従って、
夏が来る前に沢山食べておかなきゃと
ソワソワしているのだから、
私が他県の人に向かって
「梅雨が明けてからスイカ食べてる人なんて
熊本に一人もいないよ」
と得意げに話す日もそう遠くないだろう。
とはいえ、くる日もくる日もスイカばかり食べていると
流石に飽きる。
そこで大人の皆さまに
ちょっとしたスイカのアレンジをご紹介したい。
1. スイカを冷蔵庫でキンキンに冷やす。
2. 大きめの一口大に切って、ジンをかけて食べる。
以上。
私はよく果物に合わせて
「MONKEY 47」というドライ・ジンを使う。
フルーティで華やかなのにキリッとしているから、
初夏の雰囲気にもぴったりだ。
ポイントはスイカをよく冷やしておくこと。
ぬる~いスイカは、
玉ねぎを切ったまな板でカットするリンゴと同じで、
気分が滅入る。
スイカはこの食べ方の他に、
ミントやフェタチーズとサラダにしたり、
甘いココナッツタピオカに浮かせたりして楽しむ。
イタリアに住んでいた友人が
器用にテーブルナイフを使ってスイカを食べる様を見て、
かっこいい~! と感化され、
家でこっそり真似したこともあった。
冷たいスイカにかじりつくのはご存知の通り最高だけど、
カトラリーを使って食べてみると
また印象が変わって面白い。
名残の時期になって
八百屋で安いスイカを見つけたら、
ジュースにしたり、
果汁を煮詰めてスイカ糖を作ったりして、
シーズンを余すところなく満喫するのだ。
同じ季節の赤い果物で、
赤肉メロンもよく食べる。
スイカとはうって変わって
艶かしい夜の色気を感じる赤肉メロンは、
お酒を合わせるならブランデー。
コニャックやアルマニャックでも良い。
丁度良く食べごろになった赤肉メロンを
スパーンと半分に切り、
種の周りの果汁をザルで漉して真ん中の穴に戻す。
あとは気の済むまでブランデーを注ぐだけ。
旦那さんやお父さんの秘蔵コレクションから
美味しそうなブランデーを拝借してドバドバとかけよう。
もちろん自分で買っても良い。
赤い食べ物、というか調味料だが、
S&Bのテーブルコショーも忘れてはならない。
仕事柄、美味しい胡椒は色々と探して試してきたけれど、
最近になって、SBのコショーにしか出せない
味ってのがあるんだな、と気付いた。
野菜炒めや唐揚げを作るとき、
マダガスカルの高級胡椒だと
格好がつかないこともあるのだ。
台所に安心をもたらす赤いパッケージ。
伊藤まさこのお家で
SBのテーブルコショーを見つけた時は、
やけに嬉しくなって彼女に握手を求めた。
いちご、さくらんぼ、牛肉、コカコーラ、
プラム、トマトスパゲッティ‥‥
思い返してみると赤い食べ物は、
私の気持ちを明るく元気にしてくれるものばかりだ。
赤い色だって、別に嫌いってわけじゃない。
タータンチェックのシャツも、赤いセーターも、
かつて自分が気に入って買ったものだった。
なんだか人に言われて赤が苦手になるなんて馬鹿みたい。
気を取り直して、また赤い服を着てみようかな。
赤い車に乗る人のことは当分理解できそうにないけれど。