齊藤能史さんにきく
「職人気質の松徳硝子」。
伊藤まさこさんの「あったらいいな」という思いを
かたちにしてくださったのが
松徳硝子のクリエイティブディレクター、
齊藤能史(さいとうよしふみ)さんです。
齊藤さん自身はガラスを吹く職人ではなく、
熟練の職人さんとタッグを組んで器をつくるのが仕事。
人生の大先輩も多いふるい工場での仕事ぶり、
たくさんお聞きしてきました。
あたらしいコップをつくりました。
「白いお店 &」のときからそうなんですけど、
まさこさんからいただくイメージを
いかにかたちにするかっていうのが
自分の役目だと思っています。
松徳硝子では、それを職人たちが、
さらにかたちにするという二段階の作業があるので、
自分はその間に立つ
「通訳」のようなものだと思っています。
まさこさんって、単純にかたちのイメージだけじゃなくて
「こんな用途、いいかな」ということを伝えてくださる。
それを自分なりに解釈して、最初のかたちをつくります。
型紙で始め、次は職人といっしょにサンプルをつくって、
まさこさんに見てもらい、
じっさいに使っていただいたうえで、
さらなる微調整をします。
「weeksdays」のガラスのシリーズは
その繰り返しでできていきます。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/09/MG_8500.jpg)
そういう中で、今回、まさこさんから、
「ちっちゃなコップがほしい」
という提案がありました。
たとえばビールを飲むときに使うようなコップです。
松徳硝子のラインナップでいくと「うすはり」のような、
結構、シュッとしたものが多かったりするんです。
料亭や割烹で使われるタイプのものですね。
けれどそれだと「コップ」と名付けたときの
ちょっとしたかわいらしさがありません。
それはやっぱり「グラス」の風情なんですね。
きっとそれはまさこさんの思いとは
違うんだろうなと考えました。
じっさいにまさこさんからも
「『コップ』っぽくしてほしい」
という意見をいただきました。
その「コップ感」のバランスをどうとるか、
そこがぼくの仕事でした。
かなり試行錯誤をしましたが、
最終的には「うん、これですね!」と、
このコップが完成したんです。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/09/bd667129192320d55168f5502c31cb0a-1400x933.jpg)
▲右が松徳硝子のビールグラス、左が「weeksdays」のコップ。たしかに「かわいい」印象に!
コップから「うつわ」へ。
まっすぐ立ち上がる、底が大きくて背のひくいものは、
「ガラスのうつわ」と名前がつきましたが、
大中小の3サイズをつくりました。
このなかの「小」は、「白いお店 &」のときに
「松徳硝子のコップ」として販売をしたものと同型です。
それはもともと、フランスとスペインの国境にまたがる
バスク地方の伝統的なチャコリというお酒のためのグラス
「ボデガ」がアイデアのもとになっていました。
まさこさんからは、今回、
その形状をそのまま大きくして、
でも高さはそろえつつ、
飲み物だけじゃなく、ヨーグルトやスイーツ、
または冷菜を入れてもいいような、
ガラスのうつわがほしいという提案がありました。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/09/MG_8463.jpg)
その製作にあたって大事にしたテーマは、
「高さを揃える」ということです。
そしてそれは図面的にも製造的にも苦労した部分です。
というのも、工場見学をしていただいておわかりのとおり
ガラスの型吹きというのは、
型に入れて、下から吹きあげるんですね。
底のかたちを作ってから上に立ち上げる。
この作業は、径が広ければ広いほど
高い技術を要するものなんです。
途中で調子がずれると、段ができてしまったりする。
つまり、「小」は底面積が小さいのでつくりやすいけれど、
「中」「大」になるほど難しくなるんです。
そのこともあって、ガラスの薄さについては、
コップと、うつわの「小」は薄く、
「中」「大」はすこしだけ厚手にしました。
これは耐久性を考慮してのことでもあります。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/09/MG_8468.jpg)
結果、できあがったものは、
スタッキングすることができ、
その重ねたすがたは、
横から見ても真上から見ても
キレイだと言っていただけるものに仕上がりました。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/09/MG_8472.jpg)
もちろん、手づくりですから、機械生産のような
完全に均質なものはつくることができません。
どうしても個体差が出ます。
これを無理やり統一しようと、
管理を厳しくなりすぎても松徳硝子の製品は成立しません。
けれども「厳しくしない」ことが過ぎると、
逆にいえば「何でもあり」になる。
精緻に同じ形をつくることならば
機械生産のほうが合っていますし、価格も安くなる。
そこと勝負をしても仕方がないですよね。
やっぱり値段相応の明確な差、
手づくりガラスだからこそ生まれるよさを、
ぼくらは、表現することができなければいけません。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/09/MG_8428.jpg)
スペインやフランスのボデガは機械生産で、
ほんとうに庶民的なものですから、価格も安いんです。
でも伊藤さんがおっしゃるのは、
「あれはあれでいいんだけど、
家で夜、ちゃんとゴハンを作ったときに、
それでいいのかなと思った」
ということなんですね。
機械生産ではできない、手だからできるもの。
「weeksdays」の「ガラスのうつわ」は、
その期待にそうものができたように思います。
道具としてのプライド。
ガラス自体の透明度は原料と製法に左右されます。
うちは、光学レンズ用の原料を使っていることと、
工場見学のときにもお話ししましたが、
金型の内側に毎日コルクの炭を塗っていることで、
透明度とともに表面のツルツルしたなめらかさを
実現しています。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/09/MG_8498.jpg)
松徳硝子の職人はストイックですよ。
大先輩に、片桐という職人がいたんですが、
それこそ50何年やって「現代の名工」にも選ばれ、
3、4年前に引退したんですけど、
自分が入ったばっかりのとき、
これからの設計や企画の参考にしたいなと思い、
「親方、今までつくってきて『よかった』とか
『こういうものが好きだな』って、ありますか?」
と訊いたんです。するときっぱり、
「んなもん、ねえ!」
って。
「『これ完璧だ』なんて思ったことねえから、俺は」
‥‥そんな職人が多いんですよ、松徳硝子って。
職人気質といいますか、世の中には、
一流の作陶家に見えてもご自身は「陶工だ」と
おっしゃるかたもいますし、
すばらしいフランス菓子を作るかたが
「自分はパティシエじゃない、菓子職人だ」
とおっしゃったりもする。
そんな気概の職人が、松徳硝子にも集まっています。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/09/O72A5340-1400x933.jpg)
うちのガラスは、作品ではありません。
常に道具でありたいと思っています。
酒を飲む道具だったり、料理を楽しむ道具だったり。
ただ、それはとても難しいことでもあります。
ものって、足し算してるほうが簡単で、
引き算で削っていくと、ちょっとしたアラが目立つ。
満足できないです。
でも満足したら終わっちゃうんだろうな、とも思います。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2018/09/f44291f7ca9a32f4e700cd5af16d044e-1400x933.jpg)
将来──ですか。
今はやるべきじゃないし、
そんな余裕もないし、
いままで話したことと矛盾もするし、
やるつもりがない、という上での話ですけれど、
もしかしたらその「満足したら」の
先にあるかもしれないことを話します。
ヨーロッパなどで、
いわゆる日常使いの器を作る工房と、
それとは別のアート部門が
同じメーカー内にあったりしますよね。
そういうのって、ちょっとだけ羨ましいです。
理想ではありますよね、松徳硝子のクラフト部門や、
そのプロダクトが生まれていくことは。
でも、まだまだこの「職人」のつくるものを
世の中に出していくのがぼくの仕事。
そう思っています。
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