1968年創業、神戸市中央区の
“モトコー”こと元町高架通商店街にある柿本商店。
店内には6000足ちかい新旧のコンバースが並び、
コンバース好きの人たちから
「聖地」と呼ばれているお店なんです。
伊藤まさこさんといっしょに、
まだダウンジャケットが要る寒い時期に柿本商店を訪ね、
79歳になる店主の周春陽さんにお目にかかりました。
コンバースの大先輩、周さんと伊藤まさこさんの会話、
対談形式でお届けします。
ゆっくりとした神戸のことばで語られる
柿本商店の歴史、おもしろいですよー!
柿本商店について
柿本商店
兵庫県神戸市中央区元町高架通3
営業時間:11:00~17:00
定休日:毎週木曜日
電話:078-351-0997
全1回コンバースの聖地、
神戸の柿本商店へ。
- 伊藤
- 今日はお話を伺わせていただきます、
伊藤と申します。
- 周
- 遠い所までありがとうございます。
ちょうど今、学生がな、おるの。
学校が休みで。
(註:取材は冬休みの時期でした。)
- 伊藤
- 学生さんが多くいらっしゃるんですね。
- 周
- そうやなぁ、北海道から沖縄まで。
会社員も来ますよ。東京のサラリーマンの人が、
出張で九州行った帰りにここへ寄りはるねん。
それで「来月の給料まで待って、置いといて」(笑)。
- 伊藤
- きっと、どうしてもほしい一足を
見つけちゃったんですね(笑)。
娘の友達も東京から来たそうですよ。
コンバースが好きな子にとっては、
わざわざ来たいお店、“聖地”だと。
それにしても、すごい量です。
- 周
- そうでしょう。
- 伊藤
- 30センチの大きなサイズもあれば、
周年記念のものもあるし、
限定品のコラボアイテムも。
岡本太郎さん、リリー・フランキーさん、
みうらじゅんさん、漫画太郎さん、
スター・ウォーズ、ディズニー、
あしたのジョー、ワンピース‥‥。
- 周
- ジョン・レノンのイマジンとかな、
ぎょうさん(仰山)あったよ。
- 伊藤
- 好きなひとにはたまらないですよね。
このお店にはコンバースの歴史が
詰まっていそうです。
お店の生い立ちからお聞きしてもいいですか。
- 周
- 生い立ちはね、29歳から店やって、50年目。
コンバースは39歳からやっとるから、40年。
- 伊藤
- それ以前は?
- 周
- 日本の3大メーカーの
月星化成(ムーンスター)、アサヒシューズ、
世界長ユニオンのシューズを扱って、
海外への輸出をしていました。
東南アジア、ソ連、インド、
インドネシア、フィリピン、韓国、台湾に、
「日本の品物、いいよ」って知らせて、
販売をしていたんです。
手紙でやりとりをして、注文が来たら、
10トン車で、横浜や博多に持って行く。
いちばん最初はね、僕の友達がアメリカの
シアーズ(Sears)いう通販会社に
ブーツを輸出するのに、納期が遅れて、
47,000足がキャンセルになった。
それで「助けてくれ」。
「よっしゃ、みんな買うたる」言うて、
神戸港へ入るソ連船に託して、
ソ連向けに売りました。
一部はインドの商船を通じてサウジアラビアへも。
そうそう、ちょうどその頃、宝塚が、
「ベルばら」かなんかいう名前の公演で
近所の喫茶「ハクサン」の店主と奥さんが
「甥っ子が資材係で、
ブーツ探しとるねんけど」言うから、
「これでええか」って見本渡して、
「あ、これでええ」って。
- 伊藤
- え? じゃあ、宝塚の
「ベルサイユのバラ」の初演の
舞台衣裳のブーツは、
周さんが用意したってことですか?!
- 周
- うん、そうそう。
履いてた(笑)。
- 伊藤
- 不思議なご縁ですね。
- 周
- そうなんよ。
そんなことを10年間やったんです。
ところが1ドル300円の時代から始めたのが、
どんどん価値が下がっていって、78円に。
- 伊藤
- そんなに下がったことがあるんですね。
- 周
- うん。それで、
外国の人が買わんようになったんやね。
- 伊藤
- なるほど。
- 周
- それで「これはあかん」言うて、
コンバースに切り替えて。
- 伊藤
- なぜコンバースだったんですか。
- 周
- アディダスもプーマもやっとったんやけど、
ペラーっと置いたんではな、
間口が広いだけで、奥行きがないやろ。
友達の輸入業者のすすめで、
コンバース1本にしよういうことで。
- 伊藤
- アメリカのコンバースがいちど倒産したとき、
たくさん買われたっていう話を聞きました。
- 周
- 2001年に潰れる言うて、
それを2000年に発表したんやな。
そのときに、アメリカの残り、
全部引き上げた(笑)。
23,000足くらいか。
- 伊藤
- 23,000足?!
- 周
- うん(笑)。ほんで、日本のメーカーの代理店にも、
「残りなんぼあるねん?」って言ったら、
「7、8,000」って言うたんやな。
「全部持っといで」って言って、
両方からそれ全部買うて。
- 伊藤
- サラッとおっしゃいますけど、
量がすごいですよね(笑)。
合計30,000足‥‥。
- 周
- それを田舎の倉庫に入れて、
店に売る分だけ持ってきて。
そしたら、それを同業者が聞きつけてな、
「おっちゃん、分けてよ」って(笑)。
その同業者の人は持って帰って、
東京やら、博多やら、四国やらで、
何倍もの値段で売っとった。
- 伊藤
- それが20年前‥‥。なるほど。
周さんは、“たまたま”コンバースと
強い縁があったんですね。
- 周
- うん、そうそう。
- 伊藤
- もともとご実家が履物屋さんだったとか?
- 周
- いや、親父は布団屋やっとった(笑)。
僕は京都外大に行ったけどな、
2年で「もうええわ、やめや」と切り上げてな、
30までに店やるわいってことで。
最初は「なんでも屋」でな。
神戸港に外国からの船が着いて、
船員さんが僕がやってる店に来るわけや。
ほんで、「あれが欲しい、これが欲しい」言うて。
- 伊藤
- 神戸という場所が、お仕事に、
すごく関係していますね。
- 周
- 土地がよかったんかな。
僕は、外大行っとったけど、
たいして勉強してなかった。
でも船員さんと話すのに、
直に船へ行ってね、話しとるうちに、
数字とか色を、みなすぐ覚えて。
いろんな船員が上がってくるでしょ?
ロシア、インドネシア、フィリピン、インドネシア。
そんな言葉を。
- 伊藤
- えっ(笑)。何カ国語も?
- 周
- 値段言わなあかんから。
- 伊藤
- そっか、数、色、
「こんにちは」とか
「ありがとう」もですよね。
きっとそれが「商才がある」
ってことでしょうねぇ‥‥。
- 周
- そういうこと、ないんやけど(笑)。
だから、いろんなもの頼まれたよ。
- 伊藤
- 何を頼まれたんですか。
- 周
- 服地も頼まれた。
大阪から仕入れて、神戸で船に積んだりして。
それは台湾へ行くんや。
多めに向こうの縫製工場で裁断して作ったんを。
「ビーズが欲しい」って言うたら、
ビーズを用意して、それも台湾で製品にして。
「フォークリフトの部品が欲しい」
「ホンダの単車の部品が欲しい」
「額縁の象嵌に使う石が欲しい」
「ガラス板が6,000枚欲しい」
「湯沸かし器の着火部品が30,000個欲しい」
‥‥なんでも揃えて。
- 伊藤
- すごい。つまり、周さんに言えば、
なんでも手に入ると、
外国人の間で評判になったんですね。
- 周
- そうそうそう。
「よっしゃ。ほんなら、調べてくるわ」
言うて(笑)。
- 伊藤
- 「無理」とは言わず(笑)?
- 周
- まぁそら、中にはあったけどね。
船で「要る」言う商品を聞いて、
持ってって、売りよったわけよ。
それで、靴はね、神戸が、
ケミカルシューズの本場でしょう?
- 伊藤
- はい、ゴム底の。
- 周
- それで、だんだん靴に絞られてきた。
そうこうしてるうちにな、50年。
- 伊藤
- 時代の移り変わりとともに、きっと、
お客様も変わってきましたよね。
- 周
- 隣近所はそんな忙しいないのに、
うちの周りは外国人がいて、
「なんであんたの所だけ多いの?」。
- 伊藤
- 口コミですね、きっと。
本国で「どこで買ったの?」
「神戸のこういう店だよ」みたいに。
いまの、コンバースを中心とした品揃えになるまでに、
そんな歴史があったんですね。
柿本商店の店内には、
とても珍しいコンバースもありますね。
それは売りたくないとか、
そういうお気持ちにはならないですか。
- 周
- いや、ええんじゃない、みんなを助ける。
- 伊藤
- じゃあ、出会ったら、誰でも買える。
探しに来る人は嬉しいですね。
- 周
- そう、出会いです。
いろいろありますよ、
これは革、ナチュラルパイソン。
本当の蛇の皮を継ぎ接ぎしたもの。
これは、2015年、
ジャックパーセルの80周年記念のもの。
- 伊藤
- きれいですね!
- 周
- (パネルをさして)この人が創始者です。
コンバースの会社を創った人。
- 伊藤
- イギリスの人なんですね。
- 周
- これはアメリカの工場。
昔は木箱だった。
- 伊藤
- すごい。これ、欲しい人、いそう。
- 周
- 靴に付いとったタグを写真にしました。
資料はぎょうさん持っとんのやけどね(笑)。
サイズは、昔は、17インチ、
35センチまであったんや。
- 伊藤
- そんな大きなサイズまで?!
仕入れの数は、周さんが決めるんですよね。
- 周
- 2,000足買おうかなと思っても、
上代が38,000円だったら、
高いから、500足にしたり。
- 伊藤
- 一番古いのって、どれなんでしょう。
- 周
- そうやなぁ、みんな売ってしもうとぉからな。
私がとっておいても、しょうがない(笑)。
- 伊藤
- そうですよね、
珍しいものを集めている
マニアのためのお店じゃないんですものね。
お客様が欲しいから、売っているわけで。
- 周
- この、中がフリースになっとるの、
太平洋のほうは温いから、売れへんの。
メーカーが「なんとか売れへんかな」言うから、
引き取ったら、雪の中でも履けると、
新潟、富山、北陸の人が買ってくれた。
- 伊藤
- 雪靴として!
困ったら、相談が来ちゃうんですね(笑)。
そして、買ってくださるお客様がいる。
- 周
- ようあるね(笑)。
- 伊藤
- 周さん、私たちのコンバース、
見ていただいてもいいですか。
‥‥わぁ、緊張する。
- 周
- あぁ、全部、紺やね。
100モデルの中敷き、使こうとるね。
- 伊藤
- そうですね。
新しいものですよね。
- 周
- 別口でやったんやね。
色はこれ1色で?
- 伊藤
- 1色です。全サイズ、
22から30まで作りました。
- 周
- ええかも分からんな。
規格もええし。
- 伊藤
- うれしいです!
片方の中敷には、
私たちのお店のロゴを入れてもらいました。
- 周
- 白じゃなしに、紺の中敷きでね。
- 伊藤
- この金具もマットにしたんです。
ツルツルしてないものに。
- 周
- うんうん。
ほれで、この100は今、
赤と紺をやめてるはずや。
もう生産止まっとる。
だから、これ、値打ちやで。
- 伊藤
- ありがとうございます!
周さんにそうおっしゃっていただけると
すごく励みになります。
- 周
- (笑)
- 伊藤
- 周さん、どうもありがとうございました。
スニーカーをつくるのは初挑戦で、
ずいぶん時間をかけてつくりました。
コンバースの歴史のいちばん手前に、
「weeksdays」のオールスターが並ぶこと、
すごく誇りに思います。
- 周
- こちらこそありがとうございました。
また神戸にいらしたらお寄りください。
- 伊藤
- はい、ぜひ!
周さん、お元気で。
(おわります)
2020-08-02-SUN