REPORT

「TEMBEA」の早崎篤史さんにきく
僕のバッグのつくりかた。

帆布を使った、かわいくてかっこいい、
独特なかたちをしたTEMBEA(テンベア)のバッグ。
その名前、ムードから
「外国のものかと思っていた!」
という人も多いのですけれど、
正真正銘、ニッポンのブランドなんです。
このバッグをつくっている早崎篤史さんに、
TEMBEAのなりたちをおききしました。

早崎篤史さんのプロフィール

はやさき・あつし

「TEMBEA」デザイナー。
輸入商品とオリジナルを手がけるアパレルを経て独立、
自身の会社TORSOを設立。
立ち上げ当初は洋服を手がけていたが、
つくった帆布のトートバッグが評判を呼び、
現在はバッグを中心とした服飾小物を多く制作している。
バッグのブランド「TEMBEA」を始めたのは2004年。
仕切りもポケットもないスタイルは、
物を決められた場所に収める便利さではなく、
なにも決めつけない、
「自由な使い勝手、自由の心地よさ」
をスタイルとしている。
東京・神宮前と、京都に直営店をもつ。

■TEMBEAのウェブサイト


元々、バッグというのは、
いろいろあるアイテムのなかのひとつでした。
2003年にひとりで会社を興し、
バッグを始めたのは2004年です。
バッグは、パンツ、シャツ、Tシャツとある中の、
ラインナップのひとつでした。

最初に作ったバッグのサンプルがこれです。
洋服を作るため、生地見本を取り寄せた中に、
この帆布が混じっていて、
「見たことがない帆布だ」って思ったんです。

通常の帆布というのは、もうラフで、
少し「綿カス」と呼ばれる、色の濃い茶色の点々が、
特に生成りなんかには、入っているものなんです。
ところがこれに関しては、ほとんど入っていなかった。
コーマ糸という、綿カスや短い繊維の綿を
取り除いた糸で織っているので、ちょっと光沢があり、
普通のものよりもボソボソしてなくて、
綿カスも入っていないので、白に近い帆布で、
更にパラフィン加工という蠟引きをかけているので、
コシがある素材だったんです。

それを見たときに、単純に、
「これでトートバッグを作りたいな」と思ったんですよね。
なぜトートバッグだったのかというと、
17年前って、とくに男性にとって、
布バッグの選択肢が限られていたんですよ。
当時、メンズのバッグっていうと、
主流はナイロンかレザー。
アウトドアブランドにトートバッグはありましたが、
そういうものとは違う布のバッグが作りたいな、
というのが最初の思いだったんです。
で、せっかく作ったので、
展示会に出そうかな、と、発表をしたというわけなんです。

何度も展示会に出しているうちに、
だんだん引き合いが増えていきました。
それで、洋服とバッグの比率が変わってきて、
いまは「TEMBEAといえばバッグ」になっています。
それが2007、2008年あたりのことでした。

「独特な形ですね」
と言っていただくんですが、
スッと出来たんですよ。
苦労話とかが全くないんです。
僕は、デザインをまず頭の中で
考えることが多いんですけど、このデザインは
「電車に乗るときに邪魔にならないように」
ということがまずありました。
だから横長じゃなくて、縦長にしよう、
ハンドルは2本を肩にかけると
1本はパラッと落ちちゃうから、
1本だけにすれば解消されるなぁ、と。
ハンドルが片側に寄っていると、
かけたまま物の出し入れがしやすいぞ、とも。
そこからは、ほとんど、現在の形そのままの
サンプルがすぐに出来ました。

そうして無地の帆布でスタートしたTEMBEAは、
次にプリントもの、その次にインディゴ染め、
その次に、キャンバスじゃない素材に挑戦しました。
その最初がレザーでした。
ところが、僕は良いレザーが
どういうレザーかもよくわからないまま始めたものだから、
毎年開催される展示会に行っては革を買って、
作ってみて、というのを繰り返していました。
ここ数年かな、やっと、TEMBEAらしい表現が
できるようになってきた、という感じです。
10年近くかかっちゃった。

「TEMBEAらしい」というのは、
なかなか言葉でも表現しづらいんですけど、
いちばん大切にしてるのは、
今まで革のバッグを持ったことない、
キャンバスのバッグしか持ったことなくて、
という人でも、すんなり持てる
レザーのバッグでありたいということでした。
普通のレザーのバッグは、
だいたい裏地がついていますけれど、
僕は、革素材を切って、縫って、
取っ手をつけて、という、
シンプルなものを目指したいと思っています。

エナメル(*)は、今までも数回つくりました。
毎シーズン、なにか新しいものを、と、
チャレンジの一つとしてやっているんですね。
その中でエナメルも、好きな素材として、
使って作ったことがあるんです。
「どうしていきなりエナメルを?」
と訊かれても、ちょっと困っちゃうんですが、
僕の中では、帆布とかわらない感覚で
使ってほしいなと思っています。

(*)今回「weeksdays」で販売するのは、
なめし革にエナメルペイントをほどこした
素材を使用しています。

つくるときに考えるのは、
「素材感を出したい」と思うんです。
これは帆布のバッグもレザーのバッグも同じですが、
素材感の邪魔になるようなことはしたくないし、
その素材ならではの形があると思っています。

今回は、TEMBEAオリジナルでつくっていた
エナメルのトートを
伊藤まさこさんがごらんになって、
伊藤さんの意向を汲んで、
「weeksdays」向けのアレンジをしました。
取っ手を内側にし、金具を真鍮色にして、
「らしさ」を盛り込んだつくりになりましたね。

ちなみにこの「バゲットトート」という名前から、
バゲットを入れるためにトートをつくった、
と思われるでしょうけれど、
そうじゃないんです。後付けなんです。
そもそもを言えば、
「TEMBEA」のブランドコンセプトもそう。
僕、言葉にしたことは、全部後付けなんですよ。

まず、いちばん最初にモノができて、
そのときには名前も、バッグの用途も、
コンセプトも決まっていないんです。
できあがって「さて、名前をどうしよう?」
っていうときに、
私物として食材の買い物に使っていたので、
「ちょうどバゲットが入っていそうだね」と、
そんな会話から名前がつくんです。

ちなみに、そのあとにつくったメッセンジャーバッグは、
「バゲットトートじゃ、自転車に乗れない」
という理由から生まれました。
当時、僕は事務所がなかったので、
サンプルや資料をバッグに詰めて、
自転車やバイクに乗って商談に行っていたんです。
その場合、パンパンに詰めて行っても、
サンプルを置いて帰るときは空っぽなので、
物の量に応じて折る場所が変えられて
コンパクトになる、
そういうバッグとしてつくりました。

そのあたりから、用途ありきのものづくりって、
すごく素直で純粋な動機になると思い、
そこからちょっとずつ
TEMBEAというブランドのコンセプトが
出来上がっていったような感じです。

TEMBEAというのは、スワヒリ語です。
アフリカに縁もゆかりもないんですけど、
名前を決めないといけないなというときに、
先入観のない言葉にしたかった。
イメージがつかない言葉というか。
国も性別も、なんだかよくわからない、
意味もつかめない、みたいな、響きのいい言葉にしようと。
でも、一応、「旅」「放浪」という
意味合いの言葉になりますけれど。
ちなみにスワヒリ語で、僕らにもうちょっと
馴染みのある言葉は何かというと、
「サファリ」です。
そして、意味はやっぱり「旅」なんですよ。
ただちょっと違うのは、
サファリは目的を持って行く旅、
テンベアは目的がない旅。
だから「放浪」が、近いニュアンスになるんです。


早崎さん、ありがとうございました! 
知っているようで知らなかった
「テンベア」のこと、よくわかりました。
早崎さんとつくった、
「weeksdays」の特注バッグ、どうぞおたのしみに!

2020-09-06-SUN