暦の上では季節が変わったはずなのに、
暑さはまだまだ。
衣替えをしたいけれど、
気候だけじゃなく、心もなんとなくついていかない。
ましてや出かけたり、人に会う機会が減った今、
おしゃれのことって、どう考えたらいいんだろう?
そんな話がしたくって、
伊藤さんの尊敬する先輩のひとりである
エディトリアル・デザイナーの
若山嘉代子さんに会いました。
在宅での仕事が増え、会議もオンライン、
仕事の納品もデジタルで‥‥。
そんななかで、若山さんは「季節」のこと、
どうとらえているんでしょう?

若山嘉代子さんのプロフィール

若山嘉代子 わかやま・かよこ

1953年岐阜県生まれ。エディトリアル・デザイナー。
(エディトリアルとは「編集の」という意味。)
1980年に縄田智子さんとともに
デザイン事務所「L’espace(レスパース)」を設立。
料理家の有元葉子さん、
エッセイストの平松洋子さん、
服飾スタイリストの原由美子さん、
料理スタイリスト堀井和子さん、
そして伊藤まさこさんなどの数々の書籍や、
雑誌・CD、紙袋、パッケージなど、
多くの印刷物を手がける。
アパレルブランド「nooy」の若山夏子さんの叔母でもある。

■L’espaceのウェブサイト

その2
人に会わないから。

伊藤
コロナで、出かけることが減りましたよね。
わたしは、ネットショッピングが楽しくて! 
洋服やバッグも買いますし、
今までは家にいなくて受け取れなかった
「取り寄せ」を積極的にしてみたり。
でも、こうやってお目にかかると、
やっぱり会うことって楽しいな、と思います。
若山
そうですよね。
伊藤
「weeksdays」のミーティングも、
週1回、パソコンを通じて、だったので、
緊急事態宣言が終わって、
やっとチームで対面でしゃべった時、
「ああ、人と会ってる!」と、
そんな新鮮な感覚を味わいました。
家にいることにも慣れてきたけれど、
やっぱりちょっとは風が必要。
若山
そうですね。
パソコンを通じての会議は、
最初は「便利!」と思ったけれど、
すごく疲れますね。
伊藤
疲れます! 
なんでだろう?
若山
よく知ってる人と、
ちょっとした確認をパソコンで、
だったらいいんだけれど、
初めての打ち合わせをパソコンですると、
ぐったりしてしまって。
伊藤
うんうん、わかります。
若山
すごく集中して見ているからかなぁ。
伊藤
同席しているはずの人の気配が感じとれなくて、
話し手に集中するから疲れるんでしょうか。
ちいさなモニターに何人か入るから、
表情や気配、ニュアンスを感じ取るのが難しいし。
テレビの番組のように、
1人が1つのモニターで並んだら、
ずいぶん違うのかもしれないですけれど。
若山
なるほど! 
それに、人と会っていれば、
集中と、くつろいでいる時間が、
自然と、同時にできているんだと思うんです。
それがパソコンだと、いつも耳を傾けて
ずーっと集中して聞いてなきゃいけない感じがある。
なるべくリラックスして
普通にしているんですけれど、
終わるとすごく疲れていますね。
伊藤
若山さんはエディトリアル・デザイン
(書籍のデザインを、本文からカバーから全て)を
なさっていますが、
チームで密に仕事をなさるタイプですよね。
わたしのときもそうでしたけれど、
撮影にもいらしてくださって。
若山
はい。ケース・バイ・ケースですけれどね。
伊藤
そんな若山さんだから、
「画面じゃなくて、会って話したほうがわかるのに」
ということも、多いでしょうね。
若山
そうなんですよ。会って話し合って得たことが、
その過程で頭の中に本の形ができていくんですが、
それがないと、すごく時間がかかるんです。
人と会えばあるはずの「とっかかり」がない。
面と向かって話していれば、
「あ、これしかない」っていうものが、
自然と降りてくるんですが、
それがないまま、材料だけいただいて、
好きにデザインして、と言われても、
「この人はどうしたいのか」が
伝わってこないんですね。
伊藤
エディトリアル・デザインは、
そういう傾向の強いデザインかもしれないですね。
若山
その人がやりたいと思ってることを、
その人が思ってることとは違う形で、
さらにいいものを出してあげたい。
だから「こうしたい」という思いを受け止めて、
その通りじゃないものに変換して、
「どうでしょう?」ってだす楽しみがあった。
でも、今はもう、そもそも、
パソコンでデータを渡してしまうでしょう? 
デザインを紙でしていた頃は、
編集のかたが取りにいらしたんですよ。
楽しみにきた人の反応を見るのが、すごく楽しかった。
伊藤
じつは、今、
この本(『母のレシピノートから』)を
文庫化するのに、
若山さんにお願いをしているんです。
若山
はい。しかも、30ページ、足してね。
伊藤
そうなんです。
単行本をつくるときも、
もっとほっこりした感じの表紙が
来るかなと思っていたのが、
見事にくつがえされたのを覚えています。
若山
そうですよね(笑)。
伊藤
当時、こんなすっきりとカッコいい表紙になるなんて、
ってわたしが喜んだとき、
若山さんはたしかこんな風におっしゃったんですよ。
「だってまさこさんは
オープンカーに乗ってるし、
来た道を引き返すのがいやでしょう?」って。
若山
そうですよ! 
その頃、ナチュラル系のほっこりした感じが
流行りだしていて、
みんなも、そういうのがいいなっていう感じでしたね。
だから、まさこさんの本は、
そうはしないほうがいいぞ、と強く思って。
本文用紙も、ざらっとしたナチュラル系が多いなか、
つるりとした光沢のあるものにしたんです。
伊藤
この本が出てから15年が経つんですが、
あきらかに時代が変わってる。
娘は20代になり、母も私も歳をとった! 
だから今回の文庫化にあたっては
「その後の母のレシピ」を加筆したんです。
若山
胡春ちゃん(伊藤さんの娘)のイラストも、
とても良かったです。
だから、文庫は文庫で、また楽しいです。
伊藤
母のレシピがすごいのは、
肉が1㎏って書いてあったりするんですよ。
これ、多すぎないかな、
みんながつくりやすい分量にしたほうがいいのかなと、
「半分の量でもできるんですけど」って提案したんですが、
編集担当のかたが「このままで」って。
‥‥あっ、いけない、お肉の分量の話じゃなかった。
きょうは若山さんとおしゃれの話をしたかったのに(笑)。
若山
うん。そう、おしゃれの話!
伊藤
そうなんですよ(笑)。
若山
わたしが逆に聞きましょう。
なんだか今年は、
いつものような夏の季節感がなくって、
そう思っているうちに、もう秋物が出てるでしょ。
伊藤
そうなんです。「weeksdays」でも、
そろそろ秋支度なんです。
若山
ね。でも、その気にならないの。
どうしたらいいんだろう?
伊藤
ほんとですよね。
サンダルは9月から履かないと決めているわたしも、
2週目ぐらいまではいいかなって思えてきています。
若山
年々、この季節はこういう気分だね、
みたいなことが、薄れてきている気がします。
とくに今年は。
伊藤
街にも出てないから、
世の中がどういう感じか分からないし、
人に会わないから、
みんながなにを着てるかも見えてこない。
若山
ほんとに秋が来るの? 
いきなり寒くなっちゃったりするの?
伊藤
そういえば、だんだん、
春や秋が短くなっているように思いますね。
(つづきます)
2020-09-14-MON