REPORT

秋色あじさいを育てる
青木園芸を訪ねました。

都内を出発して、東京湾アクアラインを渡って、対岸へ。
房総半島の南側に位置する千葉県南房総市は、
冬あたたかく夏涼しい海洋性気候の土地。
ここに、あじさいを育てる
「青木園芸」があります。
梅雨から盛夏にかけてがシーズンだと
思いがちなあじさいですけれど、
ハウスで丁寧に育てることで、
5月頃から12月頃まで長く花をつける花木。
なかでも秋めいた色に変化する「秋色あじさい」は、
そのうつくしさから、
花の好きなひとの間でも人気の高い植物です。
青木園芸の、清潔に手入れされた巨大なハウスには
そんな「秋色あじさい」がすくすく育っていました。
伊藤まさこさんといっしょに現地をおとずれ、
リースにする前の花のようすを取材をしてきました。

青木園芸のプロフィール

あおきえんげい
南房総の地で、農家としては三代目、
花農家として二代目になる青木良平さんと、
東京でフローリストをしていた
とも子さん夫妻が運営する花農園。
1981年に創業、
2003年から栽培をはじめたあじさいは、
当初は切り花として珍しかったなか、研究を重ね、
現在では日本でも有数の生産者として知られるまでに。
ブライダルや高級生花店などでも取り扱われている。
青木園芸では、あじさいのように
半年近く出荷するアイテムのほかにも、
「1年中、12ヶ月、お客様に提案できるように」と、
ハーブなどの栽培も続けている。

●青木園芸のウェブサイト
●Instagram


「私は花のアレンジが苦手なんです。でもあじさいだと、1輪ポンって生けるだけで決まる、そこが好きなんです」(伊藤さん)

花農家になって、僕で2代目です。
祖父から父の代は、米や野菜をつくっていましたし、
すぐ近くの蜜柑山で果樹の栽培もしていました。
僕が3歳ぐらいまでは牛も育てていたんですよ。
そんな典型的な田舎の農家でしたが、
父が、昭和51年に花に転換をしたんです。
当時は、まだ国産の花の供給が少なく、足りない時代。
輸入品もそんなに潤沢に入らなくって、
かつ、日本の経済が非常に伸びてきたときだった。
そんなタイミングで、
国産の花づくりの需要を感じた父が、
花農家を始めたんですね。

▲「近年の異常気象には振り回されています」と青木さん。ハウスなので、ある程度、環境はコントロールできるものの、なかなか自然の気まぐれには追いついていけない。「昨年は台風でほぼ全壊に近い打撃をこうむりました」。

あじさいを始めたのは、僕の代になってからです。
僕が花業界に入った2000年頃、
花の市場はほぼ成熟していて、
たとえば菊、薔薇、カーネーションといった人気の花は、
もう、経営的に隙間が残っていなかったんです。
けれども国内で、切り花のあじさいをやっている人は、
ほぼいなかった。
そして、どんな職人にもある悩みだと思うんですが、
ただ受け継いだだけでは、
先代である父には勝てない。
だから父のやらなかったことをやろうと、
あじさいを始めることにしました。
2004年のことでした。

▲清潔に手入れされたハウス。空調、陽射しの調整、水やり、掃除、こまかな作業が日々つづく。スタッフにも花にもリラックスしてもらおうと、青木さんはスピーカーからジャズを流している。

ところが、初めてみてすぐに、
みんながあじさいをやらない理由がよく分かりました。
どんな花でも、咲いてすぐ切れば楽なんですよ、
でも、あじさいは、長いものだと、
咲いてから数か月、
咲いたものを維持する必要がある。
それが大変なんです。
どうしても傷が付く、虫が来る、病気が流行る。
ああ、大変なこと始めちゃったなと思いました。
そういえば父は、花は、野菜や果樹に比べて、
「蕾で出荷することができ、回転が速いところがいい」
と話していたのを思い出しました。
僕はずいぶん回転が悪く、蕾では出荷できない花を
つくりはじめてしまったんですね。

普通、あじさいに対するみなさんのイメージは、
6月から7月に咲く花だというものですよね。
日本のあちこちで、露地で見かける花ですが、
そのあじさいの多くが「一季咲き」、
いわゆる「それが本来のあじさいの時季」
ということですね。
自分たちが使っている品種は「二季咲き」、
さらに最新では「四季咲き」も出始めてはいます。
ただ、環境が合わないと「四季咲き」は難しい。
「二季咲き」も、咲きやすいわけではありませんが、
こうして温室で、的確に肥料や水を与えていくことで
育てていきます。そうすることで、
いまでは5月から12月までの出荷が可能になりました。

「秋色あじさい」というのは、
いきなりその色の花がつくわけではなく、
最初は、いわゆるあじさいらしい淡いブルーで開きます。
それを育てていくと、時間の経過と共に、
ぼんやりと、がくの色の変化が始まります。
ちょっと白っぽくなり、そこにグリーンが差して来ます。

さらに育つと、がくの周辺から、
赤みがさしてきて、ボルドーレッドになっていきます。

秋色、といっても、じつは秋に限らないんですよ。
赤い色になるので秋色と呼んでいますが、
あじさいは、もみじなどの紅葉のように、
夜温が8度を下回ると赤くなる、というものではなく、
色の変化には開花からの経過時間が関係するんです。
普通のブルーからの色の変化は大体2週間ぐらい。
そして1ヵ月後にはもう別のものになっています。
更に1ヶ月、2ヶ月を経て、赤や紫になります。
花が咲いてから3ヶ月近くかけて、
色を変えて行くわけです。

12月ぐらいになったら、あじさいの時季は終わり。
暖房を切り、ハウスを開けっ放しにして、
外の寒さを入れて、自然に落葉させます。
1回冬を経験すると、また来年、花をつけてくれます。
そんなふうにして年を重ね、
あじさいづくりを続けています。
(談)

▲日比谷花壇のフローリストの石井さんが、青木園芸のハウスのなかでリースのサンプルをつくってくれました。リースベースに、適宜カットしたあじさいの葉と花をさし、細い針金で結んでゆきます。立体感を出し、めりはりをつけていくのがポイントだそう。

2020-10-10-SAT