REPORT

我が家へいらっしゃいませ。
カナヤミユキ

ものづくりのユニット「ZUBO」のカナヤミユキさんに
秋色あじさいのリースを飾った印象を
伝えていただきました。

カナヤミユキさんのプロフィール

かなや・みゆき
デザイナー。
1965年生まれ。群馬県出身。
大学生の娘と夫と東京郊外で3人暮らし。
料理好きがこうじて
共書に『おかあさんのおべんとう―母弁』がある。

1989年、ニイハラフクミと共に
ロンドンにてアートユニット「ZUBO」を結成。
翌年帰国後、生活にかかわる全てのものをデザインし、
自ら何でもつくるべく、
イラストや木彫、家具製作などをはじめる。
1999年、屋号を「ZUBO D.I.Y. Laboratory」に。
店舗デザイン施工、ロゴデザイン、衣装デザイン&制作、
CDジャケットやポスターデザインなど多岐に渡る。
近年は服飾、テキスタイルデザインや小物の企画を中心に、
3年前から鍛金をはじめ、新たな世界にも挑戦している。

●ZUBOのウェブサイト
●Instagram


グリーンに紫のグラデーションの
フレッシュな紫陽花のリース。
箱を開けた途端に思い出が蘇りました。

昨年の8月、娘がパリの大学に
1年の予定で交換留学しました。
初めての一人暮らし、しかも外国、
私も休暇がてらその1ヶ月後に
様子を見に行くことにしました。
それは心配だからというよりは
便乗して私自身も楽しむために。

留学生の暮らしはそれなりの節約生活、
私がいる間だけはちょっぴり潤いをと、
二人でお花屋さんに行きました。
娘が選んだのは真っ白な紫陽花でした。
一輪でも様になる、華やかで優美、
簡素な部屋が一気に艶やかになりました。

十日間の滞在が過ぎ、晩夏の白い紫陽花は
表面に少しづつ茶色の陰りが‥‥。
そろそろさようならの時です。
最終日にアパルトマンの目の前にあるマルシェで
グリーン味かかったスモーキーな
ピンクの紫陽花を見つけたので、
それを代わりに最後のプレゼントとして
パリを後にしました。
空港へ向かうタクシーの中から見る
娘の表情は今でも忘れません。
希望と不安が入り混じった複雑な表情で
この経験でまた少し大人になるんだなぁっと思いました。
少し感傷的な顔をしていたのかな? 私。
タクシーのお兄さんが
「お母さん大丈夫、彼女は上手くいくよ、絶対に! 
俺には分かる!」
なんて全然根拠のない応援をしてくれて、心が綻びました。

そして、あの時の紫陽花はドライになって、
ずっと彼女の部屋で潤いを放ってくれていたのでした。
だって今や遠くてもLINEのビデオ通話で
ちょくちょく連絡とれるから、
部屋で生き生きしている紫陽花を目の当たりにして、
「えーっまだ咲いてるの?」
なんて話したものです。
世界は近くなったなぁと実感しました。

それにしても、リースはまた一輪とは違った
少し聖なるモノになりますね。
それは輪という形のせいでしょうか? 
なんとなくその空間を浄化してくれるような存在感です。
先ずは娘の部屋に飾ってみました。

娘の部屋の壁はつい先日塗り直したばかりで、
カラーはIllusive Lilac=幻想的なライラック、
紫がかったグレイに紫陽花の絶妙な色とも調和しています。

幼い頃に使っていた子ども椅子にちょこんとのせてみて。
我が家へいらっしゃいませと。

リビングのコーナーの壁。
いつもは時計がかかっている場所、
あの角を見るときはいつも時間を気にしていたのに、
紫陽花がやんわり
「急がなくていいよーっ」て言ってくれているみたいです。

私の仕事場はリビングにあります。
この棚の上は、どんなに仕事が忙しくて
机の上がてんこ盛りの資料に見舞われても、
唯一眺められる場所として存在しています。
心のよりどころです。
マテリアル違いで質感の違いを並べて眺めるのが好きです。
植物というのは有機的で一つとして同じ形のないもの、
儚さと優しさが混在していますね。

2020-10-11-SUN