LIMONTA NYLON と
AL’S COATのこと。
今回ご紹介するMOJITOのAL'S COATは、
その素材が、あるストーリーのあるナイロンです。
イタリアのリモンタ社製のその素材について、
MOJITO主宰の山下裕文さんに、書いていただきました。
LIMONTA──リモンタ、と読みます。
イタリア、ミラノの北、コモ湖の東南東に位置する
コスタ・マズナーガという町で1893年に創業した、
老舗の織物メーカーの名前です。
リモンタ社はもともと
ジャガード織りで有名なメーカーでしたが、
近年、一躍名を馳せたのは、
1978年にプラダがつくった
防水のナイロンバッグでした。
軍もの、あるいはアウトドア用品に使われていた
リモンタ社のナイロンを、
あえてハイファッションに取り入れたことは、
ファッション界のみならず、
繊維業界にとっても「事件」だったのです。
その後、リモンタ社にとって、
ナイロンは同社が誇る定番商品であり、
世界の定番と言っても過言ではないほどに
成長していきました。
リモンタ社の生地を使うことは、
イタリアやフランスのハイブランドでは
いまや当たり前のことになっています。
ぼくが、はじめてリモンタ社のナイロンを使ったのは、
ブランドを立ち上げて2年目、
2012年秋冬シーズンでのことでした。
製品は、まさしく、このAL’S COATでした。
今回「weeksdays」別注の
AL’S COATに使ったナイロンも、
リモンタ社の、2012年当時と同じ種類のものです。
AL’S COATは、ぼくが敬愛する作家
ヘミングウェイの短編小説『殺し屋』の
主人公“アル”が着用していたコート、
というイメージでつくったデザインです。
ぼくがリモンタ社のナイロンを使った理由は、
高密度に織ることで生まれる、
しわさえも美しく感じさせてくれる、
独特の光沢にありました。
しなやかで柔らかなハリ感がありながら、
しわも美しい。
そんなところに惚れたのです。
ナイロンには軽い撥水性と防風性がありますから
(もちろん、ゴアテックスなどのように
防水・防風性を謳える機能素材ではありませんが)、
小雨の時にはレインコートとして、
少し肌寒い日には防寒用のコートとして使えます。
ぼく自身、このコートは、
出張や旅行にでかける際には、
季節を問わず携帯している必需品のひとつです。
またこのコートは「パッカブル」(packable)といい、
小さく丸めてジップで留めて、
ちいさく格納できるようになっていますから、
雨や風の予報の出た日に出かけるときは、
その状態で鞄の中に入れておけばいいわけです。
格納時は、くしゃくしゃっと詰めますから、
どうしてもさらなる「しわ」ができます。
パッカブルから広げた時のこの「しわ」が
どうしても気になるというかたも少なくはない、
‥‥と思うのですけれど、
リモンタ社のナイロンは、
その気になる「しわ」こそが、美しい。
デザイナーとして、少し大袈裟な表現をするならば、
その「しわ」もデザインの一部であると
申し上げておきたいと思います。
(山下裕文)