COLUMN

妄想機内食。

仁平綾

「weeksdays」に、
さまざまなかたにエッセイを寄稿していただく
コーナーをつくりました。
今回のテーマは「旅」。
2週にわたり、4人のかたにご登場いただきます。

にへい・あや

1976年生まれ、編集者・ライター。
2012年よりニューヨーク・ブルックリン在住。
得意ジャンルは、食、猫、クラフト。
日本の雑誌やウェブサイトに記事を執筆。
現在、朝日新聞のウェブサイト『&w』にて、
「猫と暮らすニューヨーク」を隔週連載中。
著書に、ブルックリンのおすすめスポットを紹介する
私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』vol.01~03、
『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑A to Z』
(いずれもエクスナレッジ)、
伊藤まさこさん・坂田阿希子さんとの共著に
『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、
『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。
2019年春には、NYの食に特化した
エッセイガイド本を筑摩書房より出版予定。

「そろそろ、荷づくりしましょう」
家族旅行に出かけた先で、祖母のその言葉に、
幼い私の心はときめいた。
にづくり。おいしそう。煮物だね。具はなんだろう。
がんもどきみたいなのがいいなあ。イカも入れてほしい。
頭の中は“煮づくり”という茶色い料理の絵であふれた。
なんで旅先で、わざわざ煮物を?
なんて疑う気なんかない。
煮づくりを早く食べたい。
子どもの食い意地は、まっすぐで逞しい。
そういえば、小学生の頃、ニュースで流れてくる
「汚職事件」という言葉を聞いて、
「お食事券」だと本気で思っていたことがある。
政治家の大人たちは、パーティばかりする。
それはきっと、フランス料理や中華料理や、
お寿司が大広間に並ぶ、贅沢極まりない宴だ。
お食事券がなければ、当然入れてもらえない。
チケットは争奪戦となり、悪巧みをする輩があらわれ、
ニュースをにぎわす事件へと発展する‥‥。
そんなわけがない。

小さな頃から、私の脳は食べもの直結型。
だから食べることが何より好きだし、
生きることへのご褒美みたいになっている。
そんな私をへこませる、残念な食があって、
そのひとつが機内食である。
食材の匂いに乗っかってくる、
もわんとしたあの機内食臭が苦手だし、
おぼつかない薄い板の上で食べるシチュエーションを
ディナーっていうのもなあ。
だったら新幹線みたいに、お弁当でいいじゃない。
各自その日の気分に合うものを
搭乗前に買うシステムがいい。
はずせないのは、甘辛い煮物が要の弁松の赤飯弁当。
弁当を極めた感がある崎陽軒のシウマイ弁当。
賞味期限の問題はさておき、
京都・和久傳の鯛ちらし弁当があったら私は泣く。
とはいえ、機内では温かいものが食べたくもなるだろう。
そんなときは、好きなカップ麺が選べるサービスをどうぞ。
客室乗務員の方が、いかがでしょうか~、と
大きめのバスケットに数種類のカップ麺を並べやってくる。
きつねうどん、たぬきそば、醤油ラーメン、カレーうどん。
湯切りの始末さえ解決すれば、焼きそばも欲しい。
プレミアムエコノミー席の人は、2個まで選べます。
目の前の映画に没頭しながら、
ずるずると好みの麺をすする。
案外いける。
機内食は、そのぐらいがちょうどいい。

そんな私が、自宅(今はNYにあります)から
出発する旅に限って、欠かさない旅支度がある。
それは、おにぎりを握っていくこと。
相当な時間を持て余す国際線の搭乗口では、小腹が減る。
NYのJFK空港なんか、
某コーヒーチェーンと売店しかなくて絶望する。
そんなときに、おにぎりが私の命を救う。
いざ飛行機に搭乗する。機内食が出る。
アメリカから積んだ料理のクオリティに憎しみすらわく。
そんなときに、おにぎりが再び私の命を救う。
映画を鑑賞し、ほろ酔いになって、ひと眠りする。
小腹が減る。スナック菓子しか手元になくて天を仰ぐ
(結局食べるけど)。おにぎりがまたしても私の命を救う。
だから最低3つ、
ラップで1つずつ包んで持っていくと間違いがない。
具は、叩いた梅干しとおかかを山椒醤油で和えた
最強タッグ。海苔は、べちゃっとするのが嫌なので、
巻かない派。
そうして、心もお腹も膨らむ旅が始まるのだ。

2018-09-24-MON