2021年さいしょの「weeksdays」は
樋口可南子さんの登場です。
「ほぼ日」ではブイヨンやブイコの
“人間のおかあさん”として
「気まぐれカメら」にたびたび登場していますけれど、
こうして、おしゃべりの場に出ていただくのは初めて。
とくにテーマを決めずにおしゃべりした2時間、
どうぞ、おたのしみくださいね。
写真=有賀 傑
着付け(樋口可南子)=石山美津江
ヘアメイク(樋口可南子)=藤垣結圭
ヘアメイク(伊藤まさこ)=草場妙子
樋口可南子さんのプロフィール
樋口可南子
ひぐち・かなこ
俳優。1958年新潟生まれ。
株式会社ユマニテ所属。
大学在学中の20歳の時、
ポーラテレビ小説『こおろぎ橋』で主演デビュー。
以後、数々の映画、舞台、ドラマ、CMなどに出演。
2007年よりソフトバンクモバイルのCM
「白戸家」のシリーズで
お母さん役を演じている。
「ほぼ日」では「気まぐれカメら」に
“人間のおかあさん”としてたびたび登場、
いぬねこ写真アプリ「ドコノコ」では
「ブイコ(お母さん版)」を更新中。
書籍に『樋口可南子のきものまわり』
『いいものを、すこし。』
『樋口可南子のものものがたり』などがある。
その5キャパとエンジン。
- 樋口
- 最近食べたおいしいものは何?
- 伊藤
- 最近だと、パネットーネっていう
イタリアのお菓子です。
- 樋口
- どんなお菓子?
- 伊藤
- ドーム型をした天然酵母の菓子パンで、
ドライフルーツが入っていて
ちょっと甘酸っぱいんです。
ほんとうはクリスマス前に食べるんですけれど、
LESSっていうお店には一年中あるんですよ。
つくるのに3日かかるんですって。
- 樋口
- どうして3日かかるの?
- 伊藤
- パネットーネ酵母という酵母を、
長時間熟成して
発酵させるらしいんです。
作るのにとても手間暇がかかるらしくて。
- 樋口
- どんなふうにおいしいの?
- 伊藤
- 口に入れると、鼻に抜ける香りが
「嘘!」っていうくらい、よくって。
イタリアの人たちは、
3週間くらいかけて、
熟成させながら少しずつ、
味の変化をたのしむらしいんですけれど、
わたしはすぐ食べ終わっちゃうんです。
だから3台、
いろんな店のものを買いました。
娘と「これで持つね」と話しています。
- 樋口
- へぇー! ほかには?
- 伊藤
- お寿司屋さんでイカの握りを頼んだら、
ほんのちょっとだけ、海苔が挟まってて、
それがすっごくいい仕事をしてたんですよ。
海苔が隠し味なんだけれど、最高においしくて!
- 樋口
- そういう話をするときのまさこさん、
うれしそうだよねぇ。
この姿を見て、まわりのみんなが
しあわせになるわけです。
「おいしい」って言うとき、
ほんっとにいい顔するのよ。
こっちまで食べたような気さえするもの。
- 伊藤
- (笑)あと、なんだろう。
秋の一番は、栗おはぎでした。
- 樋口
- どこの、どこの?
- 伊藤
- 岐阜の中津川のものです。
私は毎年、
栗の時期に京都に行って食べていたんですが、
今年は行けなくて。
そうしたら、料理雑誌の編集者をしている友達が
取材に行って、その日に食べないとだめ、
という栗おはぎを
買ってきてくれたんです。
- 樋口
- うんうん。
- 伊藤
- 取材を終えた足で、
品川で新幹線を降りて、
届けてくれたんですよ。
- 樋口
- フットワークが軽い!
あなたのまわりの人。
- 伊藤
- そうなんです。
「いま、どこどこの交差点です」
と連絡があったので、
「わかった!」と、通りに出て、
「はいっ!」。
- 樋口
- はやい!
- 伊藤
- 一刻を争うおいしさなんです。
「はやく食べて!」
「わかった! 今すぐ食べる!」みたいな。
- 樋口
- まわりの人もおんなじなのねぇ。
おいしいものにかける情熱。
- 伊藤
- 「今日中だからねっ!」って。
- 樋口
- そういうとき、まさこさん、怖い声を出すのよ。
(低い声で)「今日中だからねっ!」
“超マジ”な声で、真剣になる。
- 伊藤
- あははは。そうです。
で、6個いただいて。
- 樋口
- えっ(笑)。それをその日じゅうに?
- 伊藤
- 娘と3つずついただきました。
それがもうほんとうに軽やかなんですよ。
- 樋口
- そんなに食べたの(笑)!
おはぎ3つ。
- 伊藤
- うれしかったなぁー。
- 樋口
- しみじみしてる(笑)。
- 伊藤
- しあわせなことがしていたいです、ずっと。
- 樋口
- 特にやっぱり「食」ね。
「食」の次はなあに?
洋服?
- 伊藤
- うーん? 仕事が好きです。
- 樋口
- 仕事ね。
- 伊藤
- 仕事を通じて人と会うのも好きです。
結局、人が好きなんだと思います。
おもしろい人がまわりにいっぱいいるので。
樋口さんはどうですか? お孫ちゃんの次は。
- 樋口
- わたしはね、キャパが狭いんですよ。
以前、糸井に言われたんだけど、
エンジンが小さいって。
- 伊藤
- そうなんですね。
- 樋口
- 集中して、短距離で、
ガーッと行くのは得意なんだけれど、
持続というのが難しい。
そして人の受け入れ体制が、
すごくちっちゃいんです。
つまり、エンジンもキャパも小さい。
まさこさんのように、まわりに人がいたら、
もうくたびれてしょうがないんです。
好きな友達、何十年の友達はいるんだけど、
人数は少ないですよ。
だから、あなたがすごくうらやましい。
行くとこ、行くところに
友達がいるっていうあなたが。
- 伊藤
- わたしの言う
「みなとみなとのいいオンナたち」は、
わりと年上のかたが多くて、
「まさこちゃんが来たなら、案内するわ」みたいな、
人生の先輩みたいな人なんです。
- 樋口
- ちゃんとかわいがられるタイプなのね。
でも、年下だって大丈夫でしょ。
- 伊藤
- 年下、大丈夫です!
- 樋口
- やっぱり、キャパがすごく広いのよ。
- 伊藤
- すっごく、いろんな先輩に
よくしてきてもらったから、
いま、年下に返す番かなぁと思っているんです。
- 樋口
- へぇ!
- 伊藤
- でもね、樋口さん、
わたしがキャパが広い、というのは、
ちょっと違う気がするんです。
だって、いっしょにご飯を食べに行くのは、
ほんの一握りの人ですよ。
誰でもウエルカム、というタイプの
キャパの広さではないんだと思います。
- 樋口
- そうなのね。
- 伊藤
- 仕事の相談も、よく
「ピンとこない」と断るんです。
ひどくないですか、その一言。
でも、なんだかピンとこないとしか
言いようがなくて。
- 樋口
- いやいや、
それだもの。
それが基本だもの。
- 伊藤
- そうですか! よかった。
糸井さんから
「相手が断りやすいように頼みなさい」って。
- 樋口
- ん?
- 伊藤
- 断る側が気持ちよく
断ることができるように依頼しなさい、
ということですよね。
「どうしても!」なんて言っちゃダメ。
断られて「どうしてですか!」もよくない。
なんとなく、っていうのも断る理由だから。
- 樋口
- 受けてもらわないと困る、
みたいになってくると、
相手にとって、負担になるものね。
- ──
- 伊藤さんと仕事をしていていいなと思うのは、
企画を立てるとき、
「ダメなら次はない」ということですね。
たとえば今回、樋口さんはお受けくださったけれど、
もし樋口さんに断られても、
「じゃあ、お正月の対談に、
別のどなたかを探しましょう」は、ないんです。
それは断った人に失礼でしょう、って。
だからもし樋口さんがNGだったら、
この連載は、対談ではなく、
別のことを考えていたと思います。
伊藤さんは「もしダメだったら、
わたしが1週間書く」とおっしゃっていた。
- 樋口
- そこもちゃんと考えてる。
ダメならちゃんとわたしが責任取りますっていう
心構えがある。
それがあるから、まわりも気持ちがいいし、
ほかのアイデアを考えたくなるし。
男前、ですよ。
あははは、男前。
- 伊藤
- ある程度、仕事をする人には、
男前な女性、多いですよね。
- 樋口
- そうじゃないと仕事が前に進まないから。
- 伊藤
- そうですね。
いまチームが大きくなってきてるから、
わたしがどんどん決めていかないと、進まないです。
‥‥あれ? おかしいな、
樋口さんのビューティーの秘密を知りたかったのに、
いつのまに、仕事の話に。
- 樋口
- ビューティーはねぇ(笑)、
うちの母が、肌がきれいなんです。
92になるんですけれど、
いまでも、はじめて会う人が、
お化粧してるんですか、と言うくらい。
- 伊藤
- へぇーー!
- 樋口
- これはもう、母の血で、
手入れいらずなんです、ほんとに。
- 伊藤
- 目、まんまるです!
- 樋口
- (笑)しょうがない。
母ですよ、母の血が、
やっぱり助けてくれている。
そりゃあ、仕事のときはメンテナンスしますよ。
泳ぐし。
- 伊藤
- 泳ぐ?
- 樋口
- 仕事に入るとき。
いま、ずっと仕事をしていないから、
ご無沙汰しているけれども、
次の仕事はこれで、ドラマの撮影がこう入る、
とわかっているときには、
それに合わせて、逆算して、体を締めていきます。
そうすると、泳ぐことが、
わたしにとっては一番楽なんです。
仕事のときは、エステもちゃんと行きます。
ほかの人の力を借りて、
じぶんでも仕事に見合うように
きれいになろうと思っていると、
きれいになります。
- 伊藤
- 気持ちが大事ですね。
- 樋口
- そう、気持ち。
きれいになろう!
って思う気持ちがないとダメ。
- 伊藤
- メモメモ。
- 樋口
- 仕事を通して、そう言えます。
- 伊藤
- なるほど。
でも、いま仕事してないっておっしゃってて、
この美しさなんですけど。
- 樋口
- それが、母なのよ。
- 伊藤
- そっかぁ。
(つづきます)
2021-01-05-TUE