2021年さいしょの「weeksdays」は
樋口可南子さんの登場です。
「ほぼ日」ではブイヨンやブイコの
“人間のおかあさん”として
「気まぐれカメら」にたびたび登場していますけれど、
こうして、おしゃべりの場に出ていただくのは初めて。
とくにテーマを決めずにおしゃべりした2時間、
どうぞ、おたのしみくださいね。
写真=有賀 傑
着付け(樋口可南子)=石山美津江
ヘアメイク(樋口可南子)=藤垣結圭
ヘアメイク(伊藤まさこ)=草場妙子
樋口可南子さんのプロフィール
樋口可南子
ひぐち・かなこ
俳優。1958年新潟生まれ。
株式会社ユマニテ所属。
大学在学中の20歳の時、
ポーラテレビ小説『こおろぎ橋』で主演デビュー。
以後、数々の映画、舞台、ドラマ、CMなどに出演。
2007年よりソフトバンクモバイルのCM
「白戸家」のシリーズで
お母さん役を演じている。
「ほぼ日」では「気まぐれカメら」に
“人間のおかあさん”としてたびたび登場、
いぬねこ写真アプリ「ドコノコ」では
「ブイコ(お母さん版)」を更新中。
書籍に『樋口可南子のきものまわり』
『いいものを、すこし。』
『樋口可南子のものものがたり』などがある。
その6じぶんを救うもの。
- 伊藤
- 仕事のこともそうですし、
買い物の失敗もそうですし、
なにに対しても、気に病んだり、
怒ったりいらいらするより、
たのしいほうに向かおうと思うのって大事ですよね。
- 樋口
- うんうんうん。
- 伊藤
- 樋口さんもきっとそうですよね。
- 樋口
- そう。悔やむより、
次の対処法を考えたほうがいいですね。
悔やむ時間がもったいない。
- 伊藤
- うんうん。
- 樋口
- 対処法を考えるほうが、
前よりもよくなったりする。
悲しいことが起こったら、
女優としてもこれは生かさないと悔しい。
学生時代、女優になる前も、
とても悲しいことがあったとき、
「あれ、わたしどんな顔してるんだろう?」
と思ったことがありました。
その顔が知りたくて鏡を見て。
- 伊藤
- え!
- 樋口
- いま思うと、それはわたしのなかの、
お芝居の資質だったのかもしれません。
じぶんの悲しみにひたるというよりも、
ぽーんと離れて見たい、と思ったんです。
わたしいまどういう顔して泣いてるんだ、って、
そっちの興味が湧いちゃうの。
- 伊藤
- へぇ‥‥!!
- 樋口
- そうか、こういうふうに泣くのか、とか、
あら、ここが赤くなって、みたいなことですね。
学生のときから、
自分観察というのがすっごく好きだったんですよ。
だから、悲しいことが起こると、
その悲しいことだけを考えて悶々とするんじゃなくて、
その悲しいことがもったいない、
せっかく悲しいことがあるのに、
なんとかそれを活かしたい、
どうせ泣いてるんだったら、
その顔はどう泣いてるのか知りたいって。
- 伊藤
- 気持ちの持って行きかたというのは、
どうされてるんですか。
- 樋口
- 持って生まれたもんじゃないかと思うんだけど(笑)。
- 伊藤
- やっぱり! それ、ありますよね。
- 樋口
- 人によって、
同じようにはできないだろうと思うんです。
- 伊藤
- そうですよね。
- 樋口
- だから、どこか楽天的だし、
たのしいと思うほうが、じぶんが楽。
それは、自分を防御する方法なんですよ。
きっと、悲しいことに、
ものすごく弱い人だと思うんです。
でも、育ってきたなかで、
「あ、次のことを考えれば楽になる」って、
たぶん、体で自然に覚えてきたんだと思います。
- 伊藤
- 糸井さんがおっしゃったんですが、
ブイヨンが亡くなってしまったとき、
樋口さんがいつにも増して家事をしているって。
- 樋口
- あのときは、体を動かさないと、もたなかった。
- 伊藤
- ほんと、そうですよね。
- 樋口
- 織り(手仕事)をしたっていうのもそうです。
ブイヨンが亡くなったとき、すごく悲しかったので、
手を動かすということで、すごく紛れたんですね。
もちろん、織ること、染めることが好きだったんだけれど、
頭が真っ白になって、そのことだけしか考えない、
という時間が、すごく、ありがたくって、
手仕事というのは、すごく、
それだけに集中させるものなんだ、と。
- 伊藤
- 精神科医の方の著作を読んだとき、
悩みや怒りは、過去や未来のことで、
現在進行形のことについては、
そうは考えないんだと。
だから、料理って、
すごく気が紛れるんですって。
「いま」に集中するから。
- 樋口
- そうそう!
- 伊藤
- 織りや、掃除も、そうなんでしょうね。
- 樋口
- そうだと思う。
たまたま「ほぼ日」の気仙沼の事務所の近くに
「こぎん刺し」の達人というのがいらして。
ものすごいんですよ、こぎん刺し。
もともと興味があったんですけれど、
やったことは、まったくなくって。
「気仙沼ニッティング」の立ち上げで、
編むことの好きなかたが集まったなかに、
ひとり、すばらしい手芸の達人の
手芸屋さんがいらして、そのかたが
「こぎん刺しをやるのよ」と。
- 伊藤
- 手芸屋さんなんですね。
- 樋口
- そう。しかも、姉御肌の人なんです。
それで、うちに来なさいよ、と誘ってくださった。
すると、わたしの興味あるこぎん刺しが、
もうすっごい数、置いてあって、
織物、機(はた)もあって、
セーターもいっぱい。
- 伊藤
- こぎん刺しって刺繍ですよね。
- 樋口
- 刺繍です。
- 伊藤
- じゃあ、刺繍も、編み物も、
織りもされるかたなんですね。
- 樋口
- そうなの。
こんな手芸の達人見たことない! っていう人です。
そんなかたに
「気仙沼のほぼ日」に行ったおかげで出会って、
こぎん刺しを習いました。
そのかたがおっしゃるにはね、
地震、津波の被害の大きかったなかでも
手を動かしていたと。
そのむかし、船乗りだったご主人が
亡くなったときも、
手を動かしていたから、
わたしは乗り越えられたんだ、って。
- 伊藤
- ‥‥。
- 樋口
- そうかぁ、って、すごくジンとしてしまって。
手仕事というのは、
なにかを救うんだなぁ、って。
- 伊藤
- ちゃんと成果が見えますよね。
これだけ進んだっていう。
- 樋口
- うん。
- 伊藤
- 料理もそう。
できあがりがちゃんと見えるし、
手を動かすの、いいんですよ、きっと。
- 樋口
- そうね。
で、ブイヨンが亡くなったときも、
その悲しみを埋めるために 赤い布を織ったら、
なんだか元気がでそうな気がしたの。
- 伊藤
- うんうん。
- 樋口
- 蘇芳(すおう)っていう、
真っ赤に染まる染料があるんですが、
ちょうど志村ふくみさんの
『わたしの小裂たち』という本に、
真っ赤な布が出ていたので、これは織りたい、と。
そうすると、じぶんが楽になるような気がした。
じっさいに、真っ赤な蘇芳の織りをしたとき、
ほんっとに、楽になったんです。
- 伊藤
- へぇーー‥‥!
- 樋口
- じぶんが好きなもの、求めてるものを、
どこかしら引き出しに収めていたんでしょうね。
その手芸の達人に出会ったときに、
ビビッと反応したのも、そうでした。
やっぱり、好きなものの引き出しというのは、
じぶんを救うんだなって。
(つづきます)
2021-01-06-WED