2021年さいしょの「weeksdays」は
樋口可南子さんの登場です。
「ほぼ日」ではブイヨンやブイコの
“人間のおかあさん”として
「気まぐれカメら」にたびたび登場していますけれど、
こうして、おしゃべりの場に出ていただくのは初めて。
とくにテーマを決めずにおしゃべりした2時間、
どうぞ、おたのしみくださいね。

写真=有賀 傑
着付け(樋口可南子)=石山美津江
ヘアメイク(樋口可南子)=藤垣結圭
ヘアメイク(伊藤まさこ)=草場妙子

樋口可南子さんのプロフィール

樋口可南子 ひぐち・かなこ

ひぐち・かなこ

俳優。1958年新潟生まれ。
株式会社ユマニテ所属。
大学在学中の20歳の時、
ポーラテレビ小説『こおろぎ橋』で主演デビュー。
以後、数々の映画、舞台、ドラマ、CMなどに出演。
2007年よりソフトバンクモバイルのCM
「白戸家」のシリーズで
お母さん役を演じている。
「ほぼ日」では「気まぐれカメら」に
“人間のおかあさん”としてたびたび登場、
いぬねこ写真アプリ「ドコノコ」では
「ブイコ(お母さん版)」を更新中。
書籍に『樋口可南子のきものまわり』
『いいものを、すこし。』
『樋口可南子のものものがたり』などがある。

●公式プロフィールはこちら

その7
わたしたちの中に眠るもの。

伊藤
樋口さん、コロナ中は、
どんなふうに過ごされてたんですか。
樋口
まず、ものを捨てました。
伊藤
おお!
樋口
とにかく、気になっていたものを捨てて、
それでも残った物をどうするか、ってなったときに、
収納法を考えて、通販で組み立て式の家具を買いました。
伊藤
組み立てたんですか!
樋口
そう。ものすっごく大変なんですよ。
伊藤
糸井さんは?
樋口
糸井はダメなんです、まったく。
ほんっとうに、そういうことが。
家事とか、物を組み立てるとか、
引っ越しの準備とか、
まっっっっったく、できない人なので。
伊藤
へぇーー!
樋口
うちの大工仕事は、だいたいわたし(笑)。
伊藤
あら!
樋口
ものぐさで、しないんじゃなくて、
苦手だから、しょうがないんですよ。
これだけ付き合ってくると、
はっきりこの人は苦手なんだな、
っていうのがわかる。
だから、組み立てるのは、わたし。
ただ、最後に壁にしっかり付けるのだけは、
わたしの力ではできなかったので、
そこだけは糸井に声をかけましたが、
それまでは必死になって組み立てましたよ。
そんなことをしていましたね。
伊藤
まず捨てて、残ったものはちゃんと収めて。
お片付けをしたっていうことですよね。
樋口
ふだんも、時間があったら何をするかって、
捨てることから入りますね。
次は、うーん、‥‥緑。
伊藤
みどり?
樋口
ちょっと観葉植物にハマりました。
いままでそんなことは思わなかったんです。
京都に行けば、ふんだんに自然の緑があった。
でも、京都のうちを手放していたので、
緑が見たくなってきたんですね。
それで、ネットとか、近くの花屋さんとか、
YouTubeでこの観葉植物のお店がいいですって、
そういう情報を調べて、買いに出かけたり。
伊藤
なるほど。
じゃあ、これからしたいことは何ですか。
樋口
着物を織りたい。
いま、織りとしては、帯が完成したんです。
だから次には着物を織りたいと思って、
どういう着物を織ろうかなぁと、
そういうことを考えています。
縦糸の色をまず決めなくちゃいけないので、
どういう色がいいかなぁとか、
なんべんも、なんべんも、試行錯誤して。
伊藤
着物を織る! すごいですね。
樋口
わたしの通っているのは
東京の「アトリエシムラ」なんですが、
そこにはこれまで練習機(れんしゅうばた)しか
なかったんです。
それでは着物を織ることができないんですよ。
そもそも、着物って、
機のことからなにからぜんぶを勉強して
はじめて織るものだと思うんだけれど、
いまは京都に通うこともできない。
そうしたら、京都から、東京に、
おおきな機がやって来ることになって。
伊藤
へぇーー!
樋口
それを使わせていただいて、なんとか、
1枚着物を織りたいと思っているんです。
伊藤
わたし、じぶんに、
その根気がないと思うんですよ。
樋口
いや、それは織ったことがないからそう言うの。
わたしも、いままで取材で、
機を織る人のところに行ったり、
そういう経験をいっぱいしてきたんだけど、
織ることには、まったく興味がなかったの。
伊藤
それが、どんなきっかけで?
樋口
TOBICHIで、ふくみさんのお孫さんである
志村宏さんの染めのワークショップを受けたんです。
それがあんまりにもたのしくって、
それを志村ふくみさんの娘さんの
洋子さんが知ってくださった。
それで、京都にあったうちと、
志村ふくみさんのところが歩いてすぐだったので、
「染色がおもしろいんだったら、
うちの藍甕で藍染めをしてみたら?」
って、おっしゃってくださった。
藍甕で染めるなんて、
ふつうなら絶対できないことなんですよ。
藍甕の藍というのは、
みんなが毎日毎日手をかけないと、
育っていかないものなんです。
伊藤
生きてるものなんですよね。
樋口
そう、生きものなんですよ、ほんとに。
しかも、ぜんぜんいい匂いじゃない。
なんともいえない、不思議な、生きてる匂い。
手を入れると、ちょっとドロっとしてる。
まるで生命体の中に手を入れたような感じ。
それに、すごく感動してしまって。
「もう織らなくちゃ失礼でしょ」というか、
「織りたい」という気持ちになったんです。
そうしたら、3年前かな、
東京に工房ができたので通うことにしたんです。
だからね、まさこさん、いままで、
わたしやだ、って思っていたことでも、
スイッチが入ると、人間っていくつになっても変わる。
伊藤
へぇーー!!
樋口
わたしも機織りなんか
絶対好きじゃないと思っていたもの。
伊藤
よかった。
わたしもじゃあ、いつか、やれるかも。
樋口
やれる、やれる。
みんな、ほんとに目覚めてないだけで、
それを持っていて、スイッチさえ入れば、できる。
織るという作業は、
苦手な人はいるかもしれないけど、
やってみたら好きだという人が、
だいぶ出てくると思う。
体の中に入ってるっていうのかな。
だって、もともと農村とかで、
なんにも教えてもらわないで、
お母さんから受け継いだことでしょう。
農閑期、うちに機があったので、織ってます、
みたいに。
伊藤
そうですよね。
組み込まれているのかもしれないですね。
樋口
それがいま目覚めてないだけで、
出てこない人はいっぱいいると思ってる。
こぎん刺しの話に戻っちゃうんだけれど、
農閑期に、女の人が、
着古した麻の生地に木綿の糸を使って、
糸を細かく刺繍すればあたたかくなるだろうと
刺していったものだけれど、
ただあたためるだけだったら。
たくさん糸を通せばいいだけの話。
それを「やっぱりきれいにしたい」というところから、
あんなにきれいな模様ができていった。
その緻密さとともに、
じぶんだけの時間を
たのしんでいたんだろうなと思うんです。
そう、たのしんでいるんですよ。
それが今でも感じられるんです。
手作りのものの感動って、そこですよね。
伊藤
せっかくやるんなら、きれいなものがつくりたいし、
きれいなものがつくれたら、うれしいですしね。
樋口
きれいなものが見たいっていうのはね、
どんな環境でも救いになる。
日本の女の人には、
それを緻密に繊細につくる力があると思う。
いま、便利だし、あたたかいものがいっぱいある。
みんな、そんなことする必要がないから、
やらないけれど、
でも、眠ってるんだなと思う。
機織りに行って、
じぶんの中に眠る手作業のたのしさが。
わたしも、眠っていたものが、
起こされる感じがした。
だから、言いたいの、
もったいないよ、みんな眠ってるよ、って。
伊藤
それぞれに、あるのかもしれないですね。
樋口さん、きょうはたくさん
おしゃべりをさせていただいて
ありがとうございました。
人に会う機会が少なくなりましたが、
こうして久しぶりにおしゃべりすると、
ほんとうにたのしいです。
樋口
こちらこそありがとうございました。
やっぱり、すごくしゃべりたいよね。
じぶんがこんなにしゃべりたかったんだ、って。
伊藤
「weeksdays」のミーティングで、
毎週木曜日にみんなと会うんですけど、
そのときも、ずっとリモートで、
それが解放されて、みんなで会ったときの
うれしさたるや!
雑談から生まれるものもあるし。
樋口
あるの、うん。
伊藤
リモートだと、これ決めて、これ決めて、はい、
箇条書きを消していっておしまい、
みたいな感じだったんですけど、
集まって話すと、全くちがって、うれしかった。
そういえば、コロナでステイホーム中、
一度、しらすをお送りしたときに、
樋口さんがお電話をくださって、
そのときは、ほんとうに
誰とも会ってないときだったので、
すっごく、うれしかったです。
樋口
電話、いいんです。
いまメールだけど、
電話だけでもずいぶん助かる。
伊藤
助かりました。
そのあと、一人暮らししてる友達に、
電話しまくりましたもん。
樋口
たのしいね、電話。
伊藤
メールやメッセージのやりとりでもいいんですけど、
やっぱり、声のトーンとか調子とか。
樋口
うん、大事。
メールだと、隠しこんじゃうこともあるけれど、
しゃべればいろんな話題が出てくるし。
伊藤
あのときは、声を聞くのって、
すっごいいいんだなぁ、
人恋しかったんだなぁと思いました。
樋口
こんなに人恋しい、しゃべりたい。
伊藤
またおしゃべり、させてくださいね。
樋口
もちろん。そうだ、一緒に気仙沼に行こうよ。
伊藤
ぜひ! ありがとうございます!
(おわり。ご愛読ありがとうございました。)
2021-01-07-THU