COLUMN

毛玉

島本塁

「weeksdays」では2週にわたって
セーターを特集します。
今週のコラムでは、いろいろなかたに
セーターにまつわるお話を書いていただきました。
きょうは、映像ディレクターで編集者の島本塁さんです。

しまもと・るい

映像ディレクター/編集者
1978年京都市生まれ。
京都大学教育学部を卒業ののち、マガジンハウスに入社。
雑誌『relax』『Tarzan』などの編集部で勤務ののち退社。
東京藝術大学大学院映像研究科に入学。
現在はフリーの映像ディレクターとして、
広告やMVなどの映像を撮る日々を送っている。
東京在住、よく旅に出る。

ある冬の晩、先輩の編集者と
ふたりのフォトグラファーとともに
楽しいひとときを過ごしていた。
6、7年前のことだったかと思う。
美味しいごはんを食べていたのは確かだけど、
どこのレストランだったかは覚えていない。
木製のテーブルにはキャンドルが置いてあったような、
いや置いてなかったような‥‥。
どんなきっかけでその話題になったのか、
同じく今では記憶にないのだけれども、
「セーターをどれくらいの頻度で洗うのか。
毛玉の処理はどうしているのか」
という議題が持ち上がった。
3人は、ワンシーズン洗わないし、毛玉も気にしない
という意見であった。
それじゃあなんか心許ない感じがする
という発言をしたひとりに対して、3人は
「いやいや、多少毛玉ついているくらいが
風合いが出ていい」
と突っついた。
ぼくは、鮮やかな緑色のセーターを着ていて、
ぽろぽろとできていた袖の毛玉を自慢げにさすってみせた。

時は遡り、ハイティーンのころ。90年代半ば。
制服のないハイスクールに通っていて、
おしゃれに目覚めていた。
ビートルズを入り口とし、イギリスの音楽に傾倒していた。
60年代に活躍したザ・フーやスモール・フェイセズ
といったモッズムーブメントの影響を受けたバンドが、
当時数多く台頭していた。
「モッズ、カッコイイ!」と心踊らせ影響を受け、
細身のパンツにジャケットといった洋服を好んだ。
そんなぼくには、すぐにピンと来ていなかったのだが、
アメリカでも新しい音楽の潮流があり、
ニルヴァーナというロックバンドが大流行していた。
そのバンドにビシバシ影響を受けていたクラスメートが、
ある日、毛玉だらけのボロボロセーターを着て
学校にやって来た。
ニルヴァーナのフロントマン、
カート・コバーンのスタイルである。
ぼくは、その姿にウググっとなった。
当時ぼくとセーターの付き合い方は、
「洗濯をよくする/毛玉気になる」派であったからだ。
こういう格好良さもあるんだなと思った。
カートが着ていたセーターをぼくは買い求めなかったけど。

それから20年以上が経った。
時に洋服に関する仕事をし、
どちらかと言えば着道楽傾向にあるぼくは、
いろんなセーターと付き合ってきた。
おろしたてのつるっとした上質なセーターも気分がいいし、
数年着古して毛玉ができたものも愛用している。
颯爽と流行の波に乗る楽しさを今も持っている反面、
時代の流れや人の影響をあまり受けず
自分の性分に合うものを探す喜びも
少しずつではあるけれども得てきている。
増えゆく白髪が似合うオジサンに
なれればいいなと願うように、
毛玉がついたセーターをもっとぐっと格好良く
着こなせるようになりたいと思っている。

理想はこう。
イギリス北部の片田舎で余生を楽しむ男性が
庭いじりの際に着用しているような無骨なセーター。
長年着こなしていて、毛玉はついているが
適度な手入れもして、決してみすぼらしくみえないもの。
そんな一着が自分の身や心にぴったりと馴染むことだ。

2018-10-09-TUE