REPORT

ロンドン イセキアヤコさん
王や女王の棺に囲まれた接種会場、
個人にできる治験登録、
パンデミック終息後の働きかた。

コロナ禍のなか、伊藤まさこさんが、
世界各国の9つの街に住む友人たちと
オンラインで話をしたのは、
ちょうど1年前のことでした。
「1年後にはきっと会えるね」
‥‥なんて、そのときは思っていたのに、
いまも、わたしたちの暮らしは、ままならないまま。
ひさしぶりにみなさんに連絡をとり、
それぞれの様子を綴っていただくことにしました。
遠い町のようすを、たっぷり、連載でおとどけします。

(前回のオンライン対談は、こちらからごらんくださいね。)

登場するみなさま

(登場順)
ストックホルム‥‥明知直子さん
ロンドン‥‥イセキアヤコさん
ホーチミン‥‥田中博子さん
パリ‥‥鈴木ひろこさん
ハワイ‥‥工藤まやさん
ミラノ‥‥小林もりみさん
メルボルン‥‥田中博子さん
ニューヨーク‥‥仁平綾さん
ヘルシンキ‥‥森下圭子さん


イセキアヤコさんのプロフィール

いせき・あやこ
京都出身。2004年よりイギリス、ロンドン在住。
アンティークやヴィンテージのジュエリーを扱う
ロンドン発信のオンラインショップ、
tinycrown(タイニークラウン)
を運営している。

■Twitter
■Instagram
■「イセキアヤコさんのジュエリーのお店」(ほぼ日ストア)


この原稿を書いている4月4日現在、
イギリスは3回目のナショナルロックダウン、
そしてイースターホリデーの真っ只中です。
スーパーマーケットには春らしい水仙の花束や、
イースターを祝う卵の形のチョコレート、
うさぎの人形などが並んでいます。

私の住むロンドンの街は、
今はレストラン、小売店、ホテル、
文化施設などは閉まったままで活気はありません。
できてしまった空き店舗も目立ちます。
それに、どうしても出勤しないといけない職業以外は
まだ家でリモートワークを続けているひとが大半です。

けれども、新規感染者数が大幅に減ったことを受けて、
3月上旬から全国の子どもは
オンライン授業から登校に切り替わりました。
我が家も12歳の息子と6歳の娘がそれぞれ学校に戻り、
すこし日常が戻ってきてホッとしています。

今後イングランドは、4月12日、5月17日、6月21日と
3段階をへて徐々にロックダウンが緩和される予定で、
順調にいけば、6月21日には人と人との接触を
制限する法的な規制は全て解除されるとのことです。
感染者がまた増えれば、昨年の12月のように
政府が予定変更に踏み切ることもあり得るでしょうが、
今は国民へのワクチン接種も
どんどん進めているので、うまくいくと信じたいです。

▲散歩には人の少ない森へ家族でよく出かけました。
これは『クマのプーさん』のモデルになったという
ロンドン郊外のアッシュダウンフォレスト。

我が家にはまだワクチン接種のお知らせはきていませんが、
周りから、接種を終えたという話を
ぽつぽつ耳にするようになりました。
たとえば高齢である友人の両親、
基礎疾患のある50代のご近所さん、
妻が妊娠中の30代の友人、などです。
とくに、Covid-19のワクチンによる
胎児への影響はまだ明らかになっていないため、
妊婦はワクチン接種を受けることができず、
かわりに、一緒に住む配偶者/パートナーが接種をして、
ウィルスを家庭内に持ち込むリスクを減らす、
という対策がとられています。
とても理にかなった配慮だと思います。

ちなみに、ロンドンのワクチンの接種会場はさまざまで、
荘厳なウエストミンスター寺院の中で、
英国史の名だたる王や女王の棺に囲まれて
ワクチンを打ってもらったひともいれば、
公園の仮設テントで打たれたひともいます。
私はいったいどんな会場にあたるんだろう、
と、ちょっとドキドキ、期待半分です。

昨年の3月以降、イギリス政府が国民に向けて
新しいルールを発表するたびに、
世の中がどんどん変わっていくのを感じていました。
何度も押し寄せてくる大波に揺られる舟のような
気持ちでした。
12月には1日の新規感染者数が6万人を突破。
息子が以前通っていた小学校の先生、
同級生の家族、夫の友人。
だんだん知り合いがコロナウィルスに感染していくにつれ、
自身も感染の危険ともう隣り合わせだという実感と、
ベストを尽くして予防をしても
患ってしまうことがある、
そんな諦めの気持ちが湧いてきました。
けれども、できるだけ心を平静に保ち
日々の生活を粛々と続けるしかない、と
自分に言い聞かせました。それは今も同じです。

一方で、いち個人にできることは何か考えた末に、
私は昨年治験に登録しました。
イギリスは、オクスフォード大学の
ジェンナー インスティテュートという研究所で
製薬会社アストラゼネカと
Covid-19のワクチンの開発を進めてきました。
ジェンナー インスティチュートはイギリスに住む
健康な男女の治験参加者を募集しています。
治験登録者はまず最初にオクスフォード在住者から
お呼びがかかるそうなので、ロンドンにいる
私のところまではまだ連絡が来ていませんが、
ワクチンの製造と普及が始まった今も、
もし要請があれば協力するつもりでいます。

▲アッシュダウンフォレストは、
12月に訪れたので寒かったですが、
新鮮な空気を吸うことができて気分転換になりました。

夫が勤めているロンドンの会社は、
社員全員がもうかれこれ1年
自宅からリモートワークを続けています。
そして、そのリモートワークが当初の
想定以上にうまく機能しているそうで、
先ごろ、会社からある発表がありました。
パンデミック終息後もリモートワークは継続、
ひとりひとりのデスクは撤去して、
今後、社屋は予約制の
打ち合わせスペースとして使用する、
というのです。
つまり、もう必ずしも通勤に便利な場所に
住まなくてもよくなるわけで、
インターネット環境さえ整えられるのなら、
カントリーサイドへ引っ越してもOK、という
選択肢ができました。
こうした事例は日本でも起こっていると
想像しますが、ほんとうに、
場所に縛られずに仕事ができるというのは
ストレスの大きさが全く違います。
この点は、コロナ禍によってもたらされた
ポジティブな変化でした。

まだ先が不透明な部分はありますが、
イギリスは7月末までに成人の国民全員に
ワクチンを打ち終わる、とアナウンスしています。
科学の進歩のおかげで、
数百年前の疫病と比べると
パンデミックは驚異的なスピードで
終息へと向かっているように見えます。
早くまた、誰もが気軽に
国々を行き来できる日が来るよう祈っています。

2021-04-26-MON