ヘルシンキ 森下圭子さん[2]
自分だけの場所、
島暮らしの夏。
コロナ禍のなか、伊藤まさこさんが、
世界各国の9つの街に住む友人たちと
オンラインで話をしたのは、
ちょうど1年前のことでした。
「1年後にはきっと会えるね」
‥‥なんて、そのときは思っていたのに、
いまも、わたしたちの暮らしは、ままならないまま。
ひさしぶりにみなさんに連絡をとり、
それぞれの様子を綴っていただくことにしました。
遠い町のようすを、たっぷり、連載でおとどけします。
(前回のオンライン対談は、こちらからごらんくださいね。)
登場するみなさま
(登場順)
ストックホルム‥‥明知直子さん
ロンドン‥‥イセキアヤコさん
ホーチミン‥‥田中博子さん
パリ‥‥鈴木ひろこさん
ハワイ‥‥工藤まやさん
ミラノ‥‥小林もりみさん
メルボルン‥‥田中博子さん
ニューヨーク‥‥仁平綾さん
ヘルシンキ‥‥森下圭子さん
森下圭子さんのプロフィール
もりした・けいこ
1969年生まれ。
ムーミンの研究がしたくて
1994年の秋にフィンランドへ
夏は島めぐり、秋は森でベリー摘みに始まって茸狩り、
冬は寒中水泳が好き。
現在、ヘルシンキ在住。
「取材や視察のコーディネートや通訳、
翻訳の仕事をしています」
訳書に『ぶた』『アキ・カウリスマキ』、
ミイのおはなし絵本シリーズ、
『ぼくって王さま』
『トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン』などがある。
映画『かもめ食堂』の
アソシエート・プロデューサーとして
初めて映画の仕事を体験。
「ほぼ日」では2004年から2005年にかけて
『サンタの国、フィンランドから。』を、
2009年から2012年にかけて
『フィンランドのおじさんになる方法。』を連載。
2015年には作家・重松清さんのインタビュー、
『トーベ・ヤンソンの人生を、ぼくたちはもう一度生きる。』
にも登場している。
出典をはっきり覚えていないのですが、
メンタルヘルス・フィンランドが発信していたのかな、
あるとき「安全な場所を確保しよう」
という記事を見つけました。
忘れたくなくて手帳にメモしておいたんです。
自分の安全が脅かされることの絶対ない場所を、
頭の中に描けるようにしておこう。
心が落ち着く場所。
人がいてもいいけれど、
その人は絶対的にあなたの安全を確保できる、
つまりあなたが安心できる人であること。
風景は必ずしも静かである必要はなく、
あなたが落ち着けるのであれば、
岸壁に波が打ち付けられる様子でもいい。
自分が落ち着ける安全な場所を頭に描き
(その風景は実在してもしなくてもいい)、
少しずつ五感を働かせる。
音、匂い、光、風、など。
何かあったら、さっとこの世界に逃げよう。
日ごろからこんな場所があるだけで
救われることもあるそうです。
自分の感覚が働いていることを確認することは、
とても大切なのだろうと思います。
新規感染者数がゼロになる日もあって、
楽観的に暮らせた夏。
私は1年前に話したことを実行していて、
ムーミンの作者が
子どもの頃から夏を過ごした群島地域で
島暮らしをしていました。
子どもの頃のように駆け回り、
新しい友だちを作って遊んだり、
森の中に自分だけの場所を見つけ、
そこに名前を付けたりして。
挙句の果てに、森で遭遇した人に
鹿と間違われたことも2度ほどありました。
いつの間に鹿の呼吸を。
私はこの島暮らしの光景をベースに
自分の中に逃げ場を作っています。