16時頃の激しい雨。
今週の「weeksdays」は、
「Honneteの涼しい服」にあわせて、
京都・北海道・バリ島に暮らす
3人のかたに書いていただいた
「涼しい」をテーマにしたエッセイをお届けします。
きょうは、「KAFE工船」店主の、瀬戸更紗さんです。
せと・さらさ
1980年生まれ。コーヒー焙煎家。
オオヤコーヒ焙煎所のファクトリーワークスとして、
京都に自家焙煎コーヒー専門店KAFE工船を開業。
■KAFE工船
涼しいについて書きたいけど、
その前にパンデミックである。
そのことは無視できない。
家が燃えているのに、そのことを書かずに
冷えたシャルドネの話ができないのと同じだ。
いやぁ大変なことになってきましたね。世界。
もうめちゃくちゃ不安だ。
薄々気づいていたけど、世界は本当にままならない。
何度も思ったはずなのに忘れてしまう。
突然だけど、古来、人類は生き残るだけで精一杯でした。
ケガしたって病院ないからね。
いつも死なないことだけを考えていたんだろうと思う。
人間が生存できる温度帯は
マイナス50℃から50℃までですが、
体温は35℃から42℃まで。
その差は7℃ですよ。たった7℃。
私たちの身体は毎秒細かくバランスをとっている。
7℃の境界の中で。死なないために。
「もう死にたいよ」なんて口では言っていても、
身体は俄然生き残ろうとする。
人間は自分で死ぬことができると思っている。
でも、子供のころ読んだ
「世界のありえない話」にはそうは書いていない。
どうやら100パーセントその計画に
成功するわけではないらしい。
崖から飛び降りて、木に引っかかってしまった人。
トラックが自分の上を通り過ぎても無傷だった人など。
あり得ないというには多くの人が
自分の寿命を自分で決めることに失敗している。
偶然という名のもとに。
つまり心と裏腹に、
私たちはどんな世界であったとしても、
バリバリ生きてやろうと思っているのだ。
なんでかは知らないけど、ぶっちぎりで生存する気満々だ。
ヒトが居なくなったら地球はほっとするはずなんだけど。
創造という名の破壊行為しかしない人類を。
種の繁栄という割に、
小さなことにこだわって殺しあってばかりの生き物。
犬が同じ犬を駆逐するなんてありえますか?
柴犬がプードルの巻き毛が気に入らないなんてことで、
殺しあったりするんだろうか?
ウッカリ死んでしまうことがあっても、
絶滅させるまで駆逐する。
自分だけワクチンを打って、
ミサイルを落としに行くなんてことしないでしょ。
素手も使わずに、文明の利器、高度な知能とやらで
自分たちと同じ生物を駆逐するなんてことを考えるのは
ヒトだけだ。
よっぽど古来、生きづらかったんだなと思う。
相対化するということの使い道を
いつも私たちは間違っている。
そんなわけで、明後日の方向にむかっているものの、
人類は絶対生き残ろうとしています。
なんでか? それは誰にも解らない。
解ったらどんなに楽だろうと思う。
たくさんの賢い人たちが、
「なぜ人は生きるのか?」という事を考え続けたものの、
それをみんなが解る言葉で説明できた人は
多分いない(と思う)。
なんでか知らないくせに私も、
本日もトコトン生き残りたいと思うし、
大きく話は脱線しましたが、
暑さからも身を守りたいと思う。
想像しただけで眩暈がする夏。
あっという間に死んでしまうもの。
知っていますよ私は。
昔、真夏に冬用のタイツを履いて
出かけたことあるから。
だからもちろん、クーラーの効いた部屋で
まるで他人事のように強い日差しを眺めていたいです。
冷えたシャルドネがあったら最高だと思う。
夏に最高で最先端で最速のシャルドネを探して
インターネット海をグローバリズム号に乗って旅に出る。
それでも自然の気まぐれには全くもって敵わない。
何を隠そう焙煎家なので
焙煎機を1日に8回まわしたりしています。
うちの「霧ヶ峰」か「大爽快」か
「プラズマクラスター」かは忘れちゃったけど、
それは全く役に立っていない。
重量1トンくらいの鉄の塊が
250℃近くまで熱くなっているのだから、
霧ヶ峰の努力も空しく、
焙煎所の内気温は30℃を超える。
砂漠で遭難するってこんな感じ? と毎年思う。
そんなヘトヘトの16時頃、激しい雨が降ります。
夕立です。
「親にも殴られたことないのに!」
と言わんばかりの雨が。
みるみる、くたびれた世界が息を吹き返し、
起き上がってくる様は、この上ない至福です。
水に包まれた世界が分子レベルでダンスを踊る姿を
ずっと眺めている。
生きてて良かったな。って思う。
なんでかは知らないけれど。