REPORT

女たちのために。
遠藤カホリ

saquiの服を愛する3人の女性たちに、
その魅力について書いていただきました。
今回は、パリ在住の料理人、遠藤カホリさん。
岸山沙代子さんのパリ時代をよく知る遠藤さんから、
saquiの服はどんなふうに見えているのでしょう?

遠藤カホリさんのプロフィール

えんどう・かほり
長野県生まれ。
1995年よりパリに住む。
「Rose Bakery」
「Nanashi(ナナシ)」のシェフを経て、
2016年にオーナーシェフとしてレストラン
「Le Petit Keller(ル・プチ・ケレール)」を
パリ11区にオープン、野菜、穀類を中心に、
有機食材を使った季節感あふれる料理を提供している。
フランス語の著書に『Une Japonaise à Paris』
『Japon, Cuisine intime et gourmande』
『Les Bento de Nanashi』、
日本語の著書には『NanashiのBENTO』
(アノニマ・スタジオ)がある。

Le Petit Keller


私が「きっしー」こと岸山沙代子さんに
初めてお会いしたのは、今からほぼ10年前に遡る。
当時のきっしーは、パリに移住してまだ間もなく、
語学学校に通いながら
集英社の雑誌「LEE」の編集者として
活動をしておられているということだった。
私の方はというと、立場的にはレストラン
「Nanashi」のシェフではあったが、
ちょうど3人目の子供を出産したところだったので、
パリ郊外の自宅でのんびりと産休中だった。
そんな私に「LEE」誌上での連載を
依頼して下さったのがきっしーだった、というわけだ。

何通かのメールでやり取りをした後、
それでは実際に会って打ち合わせをしましょうとなり、
とあるお昼過ぎにきっしーが私の自宅へやって来たのが
私たちの記念すべき初対面。
仕事の打ち合わせなので、
初めはお互いにかしこまっていたものの、
徐々に緊張が緩まるにつれて、
敬語にタメ口が混ざるようになり、
5杯目のお茶がワイングラスに変わる頃には、
すっかり仲良しになっていた。
こうしてきっしーと私の「担当編集者と著者」
そして「同年代の女友達」というダブル関係が始まった。
つまり私は、撮影中に的確な判断を下したり、
てきぱきと文章に赤ペンを入れたりする、
有能な編集者としてのきっしーを知ると同時に、
肩を並べてパリの街中を歩いている時や、
ワインバーでグラスを傾けている時にふと現れる、
将来に対して少なからず迷いや不安を抱える
30代女性としてのきっしーも
発見していくことになったのだ。

このやや不安定な方のきっしーがある日
「カホリさん、実は、私ね‥‥」
と打ち明けてくれたのが、
ゆくゆくはパリでパタンナーの学校に通い、
洋服作りの基礎をきちんと学びたいと
思っているということ。
「型紙を自分で描けるようになりたいんですよー。
え? 自分のブランド? いやいやまさかー! 
私はあくまでも洋服作りの職人を目指したいんです」
なんて言ってたっけ。
当時、私から見るきっしーは
編集者以外の何ものでもなかったので、
今思うと全く的外れで申し訳ないのだが、
「まあ、趣味を追求するのもいいかもねー」
程度のリアクションしか私には見せられなかった。
きっしー、本当に失礼しました。
その後、本当にパタンナーの学校を出て、
パリのとあるブランドで
研修生として働き始めたきっしーは、
実はもうすでに、
服作りの職人へと脱皮している最中だったのだな。

それから間もなく
パリへの未練を残しつつも
日本へ帰国したきっしーの中では
もうすでにsaquiのイメージはあったのだろうか? 
多分あの頃のきっしーは、
暗い海を渡る一艘の舟のように、
行き先はわからなくても、
ただ自分を信じて前につき進むしかなかったのだろう。
東京郊外のアパートでチクチクと針を進めながら。

だからそれから2年だか経って、
久しぶりにパリで顔を合わせ、
saquiを立ち上げて、軌道に乗っているという
報告を受けた時は心から嬉しくもあり、
また、「やるなー、きっしー」と思った。
その後めでたく結婚され、もうすぐ母親になるきっしー。
30代の揺れを見事に昇華して、
自分自身の道をザクザクと切り開いて行く、
素晴らしい大人の女性に育ったきっしーに、
私は心からエールを送りたいと思っている。
また今後もきっと、大胆な人生展開で
パリの女友達たちを驚かせてくれることと、
少なからず期待もしているのである。

あ、この文章ではsaquiの洋服について
書いて下さいということだったっけ。
洋服のことはよく分からないので恐縮だが、
私がsaquiの洋服について思うのは、
それがまさに、
きっしーのような女性のためにあるということだ。
仕事に、家庭に、遊びにとことん打ち込む、
一昔前だったら「男勝り」とも言われかねない
女たちのための、女らしい洋服。
生意気なことを言うようだが、
今日、洋服は美しいだけでは女の味方にはなれないのだ。
それを心得ている岸山沙代子さんは、
何度でも家で洗濯できるか、
アイロンをかけなくてもシワにならないかといった、
現実的な問題もクリアし、
かつ着る女性をさりげなく美しく見せるアイテムを
考えてくれている(と思う)。
特に、きっしーが生地選びで見せる審美眼は、
彼女が「洋服デザイナー」というよりは
「洋服作りの職人」であることの
証拠なのではないだろうか。

例えば私が大好きな「リボンパンツ」。
ハイウエストのすっきりとしたラインで、
ウエストはゴム。
ジャージかパジャマのボトムのような気軽さで穿けて、
飾りのリボンをキュッと締めれば女心も引き締まる。
旅行カバンに畳んで仕舞ってもシワにならず、
洗濯機OK。
合わせるトップスによって、スポーティブにも、
カジュアルにも、フォーマルにも見える、
まさに優れものなのだ。
あまりに便利なので、
私にとってはジーンズをしのぐ定番アイテムとなっている。
男勝りでも、そうでなくても、
全女性に心からお薦めしたい。

2021-06-23-WED