夏用の、いいパンツができました。
そもそもをお話しすると、
saquiのテーパードリボンパンツの形、穿き心地を
とても気に入っていた伊藤さんが、
「このイメージで、暑い夏も穿ける素材のものがあったら」
と、saquiの岸山さんに相談をしたのがきっかけ。
涼しくて品があって透け感のない生地を探すのは
ちょっと難航しましたが、
やっとみつかった素材は胸を張って
「最高!」と呼べるもの。
その生地探しの経緯から、
夏仕様のためのパターンの変更のこと、
コーディネートのことなどを、
ふたりのトークでおとどけします。
全1回、です。

岸山沙代子さんのプロフィール

岸山沙代子 きしやま・さよこ

大学の家政学部で被服を学んだのち、
手芸・服飾系の出版社へ。
働きながら「東京立体裁断研究所」に通い、
立体裁断を学ぶ。
別の出版社に転職後、伊藤まさこさんの担当に。
編集者歴10年を経た頃、
デザイナーになる夢をかなえるべく、渡仏、
パターンの学校へ通う。
パリでの3年を経て帰国、自宅をアトリエにして
「SAYOKO KISHIYAMA (サヨコキシヤマ)」名義で
自身のデザインによる服づくりをはじめる。
2016年「saqui」スタート。
そこから年に2回のコレクションを発表しつづけている。

●岸山さんについて
くわしくはこちらのコンテンツをどうぞ。

全1回
1年かけて生地を探しました。

岸山
伊藤さんが、1年以上も前から、
「夏用に、saquiのテーパードリボンパンツ
涼しい生地のものが欲しい」
とおっしゃっていたんですよね。
それを頭に入れながらずっと生地を探していたんです。
生地の展示会やメーカーに行って、
きれいな黒で、夏用のいい生地はないですか、って。
いろんなところに声をかけました。
伊藤
皆さん、サンプルをいろいろ送ってくださったと。
岸山
はい、ほんとうに協力していただきました。
weeksdays用なんですと伝えると、
いっそう気合いが入ったり。
伊藤
わぁ、とってもうれしいです。
それで、いろいろなメーカーの
薄手の黒い生地を比較した結果、
やっぱりFaliero Sarti(サルティ)
なったんですよね。
岸山
そうなんです。ギリギリで決まりました。
途中まで「これがいいかも」って
思っていた生地があったんですが、
自分の中で納得がいかなくて。
前のサルティのパンツの夏版にするには、
薄手でも安っぽさがなく、
気持ちのいい素材であることが重要。
だからやっぱり洗える化繊がいいんです。
そういう条件で探していくと、
納得のいくものに、なかなか出会えなくて。
リネンだと、シワがよりますしね。
伊藤
たしかに。
いまは化繊のいい素材があるはず、って。
岸山
そうなんです。化繊で、高級感のある生地が。
ずばり、サルティの今までの生地がそうでしたからね。
でも夏はさすがに穿きづらい素材ですから。
伊藤
サルティに決まる前、最終候補に残った生地は、
どういうところがだめだったんですか。
岸山
サンプルを作ってみて、穿いてみて、
「やっぱり違う」と思ったんです。
伊藤
いちど作ったんですね。
岸山
しかもスタッフにしばらく穿いてもらったんですね。
すると、私の目には
「うーん? 大したことないな」と感じられて。
伊藤
そうなんだ! 見た目からして。
岸山
穿き心地はわるくないはずなので、
穿いている本人は「とってもいいですよ」
と言うんだけれど、
そばで見ていた私は「ちがう」と引っ掛かってしまった。
けれどもサルティから、この生地の提案がない段階で、
どうしようかと悩んでいたんです。
あの生地の薄いバージョンはありませんかと
生地屋さんを通して
サルティの社長にまで訊いたんですよ。
そうして預かったサンプル生地は、
たしかに以前のものに比べたら薄いとはいえ、
どれもちょっと肉厚な印象があって。
伊藤
そうだったんですね。
岸山
肉厚だと、涼しくない印象がありますよね。
ところが、そのなかに、
今回決まった生地があったんです。
一見、肉厚に見えるのだけれど、
光を通すとちゃんと透け感があって、
じっさいに涼しい。
これ、不思議なことに、
見た目では分からないんですよ。

こまかいパターンにも手を入れて。

伊藤
岸山さん、生地を変えることで、
パターンも変更をしたんですよね。
以前よりは薄くなると、
下着や体のラインが出ちゃう、
それを補うパターンを、って。
岸山
はい。パターン自体は、
サルティの前に決めていた生地の薄さにあわせて
変更を行なっていたんです。
今までのパンツは生地が肉厚で
プリッとハリがあるから、
そんなにゆとりを入れなくても
体のラインを拾わず、きれいに穿けるんです。
でも夏用の薄い生地は、
ヒップ、お腹周りがちょっと目立っちゃうんですよ。
その分、フワッとゆとりを入れることにしました。
伊藤
なるほど。
岸山
テーパード感(裾に向かって細くなるシルエット)も
ちょっと強めにして、丈も、2センチぐらい短くし、
足首をちょっとだけ見せられるようにしました。
そういうことが夏用に考えた変更ですね。
伊藤
いままでの形が好きだから、
パターンはそのままで、
夏用に生地だけ変えればいいじゃない? 
っていうものでは、ないんですね。
岸山
そうなんです。おんなじに見えるように、
でもパターンは変更をしなくちゃ。
伊藤
シルエットのニュアンスが同じで、
夏の暑いときに穿くパンツができたっていうのは、
すごく嬉しいです。
岸山
ありがとうございます。

染色は日本で行なっているそうです。

岸山
もうひとつ、サルティにしてよかったなと思ったのは、
黒が黒い、ということですね。
伊藤
うん、うん。「黒が黒い」! ほんとうに、そう。
岸山
それが高級感を出しているんだと思います。
もう、ほんっとに、全っ然、違います。他の黒と。
伊藤
力説! いったい何が違うんでしょう?
岸山
染色工場がいいんですって。
サルティはこの生地を日本で染めているんですよ。
しかもサルティの要望どおりに染色ができる工場は
1つか2つしかないそうです。
何が違うのかというと、
圧倒的に上手なんですって。技術がある。
それは化学繊維に
きちんと色が入るようにする技術なんですけれど、
染色しやすいように
繊維1本の中にある穴を開き、糸をやせさせるらしいんです。
その加減がとても難しく日本の技術でしか
できない職人技らしいんですよ。
穴が開きすぎると糸がやせて染まらないし、
逆に開かなくても染まらないし。
それは、その日の湿度にも関係するみたいで、
酒の杜氏と同じなんだとか。
だからこの生地は逆輸入なんです。
伊藤
すごい。そういうところを
日本で担当しているなんて、ちょっと嬉しいですね。
ああよかった、これで1年中、同じ気持ちで
穿けるようになりました。真夏でも大丈夫。
岸山
この生地なら、冬でも、
下にタイツを穿けば大丈夫ですよ。
見た目は涼しい素材だって、わからないですから。
伊藤
そっか一年を通して穿けるんですね。
でも‥‥なぜ透けないのかなぁ。
岸山
光を通すと透けているのに、
穿くと下着は全然見えない、
すごいですよね。
皆さん、試着されて
透け感はなかったでしょう? 全然。
──
全く、なかったです。
伊藤
そこは、すごく大事なポイントですよね。
透けることって、気になるもの。
岸山さん、コーディネートのことはいかがですか?
岸山
このパンツはむずかしくありませんよ! 
上に何を着てもサマになります。
伊藤
うん、うん。
岸山
生地が負けないから、
カジュアルでも、きちんとしたものでも大丈夫。
つまり白いTシャツ1枚から、
デザイナーズもののブラウス、
高級シルクのきれい目なブラウスも合うんです。
伊藤
ということは靴も。
岸山
はい。靴も、サンダルから、ヒール、スニーカー、
ビーサン(ビーチサンダル)でもかわいい!
伊藤
おぉ!
本当、万能。
岸山
私も早く穿きたいです。
伊藤
つくった人が(笑)。
でも、わたしもですよ。
ほんとうにこれが実現してよかったです。
岸山さん、ありがとうございました。
岸山
こちらこそありがとうございました!
(おわります)
2021-07-11-SUN