すてられないもの。[3]
「いつか待ち」
何を入れるかはその人しだい。
杉工場の「小ひきだし」再販の今週は、
「捨てられないもの」をテーマに、
3人のかたにエッセイを寄稿いただきました。
きょうは、「お直し」の横尾香央留さんです。
よこお・かおる
1979年東京生まれ。
ファッションブランドのアトリエにて
手作業を担当した後、2005年独立。
刺繍やかぎ針編みなどの緻密な
手作業による「お直し」を中心に活動。
主な著書に
『プレゼント』(雄鶏社)
『お直し とか』(マガジンハウス)
『お直し とか カルストゥラ』(青幻舎)など。
●ほぼ日「お直し とか」
●ほぼ日「お直し とか カルストゥラ編」
幼い頃からこれまで
そして恐らくこれからもずっと片付けが苦手だ。
その結果、家中のあちらこちらに捨てられない
“いつか使うかも”が点在している。
掃除はそこまで嫌いじゃない。
しかしある程度片付いていないとスムーズに進められず、
文字通り四角な座敷を丸く掃く日々。
このままではいけない。
数年に一度、決死の思いで片付けに取り掛かるが、
毎度、なにから始めれば良いかがわからない。
物の本によると、まず第一段階として
全てを表に出し、捨てるか取っておくか仕分けるらしい。
全てを出す‥‥? いきなり躓く。
出さなくともすでに出ている大量の小間物に目をやり、
あれも要るな、これも要るな、なんだ全部要るじゃん‥‥。
ひとつひとつ眺めてはため息をつくを繰り返し、
気がつけばその状態のまま数日が経ち自己嫌悪。
頭じゃなく手を動かせよ! ようやく自分に鞭を打つ。
とりあえず捨てることは諦めて、
“いつか使うかも”と取っておいた箱に
種類別に詰めてみる。
NIKEとビルケンシュトックの靴箱には
学生時代授業中にまわしあった手紙やメモを。
高校の卒業式用に買ったバッグの箱には、
郵送で届いた手紙を詰め込んだ。
いつか読み返す日がくるとも思えなかったが、
なんとなく捨てられずにいた手紙類は
2017年、思わぬ形で“いつか”を迎えた。
長らく箱の中に眠っていたそれらを
シュレッダーにかけ、糊で繋げて糸状にして編んだり
フリンジ状にすることで展覧会用の作品に転じたのだ。
細切れの手紙は内容はわからなくとも、
見れば20年以上前の誰の文字かわかる不思議。
手紙から慎重に剥がされた数十枚の懐かしいシールは
クリアファイル1枚に収められ
空になった箱はついに処分された。
この時の展覧会では手紙だけではなく、
幼稚園の時の大胆な絵が溢れるお絵かき帳や、
小学生の時の写生大会で描いたレンガ造りの東京駅の絵、
中学校の授業で描いたCINZANOの瓶の絵も使用した。
過去の自分が現在の自分をこういった形で
助ける事になろうとは予想だにしていなかったが、
幾度の引越しの際にも捨てずにいてくれた
親と自分に感謝した。
2020年春の展示では
商品を入れてもらえるとすごくうれしいが
その後の使い道を見出せず、大量に仕舞い込んでいた
布製のショッピングバッグに手を加え作品を制作し、
2021年頭には
クリアファイルに挟んでおいた
ヨレヨレのシールを作品に転用した。
このように、片付け界において
来ることはないとされている
“いつか”がわたしの元には割と頻繁に訪れる。
だから仕方がない。
今日も中身の詰まったいくつかの箱と
まだ箱にすら入っていない大量の小間物に囲まれて、
次の“いつか”がやってくるのを
ただひたすらに待っている。