2年前からマジックフェルトのルームシューズを
愛用しているという伊藤まさこさん。
かるくて丈夫で、使うほどになじんでくるし、
玄関で帰りを待つすがたが、とってもかわいい。
このルームシューズを日本に紹介しているのが、
オーストリア出身のマテーペーターさん。
いったい、どこで、どんなふうにつくられているの?
そもそも、原料の羊毛ってどんなものなの?
マテーさんの鎌倉山のアトリエと
神田の「ほぼ日」をむすんで、
いろいろ教えていただきましたよ!
Peter MATHAE
1959年、オーストリアのシュタイアマルク州生まれ。
幼い頃より自然に慣れ親しみ、
高校の頃、既に環境保護の重要性を意識する。
ウィーン大学で日本研究を専攻し、
1984年同大学院を卒業後、国費留学生として来日。
日本の住宅事情について修士論文を書く。
1984年より長野県諏訪市に住み、
諏訪湖浄化運動や環境保護運動に参加する。
建築生物学について研究を進め、
1989年よりオーストリアの
TEAM7(ティームセブン)社の、
人と環境に優しい無垢の木の家具の輸入販売を始める。
1996年「自然の住まい株式会社」をおこし、
ピュアウッドの建物とTEAM7の家具による
健康的な住まい空間を提案している。
1999年「ティームセブンジャパン株式会社」を設立、
1993年よりProNaturaのマットレスシステムの
販売を始める。フィッティングや睡眠に関する知識を蓄え
2009年にbedfitter事業部として活動を始める。
2008年睡眠環境診断士取得。
マジックフェルトをつくるGottstein社とは、
30年来のつきあいだったが、
マジックフェルトの日本での販売を開始したのは
2015年から。
マジックフェルト(magicfelt)は、
オーストリアのチロル地方で
1926年に創業したGottstein(ゴットシュタイン)社の
ルームシューズブランド。
Gottstein社は、3世代にわたり
チロルアルペンの中心で羊毛を原料とした
加工、縮絨(しゅくじゅう)、フェルト化に携わり、
現在では羊毛加工の第一人者となっている。
マジックフェルトの生産拠点は、現在、
チロル州イムスト地域の
エッツタール・バーンホフという村。
羊毛、天然ラテックス、コルク、革という
(今回、「weeksdays」で取り扱うのは羊毛と革)
天然素材を使ってつくられるマジックフェルトは、
生産工程においてのごみはすべてリサイクル。
フェルトづくりも、化学添加物を一切使わず、
チロル山脈のきれいな水でつくられている。
縫い目のないシームレスな形状が
足へのフィット感を生み、軽く、
羊毛の最も大きな特徴である水分処理能力と保温で
ムレと冷えを解消するのが特徴。
素材は、古代からヨーロッパに生息する羊と、
絶滅危惧種の羊の毛をつかった
「原毛シリーズ」(レザーソール/ラテックスソール)と、
カラフルに染めたメリノウールを使った
ラテックスソールの「メリノウールシリーズ」がある。
その23種類の羊のこと。
- マテー
- 伊藤さんは今回、原毛シリーズから
「モーアシュヌッケ」と「シェットランドシープ」と
「シュヴァイツァーユラシープ」、
3つの種類のマジックフェルトを選んでくださいましたね。
- 伊藤
- はい、それがいいって思ったんです。
人間もいろんな人がいるように、
羊もナチュラルなほうが、
感じがいいなと思って。
- マテー
- いいですよね。
- 伊藤
- イギリスの湖水地方で買った
ブランケットがあるんですけれど、
それがグレー・濃いグレー・白・薄いグレーの
ちょっとチェックみたいな感じの織物で、
この自然な色はどうやって? とたずねたら、
全部、羊本来の色なんですよと。
それを思い出しました。
- マテー
- こういう色は、
時間が経っても色あせない良さがありますね。
- 伊藤
- そうなんです、全然変わらない!
モーアシュヌッケ、シェットランドシープ、
シュヴァイツァーユラシープ、
これらは色の違いだけじゃなく、
それぞれに個性があるんでしょうか。
- マテー
- 私は、マジックフェルトの取り扱いを始めるころ、
その羊たちの顔を見比べたんです。
それぞれの羊に異なる個性がありますよね。
- 伊藤
- 育つ場所によっても違いますよね。
- マテー
- 違いますね。
たとえば攻撃的な険しい顔をしている
スイスのシュヴァイツァーユラシープ。
スイスの羊って、山の高いところ、
より寒いところにいるわけです。
だから毛はちょっと太く、ちょっと硬くなる。
ところが、その羊毛をフェルトにして、
ルームシューズをつくりますよね。
裸足で履いてチクチクするかというと、
そういう意見は、まず聞かないんです。
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Schweizer Juraschaf シュヴァイツァーユラシープ
スイスの、フランスよりの地方に生息する
オオツノヒツジの仲間。毛は濃いダークブラウン。
上質な毛質は、メリノウールと同格とも言われる。
- マテー
- 寒く、島風が強い地域に生息している羊は、
毛がゴワゴワしてるのかな? と思いますよね。
ところが、シェットランドシープは
裸足で履いてもやわらかく、
足にチクチクする感じは少ない。
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Shetlandschaf シェットランドシープ
スコットランド北部のシェトランド諸島に生息する、
小柄で、弾力性のある毛をもつ短尾羊。
上質で柔らかなクリンプウール
(波のように縮れた毛)にはいろいろな色がある。
- マテー
- モーアシュヌッケは、
沼地に暮らす白い羊なんですが、
裸足で履くとちょっとチクって感じるひともいますね。
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Moorshnucke ムーアシュヌッケ
中央ヨーロッパで最も古い羊の品種のひとつ。
沼地に住み、泳ぐこともできる。
真っ白な毛をもち、上髪部は長くてもろい。
ほぼ絶滅したと考えられ、IUCN(国際自然保護連合)の
レッドリストに含まれていたが、
繁殖が成功し、現在、約5000頭が飼育されている。
- 伊藤
- 種類によっても違うと思うんですけど、
羊毛の質、
ひいてはフェルトの質は、
毛を刈るときの羊の歳にも関係するんでしょうか。
- マテー
- バージンウールは柔らかいってよく言いますよね。
ただ、製品にするときには混ぜて使うので、
あまり関係はないと思いますよ。
ちょっと話がそれますが、羊の種類によっては
フェルト化できないこともあるんです。
2年前、英国自治島であるマン島
(グレートブリテン島とアイルランド島の中間)に
生息する、マンクス・ロフタンという、
4つの角をもつ羊の毛を使いたいと思ったんです。
希少種で、色もきれいでね。
それで工房にフェルトづくりをお願いしたんですが、
40足できるはずが、26足は形になりませんでした。
だから次の注文を受けてもらえず、
製品化はあきらめました。
いくらやってもフェルト化しないんですよ。
- 伊藤
- 絡まり合わないっていうことなんでしょうか。
- マテー
- そうなんです。
だから、同じ種類の羊の毛も、混ぜて使い、
ロスを減らしています。
歳をとった羊は、バージンウールよりも
ゴワゴワしてるかもしれないけれど、
一体のなかでも胸とか背中とか、
いろいろ毛のかたさがある。
羊はファミリーですから、
初めて毛を刈る子もいれば、
まだ2回目、3回目という子もいて、
それはやわらかな毛がとれますよね。
そういうものもまとめて、
ひとつの羊の種類として製品化しています。
- 伊藤
- そういう話を聞けば聞くほど愛着がわきますね。
ただのモノっていうよりも、
ちょっと家族に加わるみたいな感じがします。