舞鶴へ、お箸づくりを見学に。
──吉岡民男さんの仕事場へ。
その1 八角箸の技術をいかして。
京都市内から約100キロ、
すぐ北に日本海をのぞむ舞鶴市に、
「わたしのおはし」をつくる
箸専門の木工所「吉岡木工」があります。
ここを、ひとりで切り盛りする、
木工家の吉岡民男さんをたずねました。
■吉岡木工のウェブサイト
今回、レポートを担当してくださったのは、
「weeksdays」に、これまで
幾度も登場してくださった、仁平綾さん。
長く住んだNYを離れ、日本に戻ってきたことは、
2021年の5月にご報告いただきましたが、
じつは、いま、仁平さん、京都市内に住んでいるのです。
そんなご縁での、ちいさな旅のようす、
2回にわけて、おとどけします。
取材・文= 仁平 綾
「吉岡さんのお箸は、手に持つと、
惚れ惚れするような美しさがあるんですよ。
すごくいいものを使っているなって。
そして、丁寧な気持ちにもなるんです」
京都・舞鶴市の吉岡木工で制作されている黒檀の箸を
そう絶賛するのは、weeksdaysの編集担当の武井さん。
5年以上、吉岡さんが作ったお箸を毎日使い、
「ファン」だと熱っぽく語る武井さんと共に、
吉岡木工のある舞鶴市へと向かった。
すぐ北には日本海の舞鶴湾が控える海辺の町。
側道を車で登った先に、
こんもりした木々を背負うようにして、
吉岡民男さんの木工所がある。
背の高い鉄塔(集塵機だそう)が目印の木工所には、
重厚な機械たちが居並ぶ工房と、
その横には在庫などを保管する事務所がある。
吉岡さんが、いまはひとりで箸づくりに勤しむそこは、
元はお父さんが運営していた製材所だったそうだ。
木工所から、ちょうど東へ50kmほどのところに、
塗り箸の産地で知られる福井県小浜市がある。
吉岡さんいわく、
小浜市には規模の大きな箸の問屋がいくつもあって、
そのうちのひとつからの依頼で
大量生産の箸の下地を手がけるようになったのが、
箸づくりのはじまり。
吉岡さんの代になってからは、
箸専門の木工所へと舵を切った。
安価な木材で箸の下地を作るだけではなく、
もっとなにかできないか。
あるとき吉岡さんは、黒檀を用いて箸を作り、
問屋へ持ち込んだ。
堅牢でいて、しなやかさもある黒檀。
銘木といわれ、その箸は高級品に分類される。
「そうしたら、なかなかいいって言われて。
黒檀だったら、もっとこういうものができるんちゃうかと、
そうやって少しずつですね‥‥」
漆黒で艶のある黒檀そのものの美しさをいかすため、
装飾は施さない。
箸先まで八角形を保った端正な八角箸は、
いまでは吉岡さんの代表作だ。
黒檀の箸は、一般的に「作るのが難しい」
「技術がいる」と言われている。
なぜならば、「石のように固い材だから」と吉岡さん。
実際に材を触らせてもらったら、まるで砥石のような、
木とはとても思えない硬度。
密度も高い。
だから木材から箸の原型を切り出すときに、
「のこぎりがなかなか入っていかない。
機械がね、ガッと途中で止まってしまう時もあって。
機械でスースーっとは、いかないんです」。
吉岡さんのような熟練した技と経験がなければ、
その作業は困難を極めるという。
さらに難易度をあげているのが、
独特の「細さ」と「やわらかな手ざわり」。
weeksdaysで販売する四角箸は、
7mmという細さで(しかも先端は2mmの極細!)、
吉岡さんが通常制作している9mmの箸よりも、
さらに細い。
材が割れないよう細心の注意を払いながら、
ミリ単位の加減で細く、でも強く、仕上げてゆく。
箸の形ができあがったら、今度は角を取り、
丸さのある、やわらかな触感を目指す。
四角い箸は、そのままだと角の部分が手に当たるためだ。
「角を取りすぎてしまったものは、もう戻らない。
だから手作業で少しずつ。
難しいですよ。時間もかかります」
一本一本、紙やすりで角を均等に削ってゆくなんて、
気が遠くなりそうな作業だ。
しかも吉岡さんは、箸先まできっちり角を取るのが信条。
箸先の角が立っているのと、立っていないのとでは、
口先や舌先に触れたときの感触がまるで違うのだという。
はぁぁ、なんと。ひえぇぇ。
箸づくりの手間と労力に、
いちいちため息が出てしまう私たち。
さらに驚かされたのは、木材が一対の箸になるまで、
想像以上にずいぶん長い時間がかかっている、
という事実だった。
(つづきます)