今週の「weeksdays」は、
あたらしいアイテムの紹介はお休み。
そのかわりに、7日間、
ボリュームたっぷりの
よみものコンテンツをおとどけします。
ほしいのに、ないもの。
ほしいのに、つくれないもの。
「当たったけど、砕けた」という状態にあるアイデア、
これからぜひつくりたい理想のかたち、
そんな具体例をおりまぜつつ、
伊藤さんがよく読むという2誌の編集長をお招きして、
「ほしいもの」についていっしょに考えました。
たっぷり、3人で話しました。
西田善太
1963年生まれ。早稲田大学卒業。
コピーライター職を経て、1991年マガジンハウス入社。
『Casa BRUTUS』副編集長を経て、
2007年3月より『BRUTUS』副編集長、
2007年12月より『BRUTUS』編集長に就任。
いちばんうれしかったことは、
糸井さんに「BRUTUSは楽しみを作っている」と言われたこと。
■ウェブサイト
https://brutus.jp/
西尾洋一
1976年生まれ。早稲田大学卒業。
2001年マガジンハウス入社。
『Tarzan』『Relax』『anan』を経て、
2012年に『Casa BRUTUS』編集部に異動、
2018年5月発売号より『Casa BRUTUS』編集長に就任。
■ウェブサイト
https://casabrutus.com/
その2ことばを信じる。
- 伊藤
- 企画を思いつくのって、
どういうことからなんですか。
- 西田
- 天才編集者の西尾さんはどう?
- 西尾
- なにをおっしゃるんですか。
- 伊藤
- でもほんと、西尾さん、どうしてるんですか?
編集長が「これだ!」って言うんですか、
それともみんなから出てきたものを
「お、いいんじゃない?」って?
- 西尾
- 今のところ、僕は編集長になってまだ‥‥。
- 西田
- ほんの3日ぐらいだものね。
- 西尾
- そうですね、3日(笑)‥‥まだ半年なので、
今のところ僕が「特集はこれ」と決めています。
一応企画会議はありますが、
企画会議から特集案件をそのまま拾うことは、
今のところ、ありません。
どう思いつくのかは‥‥、うーん?
- 西田
- でも編集長1年目って、
多分、全部自分の企画ですよ。
- 西尾
- 西田さんもそうでしたか?
- 西田
- うん。3年目ぐらいで、
やりたいことを1回吐き出しちゃうと、
衝動ではつくらない企画も出てくるんです。
僕は編集長になってから
BRUTUSを300冊ぐらいつくりましたが、
衝動的にやりたいことが300もあるやつなんて、
いないわけで。
やりたいことは、1年23冊でぜんぶ出ちゃう。
たとえば‥‥お魚、ソウル、インテリア、
お金、アウトドア、植物、福岡、公園、
廃校、グルーミング、刀、ファッション、
旅、洋菓子、札幌、映画、家具、
読書、コーヒー、日本絵画、芸能誌、
そんなふうに過去1年、向こう1年の予定が、
目の前のパソコンにガーッて並んでるわけです。
担当は1冊つくればいいんだけど
編集長は前後を見なければいけないから、
ときどき「あれ? この街に行ってない」とか、
「肉が足りない!」「そろそろ本読みたい」
とかが見えてくる。
それで調整をします。
それだけだと思うんですけどね。
だから編集長って
「思いつく」というよりも、
どっちかというと「並べる」仕事ですよ。
この順番でこのタイミング、っていうのが大事です。
あとは切り口。
BRUTUSの企画だって、
「映画」とか「本」って特集ジャンルだけで見たら、
凡百(ぼんぴゃく)じゃないですか。
それをどうするかだけど、
「危険な読書」
「今さら見てないと言えない映画」
って切り口にするから面白いんであって。
映画、本、旅、ファッション、
たとえば「福岡」「札幌」みたいのだって、
別に素材そのものは新しいものではないですよ。
それをどうやるか、
どのタイミングでやるかが面白いんです。
- 西尾
- 確かに、ネタはあっても、
どうやるかが一緒にセットにならないと、
特集にならないですよね。
- 伊藤
- 雑誌の場合は、買って読んでほしい、
わたしたちの場合は、買って使ってほしい。
でも「売れること」ばっかりに縛られるのではなく、
最終的に売れたね、よかったね、
というふうにならないと、よくないなと思っていて。
だから今どんなものがみんなは欲しいのかなと思ったり、
ちょっと休みたい気分だったらお茶なのかな、とか。
- 西田
- それ、雑誌と似ていますよ。
タイミングを考えることも、一緒です。
ちがうのは、どんな動きをしても
最終的に二次元になるっていうのが、
本や雑誌ですよね。
- 伊藤
- わたしたちは最終的にお客様に届けるものは
「モノ」なので、webでの伝え方がやっぱり難しいです。
手触りなどを確認していただけないし。
色も、デバイスやモニタで違って見えちゃう。
- 西田
- でもね、ラジオショッピングのほうが、
テレビショッピングより返品が少ないって話を、
以前、聞いたことがありますよ。
- 伊藤
- へえー!
ことばで伝えるからでしょうか。
- 西田
- ラジオで伝えるほうが、
期待度が一致するんですって。
テレビだと、おおげさなリアクションに魅かれて、
ほんとの良さが分からないままに買う人から
クレームが来るんだけれど、
ラジオはことばで理解したものと
来たものが同じっていう意味で、返品が少ない。
「ラジオのほうが買いたくなるかどうか」は別にして、
じっくりことばで聞いたほうが、
こういう商品だなって思うことが
きちんと伝わってるって意味で、
すごく面白いなあと思ったんです。
- 西尾
- 昔の単行本や文庫本を、
タイトルを伝えずに
キャッチフレーズだけで魅力を伝えて、
すごく本を売ったっていう話も聞きました。
- 伊藤
- 「weeksdays」だったら、
一週間、いろいろな人に
そのアイテムの魅力を伝えてもらい、
写真を一切載せないで販売をする、
というようなことですね。
- 西田
- 料理なんかは、今、完全に映像と写真ですよね。
でも本当の素晴らしいレシピっていうのは、
文章だけのレシピです。
- ──
- はい、大事なのは文章だと思います。
- 西田
- ところがそのレシピ文の文化もなくなってる、日本では。
- 伊藤
- そのレシピの文章も、
わりとフォーマットにのっとったみたいな、
- 西田
- そうそう、専門家がいるんだよね。
でもね、ほんとうは、研ぎ澄まされたことばで、
7つくらいの手順が1行ずつ書いてあるだけでも、
きちんと料理はつくれるはずなんです。
そしてその前につける一文が、
ほんとは大事だと思っていて。
じつはBRUTUSでレシピ集をやりたいと、
もう5年ぐらいずっと言ってるんです。
全部モノクロで、こんな分厚くして、
その代わり、全部文字で写真なし。
これがね、どうしても通じないの。
ひとつ例を言うとね、
ココアのつくり方なんですけど、
30分以上かかるんですよ。
その前に何て書いてあるかというと、
「バイト先の喫茶店のマスターが、
店が終わった時に学生アルバイトにいつも出してくれた、
時間がかかり過ぎてお店では出せないココア」。
- 伊藤
- 飲んでみたい!
- 西田
- もうたまらないじゃないですか。
それでオッケーじゃないですか。
そういうレシピだけを集めた本をつくれないか。
有名シェフの「最後まで迷ったもう一個の味」とかさ。
- 一同
- おおおおお。
- 西田
- そういうのが100個あったらできるね、
企画になるんじゃないのって言ってるんだけどね。
- 伊藤
- それはぜひとも読んでみたいです!
いいレシピ本って、そのレシピには書かれてない
行間が分かるというか、
これとこれの間にこれをしてるんだな、とわかりますよね。
ところで‥‥編集長のお仕事は
とってもお忙しいと思うんですけど
時間のやりくりってどうされているんですか?
お忙しい中で、最終的に、
あのクオリティに持っていくというのが不思議で。
それでも、これ売れるぞ、って自信満々なのに、
え? ぜんぜん売れなかった、みたいなこととか、
その逆もありますよね。
- 西田
- 雑誌の売れ方が変わってきて、
ここ3~4年は思いもよらないことが多くなってきました。
増刷になったらどうしようって
寝る時考えるような本が、ダメでガックリとか、
そこそこだといいな、と思ったら
あと伸びして化けちゃったり。
- 伊藤
- 「福岡」特集もすごかったですよね。
- 西田
- 福岡って全国のアイドルだったんですね。
福岡のメディアのかたがたから
「話、聞かせて」って、
新聞3紙、ウェブ4、テレビ2、
久々にそんなにインタビューを受けました。
福岡ってコンパクトシティなのに、
書店が170もあるんですよ、
小さなお店やコンビニも入れて。
だから、本が売れやすいの。
それでも売れ行きは「後伸び」でしたよ。