今週の「weeksdays」は、
あたらしいアイテムの紹介はお休み。
そのかわりに、7日間、
ボリュームたっぷりの
よみものコンテンツをおとどけします。
ほしいのに、ないもの。
ほしいのに、つくれないもの。
「当たったけど、砕けた」という状態にあるアイデア、
これからぜひつくりたい理想のかたち、
そんな具体例をおりまぜつつ、
伊藤さんがよく読むという2誌の編集長をお招きして、
「ほしいもの」についていっしょに考えました。
たっぷり、3人で話しました。

西田善太さんプロフィール

西田善太 にしだ・ぜんた

1963年生まれ。早稲田大学卒業。
コピーライター職を経て、1991年マガジンハウス入社。
『Casa BRUTUS』副編集長を経て、
2007年3月より『BRUTUS』副編集長、
2007年12月より『BRUTUS』編集長に就任。
いちばんうれしかったことは、
糸井さんに「BRUTUSは楽しみを作っている」と言われたこと。
■ウェブサイト
https://brutus.jp/

西尾洋一さんプロフィール

西尾洋一 にしお・よういち

1976年生まれ。早稲田大学卒業。
2001年マガジンハウス入社。
『Tarzan』『Relax』『anan』を経て、
2012年に『Casa BRUTUS』編集部に異動、
2018年5月発売号より『Casa BRUTUS』編集長に就任。
■ウェブサイト
https://casabrutus.com/

その3
毎日使うものを変えたい。

伊藤
わたしたちがつくりたいと思ったのに
なかなかつくれないものっていうのを、
おふたりに見ていただきたいんです。
ジャーン。
これはトイレットペーパーです。
わたし、トイレットペーパーを買って、
帰るまでの家路が嫌なんですよ。
西尾
分かります!
伊藤
でもこんなデザインのものが
コンビニに置いてあったら、
普通に買いたいな、
と思うものをつくってみました。
これはある大きな企業に
企画を持っていったんですが‥‥。
西田
どんな理由でダメだったの?
伊藤
こういうものって、大工場で
大量生産をする商品なんですね。
生産ロットを組んで、
全国のコンビニエンスストア、
スーパーマーケット、
ありとあらゆるところに配り、
足りなくならない量をつくりつづけ、
供給が足りなくならないよう、
倉庫を持って管理している。
その中に、これを特別につくるラインを
組み込むことはできないし、
それ用の倉庫を持つこともできない。
OEMだったらできますよって言われましたが、
そうすると高価で手に入りにくいものになる。
普通に買える価格で
どこでも手に入るものとして、やりたいんです。
西尾
僕もトイレットペーパーを買いに行く時だけは、
黒い大きなバッグを持っていきます。
買い物の道すがら、駅前を通るので、
そこをトイレットペーパーを持って
歩きたくないなって。
確かにスーパーからそのまま持って帰れる
デザインのトイレットペーパーって、
あったらいいなあ。
西田
トイレットペーパーって、
袋に入れてくれないものね。
西尾
パッケージがむきだしなんです。
西田
「matsukiyo」のトイレットペーパーが、
パッケージのデザインを変えて話題になったね。
「何枚重ね」とかそういう言葉を排除して、
ラジカセの写真とかがプリントされていて、
持って歩くのが楽しい、というような。
たしか海外のデザインの賞を受賞してました。
伊藤
そういう動きはうれしいですよね。
でもわたしたちがほしいものとは、
またちょっと違うんです‥‥。

そしてこちらは、ボックスティッシュです。
「真っ白」のものは、世の中にあるんですよ。
でもそれはちょっと質感が、
わたしのほしいものとは違う。
マットな(つやのない)ものがいいなって。
「じゃあティッシュカバーや、ケースを使えば?」
と言われるんですが、それも好きじゃないんです。
毎日つかうものなので、
できればそのままつかえるものがいい。
おふたりは、どうなさってますか?
わたしはそのまま見えないところに
置いているのですが‥‥。
西田
ティッシュなんていつでも
側にいてほしいものじゃないですか。
見えないところに置くと不便でしょ?
伊藤
たいへんなんです、
いちいちそこに行って、戸棚開けて、
西尾
戸棚に入れてるんですか?
伊藤
戸棚に入れてる場合もある。
西尾
僕もカバーやケースは使わないです、嫌いだから。
そしてトローリーの中段にスポッと差してます。
でも伊藤さんと同じで、取りに行かなくちゃいけない。
西田
うちは、バンダナを巻いてます。
家の人が巻いてるんだけど、
バンダナじゃなくてスカーフかな。
伊藤
なるほどね、すごい。ビックリ。
でも基本、そのままは、嫌なんですね?
たしかにほんとうは
ティッシュは寄り添ってほしいですよね‥‥。

そして、こちら。こんどは電化製品です。
「ハンドフリードライヤー」。
西田
ああ、置いて使うタイプだね。いいね。
伊藤
いいでしょう?
何でつくってくれないんだろう。
だって、五十肩になるかもしれないし、
置いてあったほうがラクなのに。
西田
“三十”肩ね。
伊藤
(笑)ありがとうございます。
こうなってたら‥‥。
西田
本も読めるし、
携帯で電話しながらでもいいし、
ご飯食べながらでもいいよね。
伊藤
そこまでじゃなくてもいいです(笑)。
ここは充電もできて、ビッて取れるの。
充電台にもなり、ハンドフリーになるっていう。
西田
あ、抜くこともできるってこと?
ここが充電台なんだね。素晴らしいじゃない。
でもドライヤーで使うパワーを
充電するのってたいへんだと思うよ。
バッテリーが相当大きくなっちゃう。
伊藤
そうか。なるほど。
西田
もうちょっとなのに、
風が来なくなったら嫌でしょう。
──
糸井はせめてコードのグチャグチャが
なんとかなればいいんじゃないかって言ってました。
あのだらしないコードが
シュッと収納できたらいいですよね。
西田
昔の電話みたいな
クルクルタイプになればいいのにね。
今なんであのクルクルがないんだろう。
電線的に問題があるのかな。
伊藤
あれ可愛いのにね。
西尾
しかもドライヤーって置き場所がないんですよね。
西田
まさこさんは、ダイソンは持ってないですか?
伊藤
持ってないです。
やっぱりあれはいいんですか?
西田
あれはケースがあるんです、半分開いてて。
西尾
でもいちいちケースに入れるの、難しくないですか?
西田
それが嫌だったら、台の代わりに、
滑り止めみたいなゴムのシートがあるから、
それに置いとくわけ。
そこが常に置き場所になるんですよ。
ポンと置いとく。ずれない。
でもそういえば、コードがぶっといなあ。
──
やっぱり、相当な電力、使うんですね。
西田
だから充電はたいへんなんじゃないかな。
伊藤
実は、ある電化製品の会社に
つくってもらえないか交渉に行ったんです。
西田
おお! そしたら?
伊藤
開発に何億円もかかりますって言われちゃいました。
西尾
ティッシュペーパーとか
トイレットペーパーもそうなんですけど、
つくりたいものをつくりたくても、
結局ロットや予算の問題に
突き当たっちゃうんですよね。
僕も2年ぐらい前かな、
海外の日用品を買い付けて
サイトで売るという特集を組んだことがあるんですが、
何か別注をつくろうと思っても、
その最小ロットがたいへんな数になってしまう。
「こういうものがほしいな」っていうのは、
わりと思うことはあるんですけど、
それが日用品であればあるほど、
実現がすごくたいへんっていうことになるんですね。
伊藤
そうなんですよ。糸井さんからも言われました。
「虎屋で100個、
特別なお菓子をつくるのは、
今は簡単なんだよ。
逆に、誰もが食べるチューインガムを、
100万個つくるぐらいのことも考えなくちゃ」
って。
西田
それにこの面白さが
ついてくるんだったらすごい!
伊藤
そうしたいんですよね。
(つづきます)
2018-11-11-SUN