このかたち、見たことがある!
というひともいると思うのです。
なにしろサイトーウッドのバスケットは、
「くずかご」として、高度成長期から現在まで、
日本の家庭で使われてきたロングセラーなのですから。
今回、「weeksdays」からお届けする
とくべつな2色でペイントしたこのバスケットを
いっしょにつくってくださった
静岡にあるサイトーウッドの
若き三代目社長、齊藤拓也さんと、
東京の伊藤まさこさんのお話をお届けします。
「成形合板」という技術を使った木工製品のスタートには、
おじいさまの時代の、こんなエピソードがあったんです。
サイトーウッドのプロフィール
SAITO WOOD
1948年、創業者・齊藤勇氏が
静岡県榛原郡に「齊藤木工所」を設立。
1956年より円筒成形合板技術による小物づくりを始める。
1958年、静岡市に移転、
1959年現在まで続くバスケットが完成する。
1966年、国内販売向けの会社「サイトーウッド」設立。
現在は三代目となる、1977生まれの
齊藤拓也さんが代表をつとめている。
全1回[オンライン対談]
サイトーウッド 齊藤拓也×伊藤まさこ
- 伊藤
- 齊藤さん、こんにちは。
どうぞよろしくお願いします。
- 齊藤
- こちらこそよろしくお願いします。
- 伊藤
- サイトーウッドのバスケット、
色塗装をしていないタイプを使ってる人が、
わたしのまわりで、すごく多くて。
形がいいなって思っていました。
そして雑誌「Casa BRUTUS」で
グレイに塗装しているものを発見して。
- 齊藤
- そうでしたね。
- 伊藤
- すぐに電話したら「今は作ってないんです」と。
- 齊藤
- そうなんです。
- 伊藤
- その時は諦めて、
「機会があったらぜひ」
ということだったんですが、
思えば、電話でご対応くださったのは、
社長である齊藤さんだったんですよね。
- 齊藤
- はい、その時はじめてお話をさせていただきましたね。
あの製品については、
何件か問い合わせいただいたんですが、
限定品というか、
手が空いたときに、年に1回ぐらい
作る商品だったんですよ。
定期的には作っていないんです。
- 伊藤
- そこから、今回「weeksdays」で
別注させていただくという話がスタートしました。
こんなふうに完成して、ほんとうに嬉しいです。
齊藤さん、会社のなりたちをお聞かせいただけますか。
なぜ、この「成型合板」という技術を使う
木工製品がうまれたのか。
- 齊藤
- はい。一番最初は、戦中ですね。
第二次世界大戦のとき、機械の設計者だった私の祖父が、
静岡から、飛騨高山の軍需工場、研究所に行って
働いていたんです。
当時は鉄が不足していたので、
そこでは、飛行機の燃料タンクを
木材で作れないかという研究をしていたそうです。
- 伊藤
- 木で燃料タンクを?
- 齊藤
- そうなんです。
もともと世界中に合板の技術はあったので、
それを利用して日本でもできないか、と、
当時はドラム缶ぐらいの大きさのタンクを
作ろうとしてたみたいで、
祖父は、実際にサンプルを作ったと言っていました。
でも研究の途中で戦争が終わり、
中断したんだそうです。
- 伊藤
- 機械の設計者だったおじいさまが、
戦時中に合板の技術と出会ったわけですね。
- 齊藤
- そうですね。
そして静岡に戻ってきた祖父は、
手先が器用だったので、一番身近にある木で
バットとか建具なんかを作りはじめるんです。
でもまだ最初は、合板はやっていなかった。
創業は川根という、ちょっと田舎のほうだったので、
もっと大きな仕事がしたいっていうことで、
都会である静岡市内に、仲間を頼って出てくるんです。
最初は一人で、静岡市内に工場を借りて。
それと前後して、戦時中に研究していた
成形合板の技術を使いはじめるんですよ。
丸い小物入れがスタートだったと聞きました。
- 伊藤
- お一人で! そういう「小さなもの」は、
今は、お作りになられていないですよね。
- 齊藤
- そうなんです。
技術的には作れるんですけど、
価格が高くなってしまうんです。
というのも、成形合板って、大きいものを作るのでも、
うんと小さなものを作るのでも、
そんなに手間が変わらないんですよ。
なので「小さい割に結構高いね」と言われてしまう。
- 伊藤
- なるほど。
でも、おじいさまがつくられたものと、
いま、三代目の齊藤さんがつくられるものは、
大きくは変わっていないわけですね。
- 齊藤
- そうですね。基本的に、
作ってるものは変わらないです。
祖父の頃は、アメリカ向けの
輸出品ばっかりだったんですよ。
国内ではほとんど売っていなかった。
- 伊藤
- そうなんですか!
じゃあ、おじいさまは、
アメリカに輸出することを念頭に
デザインをしていたんでしょうか。
- 齊藤
- 祖父がデザインしたものもあるんですけど、
戦後、アメリカ人のバイヤーが静岡に来て、
アメリカ向けの商品を作らせたんです。
なので、彼らから祖父に、
そうとう、デザインのアドバイスがあったと思います。
- 伊藤
- なるほど! だから、いま、たとえばイームズの
一人掛けのチェアの横に置いても、
なんとなくマッチするデザインができあがったんですね。
- 齊藤
- そうかもしれないですね。
ほかにもアイスペールとか、
戦後の日本人じゃ思いつかないような、
日本の家庭では使わないようなものも、
いろいろつくっていたようです。
アイスペールは向こうでとても受け入れられて、
当時の主力商品になりました。
外側が木で内側が金属ですから、
金属加工の工場といっしょにつくるんですよ。
そうなると、現代では再現が難しくって、
たとえばつまみの部分なんて、
今、つくっているところがないんです。
- 伊藤
- 再現したくてもできないことがあるんですね。
- 齊藤
- アメリカを旅行して、古道具屋に行くと、
たまに見かけるんですよ、うちのアイスペール。
- 伊藤
- さぞ、たくさん作られたんでしょうね。
そんなふうにアメリカへの輸出から、
現在のような日本国内での販売に主力が移ったのは、
なにか理由があったんでしょうか。
たとえば日本人の生活様式が
だんだん洋風になってきたから、とか?
- 齊藤
- うちの場合は生活様式よりも経済的な理由だと思います。
1ドル360円という固定相場制の時代が終わり、
1973年、変動相場制になったことで、
輸出が途端に減ったんですよね。
それで国内向けの販売に移行せざるを得なかった。
祖父がまだ現役で、のちに二代目となる
父が手伝い始めた頃だと思います。
- 伊藤
- 国内販売に切り替えた頃の主力商品は‥‥。
- 齊藤
- お盆と、バスケット(くずかご)です。
お盆は飲食店、バスケットは旅館向け。
そういう形で展開してました。
- 伊藤
- バスケットは、今回、販売するのと同じかたちで、
塗装をしていないタイプですよね。
- 齊藤
- そうですね。
- 伊藤
- 今思えば、記憶にある昭和の家庭のくずかごって、
サイトーウッドのバスケットが多かったんだと、
今回、わかりました。
ほんとうに多くの家にありましたよ。
しかも、ずっとデザインが変わっていない。
- 齊藤
- そうなんです。
1960~70年代あたりから
変わっていないんです。
- 伊藤
- 塗装タイプを出したのはいつ頃なんでしょう。
- 齊藤
- 塗装したバスケットは、
輸出じゃなくて国内向けの商品として、
1970年ぐらいにありましたね。
ただし、当時は木目が透けて見えるような塗装でした。
内側だけとか、外側だけというのが10年ぐらい前から、
今回のようなマットに全面塗装したタイプは
5年ぐらい前からです。
- 伊藤
- なるほど。公式ウェブサイトに掲載のある
ワインラックであるとか、
傘立てであるとか、マガジンラックとか、
そういうものをつくるようになったのは、
齊藤さんが参加なさってからでしょうか。
- 齊藤
- はい、その辺は僕が担当しました。
10年ちょっと前くらいからかな、
外部のデザイナーさんと組むようになったんです。
たとえば藤城成貴(ふじしろしげき)さんっていう
デザイナーさんと一緒に物作りをしたり、
名古屋芸術大学のデザイン学部の学生と一緒に
産学協同プロジェクトでつくった製品もありました。
- 伊藤
- 今は主力商品は‥‥。
- 齊藤
- 昔も今もバスケットです。
- 伊藤
- やっぱりそうですよね。
これ以上の形はないですよ。
くずかごとしての用途にかぎらないのもいいですね。
今回取材させてもらったアパレルの会社では
布のサンプルを入れたりしてました。
今回は色を塗ったから、
子供のおもちゃを入れたりするのもいいですよね。
- 齊藤
- そんな使い方もできますよね。
- 伊藤
- わたしたちはこのバスケット、
「くずかごだけにしておくのはもったいない」
という気持ちで薦めたいんです。
雑誌のインテリアのページには、
椅子とかテーブル、棚はあるのに、
くずかごってそこに組み込まれない。
でも絶対必要なものだから、
なんだかかわいそうな感じもするんです。
好きな椅子の隣にこれがあったらいいと思う。
絵になる、と。
そういうことを言いたいなと思っています。
- 齊藤
- ありがとうございます。
- 伊藤
- お使いになるかたに、
なにか伝えておきたいことはありますか。
- 齊藤
- そうですね、みなさん、くずかごとして、
ビニール袋を中に入れて使われるんですが、
あまりかけないで欲しいかな。
もし汚れたら水ぶきしていただければ
きれいになりますから。
いわゆる生ごみを入れるようなごみ箱とは違うので、
においや、水気のあるものは避けてほしいです。
- 伊藤
- そうですよね。
バナナの皮とかはキッチンのごみ箱に入れてもらって。
ということですね。
あっ‥‥、例えば、うちだったらお客様用に
ちいさなハンドタオルを一人ずつ使ってもらうんですけど、
それを使った後、一時的に、
バスケットに直接ポイするっていうのは可能ですか?
- 齊藤
- それなら、全然大丈夫ですよ。
- 伊藤
- そうですよね。
よかった!
齊藤さん、ありがとうございました。
お目にかかれるようになったら、
静岡に伺いますね。
ぜひ、むかしの製品も見学させてください。
- 齊藤
- ありがとうございます。
お待ちしています。
(おわります)
2022-01-23-SUN