Instagramがきっかけで、
「weeksdays」のタオルを愛用してくださっているという
料理研究家のウー・ウェンさんのお宅におじゃましました。
ぴっかぴかのバスルームに
折り目正しく積まれたタオルのようすを見て、
伊藤さんは「よかったね、君たち、このおうちに来て」。
ダイニングルームでおこなった
タオルの話から、お掃除のこと、
そして料理の話へと、話はひろがりました。
全3回で、おとどけします。

ウー・ウェンさんのプロフィール

Wu Wen ウー・ウェン

北京生まれ。1990年に来日。
母親から受け継いだ小麦粉料理が評判となり、
料理研究家の道へ。
雑誌、新聞、テレビなど幅広く活躍中。

中国に伝わる家庭の味、
シンプルでからだにやさしい家庭料理を、
日本の素材で手軽に作れるようにと
工夫を凝らして紹介している。

1997年から、東京でクッキングサロンを開始。
小麦粉料理、中国家庭料理を中心に指導を行なっている。

家庭では、二人の子どもの母親でもある。

『料理の意味とその手立て』(タブレ)
『本当に大事なことはほんの少し~料理も人生も、
すべてシンプルに考える生活術』(大和書房)

『体と向き合う家ごはん』(扶桑社)
など、多数の著作をもつ。
『ウー・ウェンの100gで作る北京小麦粉料理』(2021年)では、
伊藤まさこさんがスタイリングを手がけている。

●ウー・ウェン クッキングサロン
●Instagram

その3
人生は決断の連続。

伊藤
わたし、ウー・ウェンさんのレシピの
「肉団子のスープと青菜の炒め物」を
よくつくっています。
ほぼ、それで、うちは暮らしているようなものです。
ウー
ありがとうございます(笑)。
伊藤
ウーさんの料理って、ひとつレシピを覚えると、
バリエーションがいっぱいできるんです。
ウー
そうです! ひとつ覚えとけばね。
伊藤
ウーさんの料理教室に参加したとき、
中国料理の基本はほんとにシンプルで、
「いい油といい塩」だと知りました。
そのときに印象的だったのが、
「調味料の味、しないでしょう? 
素材の味がするでしょう?」というウーさんの言葉。
ほんとうにそうだって、ハッとしました。
──
お2人はいつからのお知り合いなんですか?
伊藤
3年ぐらい前ですよね。
ウー
そうです。
伊藤
あ、でもわたしはもちろん、
存じ上げてはいましたよ。
ウー
それは、お互い、そうでしたよね。
年齢は違うんですけれども、
多分、私がデビューしたときと、
まさこさんのデビューは、近いですよね。
1997、8年頃ですね。それからも
「まさこさんがウーさん大好きなんだよ」って、
いろんな方から聞いていましたよ。
ただ、なかなかご一緒する機会がなかった。
伊藤
そうですよね。
──
きっかけはなんだったんですか?
伊藤
小麦粉料理の本の改訂版をつくるというときに、
スタイリングで参加させていただいたんです。
ウー
出会ったのはその前よ、
私の教室にね、来ちゃったんですよ~!
なんでまさこさんが来ちゃったんだろうね~って、
びっくりしちゃった。
伊藤
(笑)「来ちゃった」って!
すごぉーーーく、楽しかったです!
ウー
だけど全然、初対面だと思えなくって、
ほんとにこんなに気が合う人がいるんだと思いました。
──
ウーさんの教室って、
きっと、面白いんでしょうね。
伊藤
すごーく、面白いの! 
わたしぐらいの年で、
かなり料理をしてきた感じの人も多いんです。
「今日はこのレシピを教わりました。
それを家に帰ってつくりましょう」
という感じではなく、
ウーさんのデモンストレーションを見て、
講義を聞く、みたいな感じなんですけれど、
なぜ調味料が少なくてシンプルなのかとか、
いろんなことに応用できる料理の基本を教えてくれる。
ウーさん、1時間半ぐらいずっとお話をなさいますよね。
そのパワーってすごい! と思って。
ウー
頑張って日本語を喋ってるの。
伊藤
すごいと思いますよ。
撮影で通っている間にも感じましたが、
いつもなにか拭いているし、
どんなに手間のかかる料理をつくっていても、
あたりがグチャグチャにならないんです、全然!
小麦粉の料理で、黒いエプロンをしているのに、
きれいなままなんですよ。
ウーさんいわく
「黒いエプロンが真っ白になるのは下手なのよ。
小麦粉がかわいそうでしょ、
エプロンが汚れるのを小麦粉のせいにして、皆」
とおっしゃって!
ウー
ほんとよ(笑)。
だって小麦粉は汚してないでしょ? 
汚すのは人間なんだから。
伊藤
ほんっと、きれいに料理ができていくのが、
すっごい面白いんです、ウーさんの教室。
──
それはウー先生の真似をすると
できるようになるんですか。
伊藤
うーん? ‥‥すぐにはできないけれど、
コツは教えてもらえるから、上達しますよ。
あとね、「中国の主婦は、餃子の皮を伸ばしながら
冷蔵庫に何があったかなって、中身を決めるのよ」とか、
そういうお話も楽しくて。
ウー
餃子はそうですね。
その後、本の改訂版の依頼をさせていただいたんですが、
もう、まさこさんはスタイリストというよりも
プロデューサー、作家としてご活躍なさってるから、
お皿を選んでもらう仕事はなさらないかもと思いつつ、
編集の方に「ダメ元で聞いてみてくれる?」って。
伊藤
その編集者というのが、「weeksdays」でも
記事を書いてくれている、藤井志織さんだったんです。
──
なるほど、そんなつながりだったんですね。
伊藤
そりゃもう「やります、やらせてください!」ですよ。
もう是非にと。
──
それで1冊丸ごと改訂版をつくった。
ウー
改定版と言っているけれど、
ぜんぶ、新しくしましたね。
伊藤
ウーさんとお仕事をして、
ウーさんのまわりがいつもスッキリしている理由が
そこかしこにあることに気づきました。
なにしろ判断が速いですしね。
「や、それは嫌い」「それいいわね!」と、
なんでも決断が速い。
ウー
だって世の中のことって、
それぞれの結論があるじゃないですか。
それが欲しいか欲しくないかだって、
結論を出さないといけないわけですよ。
あまり考えずに買わないと決めて、
後から買えばよかった、なんて、絶対嫌でしょう? 
やっぱり一期一会、出会いの大切さですよ。
いらなかったらいらないで、相手があることでも、
「あ、そっか、これはやっぱり合わなかったんだ」って
諦めがつく。
モヤモヤさせることのほうが失礼だと思うから、
速く決断するんです。
伊藤
ね? 
ウー
「またあとで‥‥」とかって、
期待させるのもよくないし。
伊藤
決断が速いのっていつからなんですか?
ウー
小さな頃からそうかもしれない。
性格的なものかもしれません。
大人になってからも、欲しいものは絶対欲しいから、
値札を見ないで買っちゃうんですよ。
レジに持って行って
後悔することもあるんですけど(笑)。
あとブランドは見ない。
というか、ブランドに左右されずに、
自分の目でこれがいいかどうかって考えます。
伊藤
欲しいもの=(イコール)買うもの、ですもんね。
「その決断が潔い空間を生む」っていうことですね。
決断の連続ですもんね、毎日。
ウー
そう。決断しないと進められないから。
──
どうしよっかなって思ったら、
やればいいじゃないの、ってことですね。
ウー
そうです。あるいは「やらない」と決める。
ハッキリさせる。
伊藤
そうそう。後回しにはしない。
掃除も後回しにはしない。
ウー
しません。すぐにやります。
伊藤
お料理を仕事にされる方って、
清潔感は大きな信頼ですものね。
──
最近また、お2人で組んでのお仕事を?
伊藤
そうなんです。炒め物の本をつくりました。
ウー
そう。炒め物の本!
4月に発行予定です。
伊藤
まだすこし先ですが、
楽しみにしていてほしいです。
そこに掲載されるウーさんの麻婆豆腐、すごいですよ。
これがつくれたら、ちょっと自慢できます。
ほんともうビックリの連続でした。
「火加減はそれでいいんだ?!」とか、
火にかけるまでの作業が、
調理の工程の大事な部分の
70パーセントぐらいなんだだとか。
ウー
そうですよ! 炒め物は下ごしらえですから。
炒め物だけではなく、料理全般も、生活もそう。
皆、結果ばっかり見てるでしょ? 
たとえばまさこさんはきれいな空間に住まわれてるな、
って、そういう憧れがあると思うんですけど、
見えないところの努力は、誰も見ていないじゃない。
料理も一緒ですよ。
美味しいか美味しくないか、それは結果なんだけど、
それに至った努力が大事です。
やっぱり努力をしないと。
何にしても簡単にはできないと思うんですよ。
伊藤
ほんとうに、そうですね。
ウー
うん。それを伝えるのに、
炒め物が一番、説得力があるかなと思っています。
伊藤
ウーさんとのお仕事は楽しいですよ。
もちろんあらかじめメニュー名や材料はわかるんですが、
切り方もそれぞれだし、まさしくライブでしたよ。
わたしも「あ、じゃ、このお皿で!」みたいな。
炒め始めてから器を決めていました。
ウー
あのスピードと判断はね、
もうまさこさんしかできないと思う。
伊藤
そんなことはないですけれど、
切っているときに「あ、ナス、あれぐらいに
おっきく切るんだ?! じゃあこのお皿じゃダメ」とか。
ウー
ほんとにライブです。
私たちの作業の様子を
取材していただきたいくらいです。
──
ウーさん、普段のご自身の料理は、
器を先に決めることはあるんですか。
ウー
決まってないですよ。
だって、おんなじキュウリにしてもおんなじナスにしても、
毎日、違うでしょ。
先にお皿を決めてそこに盛ることも、
できないわけじゃないですけど、
できあがったものから器を考えるほうが、
気持ちがいいです。
まさこさんとの仕事が楽しいのは
その気持ちよさを共有できるから。
私が先にスタートするかもしれないけど、
おんなじ目的で、途中で伴走してもらって、
最後に一皿にまとめるというところに
到達していくっていうのは、ほんとにね、気持ちいい。
私、もう、楽しみでしょうがないの。
どんなお皿に盛るんだろうなぁと。
「この子の住まいはどこになるんだろう」って。
チームの皆、緊張してはいるんだけれど、
その最後の目的が同じだから、楽しいのよ。
まさこさん、また1冊つくるって言ったら、やってくれる?
伊藤
是非! 
ウー
よかった!
伊藤
ウーさん、今日はありがとうございました。
最後はタオルの話じゃなくなったけれど、
お話できてよかったです。
ウー
こちらこそありがとうございます。
またね、まさこさん。
(おわります)
2022-02-16-WED