夏の背中をきれいに見せる服。
そのためには、背中をきれいに保ちたい。
さて、どなたに話を訊いたらいいだろう、
美容の専門家? ヨガの先生? モデルのかた?
‥‥いやいや、この人がいるではありませんか。
「ほぼ日」ではおなじみの、「世界のTK」こと
総合格闘家・高阪剛さんが!
そこで、伊藤まさこさんといっしょに
東京・赤坂の道場「ALLIANCE」にうかがって、
実践をかねた指導をしていただきました。
TKが教えてくれた基本の体操は、ふたつ。
そして「もっと!」という人のために、もうひとつ。
大丈夫、うーんと簡単にできるものばかりです。
ポイントは「力の抜き方」にあり。
4回にわけて、おとどけします。
高阪剛
総合格闘家。
1970年3月6日、滋賀県草津市生まれ。
181cm、99kg。
中学から柔道を始め、専修大学、東レ柔道部を経て
93年リングス入門、94年プロデビュー。
98年にUFC初出場、同年アメリカ・シアトルに移住し、
日本人初のUFC定期参戦を実現。
「世界のTK」として一躍有名になる。
2001年帰国。
2004年には、
パンクラススーパーヘビー級タイトルマッチで、
初代チャンピオンに輝く。
2006年2月には、
PRIDE31でBTTの首領マリオ・スペーヒーから
KO勝利をあげた後、
5月のPRIDE無差別級GP1回戦でマーク・ハントと激突。
敗れはしたものの、歴史に残る名勝負を残した。
この試合をもって引退を表明していたが、
2015年12月29日RIZINにて現役復帰。
9年半のブランクをものともせず
ジェームス・トンプソンにTKO勝利。
2022年4月17日のRIZIN.35で上田幹雄に勝利、
これを引退試合とし、52歳で現役を退いた。
格闘技界随一の理論派として知られ、
現役時代から解説・テレビ出演などメディアで活躍。
丁寧な指導と技術・知識量に定評があり、
多くのファイターたちを指導。
2012年から2017年のワールドカップまで、
ラグビー日本代表のスポットコーチを務めた。
みずからの拠点として、
2005年、東京・赤坂に総合格闘技の道場
「ALLIANCE」(アライアンス)を開設。
所属選手たちのホームグラウンドであるとともに、
格闘技未経験の初心者からプロ志望の人まで、
幅ひろい世代に向けての指導を続けている。
先祖は戦国武将の高坂昌信、
実兄はプロのジャズドラマー・テルシファー高阪。
──「ほぼ日」コンテンツ──
●高阪剛のみんなのカラダ TK式体操教室
●すやすやストレッチ
その1カラダの軸を意識しよう。
- 伊藤
- 高阪さん、今日はよろしくお願いします。
- 高阪
- こちらこそよろしくお願いします。
- 伊藤
- なぜ今日伺ったかといいますと、
weeksdaysではお洋服とか
生活に関わるいろんなものを紹介しているんですけれど、
最近思うことがあるんですね。
それは、どんな服を着るか、っていうより、
どんな自分が着るか、っていうことが、
すごく大事だなということなんです。
これは生活まわりのアイテムでも同じですが、
じゃあ「どんな自分か」を思い描いたとき、
姿勢って、すごく大事なんじゃないかなって思ったんです。
- 高阪
- なるほど。
- 伊藤
- たとえば外食をしている時、無防備な感じで、
猫背になっている若い女の子を見ると、
「ん?」と感じたり。
その姿勢が楽になっちゃってるのかもしれないですね。
でも、わたしが「あの人、きれいだなぁ」と感じるのは、
スクッと、いい姿勢をしている人なんですよね。
- 高阪
- そうですよね。わかります。
- 伊藤
- それで、そうなるためには
どうしたらよいのだろうかって。
高阪さんなら、わたしたちが日々できることを
教えてくださるんじゃないかなって思ったんです。
- 高阪
- はい、日々、できることって、
すごくたくさんあると思いますよ。
- 伊藤
- なんだろう?! ぜひ、教えてください。
もともと総合格闘技をなさっていて、
いまは指導者になられているなかで、
コロナ前までは「ほぼ日」の社内で
体操を教えてくださっていたと聞いたものですから。
- 高阪
- というのは、格闘技って、
瞬間、瞬間でいろんな動きを
しなきゃいけないものなんですよ。
そのためには自分の体が
いつも動ける状態を保たなきゃいけない、
それが大前提としてあるんです。
自分たちは「軸をとる」とか「軸をつかむ」とか、
そういう言い方をするんですけど、
体の「中心軸」を基本にして、
前後左右、斜め前、斜めうしろ、
もしくは回り込むとか、そういう動きができるように
しているんですよ。
そこでは体の姿勢づくり、
そして機能のさせ方がすごく重要になってくる。
- 伊藤
- 軸、というのは、体幹のことですか?
それともまた違うことなのかしら。
- 高阪
- イメージ的に言うと‥‥、
掃除のとき、箒(ほうき)を逆さにして
手のひらにのっけて立てて、
バランスをとる遊びをしませんでしたか。
- 伊藤
- 男子がやってましたよね(笑)。
- 高阪
- それです(笑)。
その立っている箒の姿が、
体の「中心軸」に近い考えです。
地面に設置してあるものではなく、
腰の辺りから、まっすぐのびて、
いつもバランスをとっている、体の真ん中です。
そして、どこに中心があるのかは人それぞれ違うんですよ。
- 伊藤
- えっ、どこに中心があるのかは
人それぞれで違うんですか?
- 高阪
- 違います、はい。
- 伊藤
- それは身長とか体重とか骨とか筋肉とかで?
- 高阪
- そうですね。あとは育つ過程での
骨の形成具合とか、
いろんなものが影響されることなんだと思うんです。
例えば背骨も、人によって全然形が違うんですよ。
- 伊藤
- なんと!
- 高阪
- 側弯症(そくわんしょう)って
お聞きになったことありますか。
背骨は、うしろから見たら真っすぐっていうのが
基本の認識なんですけど、
側弯症っていうのはS字になったりとかする、
そういう方もいらっしゃいます。
有名な選手では、ウサイン・ボルトは側弯症です。
- 伊藤
- 健康とは別のものなんですね。
- 高阪
- そうじゃないんです。
ウサイン・ボルトは側弯症なりの
自分の軸を見つけたから、
世界一になれたんですよ。
- 伊藤
- なるほど。
では、自分の軸を見つけるのが、まず大事。
- 高阪
- はい。では自分の体の軸を見つけるために、
どうしたらいいかをお伝えしますね。
人の体には4つの大きな関節があります。
左右の股関節と左右の肩の関節です。
この4つの点で四角い形を形成している、
そんなイメージを持ってみてください。
- 伊藤
- はい。
- 高阪
- そうしたら、その四角形を、
板やガラスみたいな硬いものとしてではなく、
4つの辺はまっすぐなまま、自由に動く、
「すだれ」みたいなものだと考えてください。
自由な平行四辺形で、
しかも、斜めにもよじることができる、
‥‥「南京玉すだれ」みたいな。
ねじれもできる、縦にも伸びる、横にも伸びるっていう、
直線しかないのに自由な変形をする、あのすだれ。
- 高阪
- そのすだれは、関節がやわらかければ、
ユラユラ揺れるわけです。
そのイメージが、自分の身体の中の、
四角の中にある、
っていう感覚を持たせてあげるのが、
「軸を保つ」、
真っすぐきれいな姿勢でいるってことなんですよ。
- 伊藤
- なるほど、だからジムや整体に行くと、
股関節と肩甲骨を動かすのが基本ですよと、
強く言われるんですね。
- 高阪
- はい、そうですね。
- 伊藤
- わたしは、その理由がわからないまま、
家でストレッチポールで運動をしていました。
よくわかってないけれど、
やると体調がいいんですよね。
- 高阪
- そうですよね。
その4点で結ばれたところの中に
軸っていうものが存在するわけです。
自分の身体も、
そのすだれ状なイメージで考えてください。
‥‥って、言葉で言うと、
すごくわかりにくいかもしれないですけれど、
その軸は、地面ではなく、
股関節の上に乗っているわけです。
- 伊藤
- (やってみて)ふむ、ふむ。
- 高阪
- それでね、ダメな姿勢というのは、こういうふうな。
- 伊藤
- あ、はい!
- 高阪
- いい姿勢というのは、こうですね。
ちょっと上から引っ張られているようなイメージです。
- 伊藤
- えっ。すごい! こんなに変わるんですね。
- 高阪
- さきほどの「すだれ」の軸と、
いまの「上から引っ張られている」イメージのままなら、
歩くときも、姿勢はきれいですよ。
イメージで身体をコントロールするんです。
ちなみに、軸を地面につけたイメージで歩くと、こうなる。
- 高阪
- これは、いちいち地面に棒をぶっ刺してるわけです。
ドーン、ドーン、って。
- 伊藤
- 年をとると、そうなりますよね。
ちょっと聞いたのは、
年とると身体が楽をしたいから、
左右に重心移動をしながら
前に進んで「歩いて」いくと。
- 高阪
- そうかもしれないですね。
だから、すだれが揺れているイメージで歩けば、
軸がぶれず、姿勢も真っすぐになるはずなんです。
そして、そのために必要な運動がいくつかあって。
だいたい歩いてるとき、
そんな意識はできないですから。
だからちょっとだけ運動をすることで、
身体が覚えてくれたらと思います。
- 伊藤
- 右手右足がいっしょに出ちゃいそう!
- 高阪
- (笑)ちょっと余談になりますが、
実は、右手右足を同時に出すのも、
間違いじゃないんですよ。
4点のコントロールができると、
同時に出しても、おかしくない歩き方ができます。
「ナンバ歩き」といって、江戸時代までの日本は
右手右足が一般的な歩き方でした。
- 伊藤
- そうなんですね。なぜなんでしょう?
- 高阪
- そもそも。あの当時は着物ですから、裾が閉じていて、
大股で歩くことが少なかった。
それと、お侍さんとかは、
手を動かして歩くっていう習慣が
あまりなかったらしいです。腕は振らないで歩く。
刀を持ったまま走んなきゃいけないとなると、
刀に手を添えて手を動かさずに走るわけです。
- 伊藤
- 女の人もそういう感じですよね。
- 高阪
- そうですね。腕は振らない。
だから例えば火事が起こって
走んなきゃいけないってときに、
その動かさない腕がじゃまになる。
それでどうしたらいいかわからなくなって、
バンザイの姿勢で走るわけです。
- 伊藤
- ああ! それはきっと踊りにも通じてますね。
- 高阪
- そうだと思います。
「えらいやっちゃ、ヨイヨイヨイヨイ」の阿波踊りも、
いわゆる盆踊りも、そうじゃないかっていう説があります。
- 伊藤
- なるほど、あながち、
右手右足は間違いではない、けれども‥‥。
- 高阪
- はい。とにかく大事なのは、
股関節と肩の関節を
しっかり動かせられるようにしておくっていうことです。
それが「姿勢を保つ」ための
大きなキーポイントであるっていうことは
言えると思いますね。
- 伊藤
- こうすればすぐにきれいに見えるんですよ、じゃなくて、
まずはやっぱり身体をちゃんとさせる。
その人ならではの軸を見つける。