3年目となる「BonBonStore」と
「weeksdays」のコラボレーション、
今年の夏は、オリジナルの日傘と、
おそろいで使える扇子をつくりました。
和装小物とはちがう、「今」のデザイン。
そして、わたしたちの服にあわせやすいムード。
つくってくださったBonBonStoreの井部祐子さんに、
伊藤まさこさんがお話をうかがいました。
井部祐子さんのプロフィール
井部祐子
文化服装学院流通専門課程修了後、
有限会社キャパアンドコオに入社、
アパレル、セレクトショップ等に向けたデザイン、
企画、生産まで携わる。
その他、百貨店、専門店における
服飾雑貨コーディネート業務を手がけながら、
広告企画、スタイリング業務や
店舗ディスプレイ業務等も担当する。
2000年に退社後、
商品をトータルプランニング
及びデザインを編集する
BonBonStore(ボンボンストア)を設立。
2014年にはジュエリーブランド<iberi>を立ち上げる。
2015年にはイラストレーター&アートディレクターの
ヒラノマサトオ氏と設立したブランド、
猫の視線をモチーフにグッズをデザインする
<ALAIN et JEAN/アランとジャン>を展開。
全1回あたらしいアイテムができました。
- 伊藤
- 井部さん、ことしも素敵な日傘をつくってくださって、
ありがとうございます。
ご一緒して3年目の今年は、さらに、
あたらしいアイテムが加わりましたね。
この扇子、すごくいいんです。かわいい!
これ、井部さんが「こういうこともできますよ」
っておっしゃってくださって。
- 井部
- はい、扇子は、BonBonStoreのオリジナルですが、
自分のブランドとしては、出していなかったんですよ。
というのも、大手のセレクトショップの企画として
つくっていたものだったんですよ。
それも、ここ最近はお休みしていました。
- 伊藤
- 常に新しいものを並べるセレクトショップが
井部さんに扇子つくりをお願いするということは、
江戸扇子や京扇子などの伝統的なものとは
違う何かを求めているということなんでしょうね。
- 井部
- はい。ダイレクトに老舗の扇子屋さんにお願いすると、
いかにも「扇子」の仕上がりになるので、
私のところに相談が来たんだと思います。
扇子はいろいろなバイヤーの方が
つくりたいと思っているのだけれど、
「これじゃないんです」という、
それぞれのショップのカラー、ニュアンスがあって。
でも共通しているのは
「和装小物の扇子」っていうところから、
あえて、外れたものをつくりたい、ということでした。
- 伊藤
- いつくらいの時のことだったんですか。
- 井部
- 私が20代の後半でしたね。
その頃は、もうほんとうに
頭のてっぺんから、つま先まで、
たくさんの雑貨をつくっていました。
そのなかに扇子もあったんです。
- 伊藤
- 具体的にはどんな要望があったのでしょうか?
- 井部
- オリジナリティのある生地と構造の組み合わせですね。
いわゆる和装小物の伝統的な扇子は、形が決まっていて、
閉じたときにぴしっと決まるようになっている。
その骨の間数は生地の厚みによって決めていくんですけど、
どうしても「使える生地」が限定されていくんです。
扇子屋さんに
「この生地でつくってみてください」といっても、
重なりが強くて、畳んでも拡がったりするので、
つくっていただくのが難しくって。
- 伊藤
- 和装小物の扇子って、閉じたときに、
先がちょっとだけすぼまっていますものね。
- 井部
- そうなんです、
綺麗にピタってとまらなきゃいけない。
だから、生地もこれ以上厚いのはできませんよ、となる。
それが伝統であり美意識です。
けれどもファッションの人たちにしてみると、
「そこはちょっと置いておいて、
夏だから楽しいアイテムがいいな」と、
和装小物ではない扇子を求めていた。
- 伊藤
- でも、扇子をつくってくれる扇子屋さんとのやりとりも
井部さんが担当するわけですよね。
たいへんなことだったんじゃないでしょうか。
- 井部
- 最初は、京都の伝統的な扇子屋さんにお願いしていました。
そういうところは
「扇子らしいものとは」ということについて、
当然のことながら、厳しい。
何代も続いてらっしゃるのだから、
おっしゃることはよく分かりますよね。
だからといって外国での生産を考えても、
生産工程が難しいものは嫌がられました。
出来上がったときにロスが多くなるのは、
量産でいちばん辛いことですし‥‥。
それで、無理を言って、国産で。
- 伊藤
- そうしてつくった井部さんの扇子が、
いろんなショップに置かれていったんですね。
- 井部
- いえいえ! 私の扇子、っていうよりも、
材料を持って行く担当、という感じでしたよ。
先方に、その中からチョイスしてもらうんです。
でもすごくいっぱいあってもチョイスできないから、
「あのショップならこの辺が好きかな」と、
骨や生地をある程度絞り込んでいくんです。
その感覚を、一流のセレクトショップとの取組みの中で
学んできたということかもしれません。
- 伊藤
- たくさんのショップと
お付き合いがあったと思うんですが、
それぞれの違いをどうやって‥‥。
- 井部
- それって、難しいことでないんですよ、
はっきり、ショップごとのカラーがあるんです。
ひとつのお店をつくるときに、
カラーをきちんと打ち出すのが、
セレクトショップのバイヤーとデザイナーの仕事ですから、
他店と同じものはやらない。
今はファストファッションが台頭して、
そういう考え方はちょっと薄まっているけれど、
私が30代、40代と
お取り引きさせてもらったところは、
「自社のオリジナルは何?」ということを
追求されていました。
もちろん、私からの提案に多少のかぶりはあるんです。
でもみなさん見事にそれぞれのカラーで選ぶから、
結果、かぶったことは、一回もないですね。骨も生地も。
- 伊藤
- その店にぴったりのものがつくれた。
- 井部
- そうなんですよ。それを40代半ばまで
ずっとやり続けてきたんです。
- 伊藤
- でも、最近は扇子をつくることは減ったと。
BonBonStoreのオリジナルも、ですか?
- 井部
- 扇子に関しては、
アフリカンプリントの生地でつくったことがありますね。
でもこういうタイプ、久しぶりです。
日傘があるので、いっしょに持つものとして、
いいんじゃないかな、と、
提案をさせていただきました。
- 伊藤
- 今回は、井部さんの提案と、
わたしのタイミングがぴったり合って。
知り合いに、
洋服に扇子を合わせている方がいらして、
それがとても印象的だったのと、重なったんですよね。
「こんなにちっちゃくなるんなら、
バッグに忍ばせて持ち歩くのにいいんだな」って。
それで「どんなものがつくれるんですか」と訊いたら‥‥。
- 井部
- 過去につくった見本や生地帖をお見せしましたね。
するとその瞬間に
タタタタって伊藤さんが決めたんです。
「この生地でこの骨!」って。
それで、日傘のハンドルと扇子の骨を
竹で揃えて、生地も同じにして。
- 伊藤
- やっぱり一緒に使いたい方も多いと思うし、
同じ質感だったら嬉しいなと思って、
「竹とブロック刺繍」と決めましたね。
- 井部
- あとはサンプルをつくって確認いただいて‥‥。
完成まで、速かったですね。
- 伊藤
- 「もうちょっとこうしたいな」ということが、
井部さんの作るものにはないから、
安心して任せられるんですよ。
例えば、素材選びとか、それに付随する部品選びとか。
- 井部
- そうは言ってもオフホワイトの裏地では
ちょっとだけ考えましたよね。
この色に合わせるなら
クリーム色っぽいものを選ぶのが、
中国工場では定番なんです。
でも、それはなんだか「ちがう」気がして、
だったらいっそ「白」の方が
いさぎよいんじゃないかな、と。
それだけは、伊藤さんと、
メールでやりとりさせていただきました。
- 伊藤
- でも井部さんの決断どおりに、で大丈夫なんですよ。
生産は中国なんですよね。
- 井部
- はい。以前、中国製は
安くて速いっていう印象がありましたけど、
今は上手にきちんとあげてくれるところが
すごく多くなっています。
逆に日本は、こういうことを継いでいこうという
若い人が入ってこないから、
たまに、傘でも、製品に難あり、
ということが起こりえるくらいです。
それでも紙の扇子は日本の方が
いいかもしれないと思いますが、
こういう生地の扇子をつくるのであれば、
中国の工場に頼んだ方がいいと判断しました。
- 伊藤
- 適材適所なんでしょうね。
さて、その扇子とおそろいになるのが、
今年の日傘ですね。
ヘアメイクアップアーティストの
草場妙子さんに取材したとき、
夏の日差しを完璧にガードすることについては、
草場さんもちょっと「ん?」って思っていらした。
それ、わたしも同感だったんです。
完全防備で紫外線を100%遮ることを考えるよりも、
夏を楽しく過ごすためにできることが
あるんじゃないかなぁ、みたいな。
そのアイテムとして
BonBonStoreの日傘ってちょうどいいんですよ。
- 井部
- ありがとうございます。
去年は麻でしたが、今年は綿ですね。
- 伊藤
- BonBonStoreで販売をしているタイプから、
ハンドルを「weeksdays」仕様に
バンブーにしていただきました。
40センチというコンパクトさで、
まっすぐのハンドルなので、
ぽんと、バッグに入れるのにも便利なんです。
- 井部
- そう! そのことを強く言いたいな。
私は、このまっすぐなハンドルで、
駐車場の自転車のかごに引っかけちゃうことが
なくなりましたよ(笑)。
ハンドルがカーブしていると、意外と何かに当たるので、
ストレートなハンドルって楽なんです。
ちなみにハンドルの素材ですが、
去年は楓の木をルーターで削っていましたが、
今年は竹なので自然のままです。
長さは揃えていますが、
お届けするものによって、
節の形が微妙に異なります。
- 伊藤
- はい、それがいいんですよね。
露先の処理もすばらしいですよね。
- 井部
- ちょっと古びた色にしています。
いわゆるメーカーさんだと光沢のある金属を
使うことが多いと思うんですが。
これは、扇子のビスと揃えました。
こういう方が目立たなくていいかなと。
もちろんアイテムによっては
目立っていいときもあるんですが、
今回は目立たなくていいと思いました。
- 伊藤
- そのあんばいが、井部さんらしい!
- 井部
- 難しいところですよね。
でもちょっとの違いで、安っぽくも見える。
逆にそういうもののほうがいいときもありますし。
今年、百貨店でイベントをして、
店頭に立っていてあらためて思ったんです、
こういう日傘をつくってるところは、
今、あんまりないんだなと。
UVカット100%、というものが全盛ですし、
ほかにもサマーシールドといって、
すごく涼しく過ごせるとか、
化合繊で開発された機能性の高い生地が、
今の傘屋さんにはたくさんあるんですよ。
逆にこういうクラシックな路線を
ずっとつくってるってところは少なくなっていますね。
- 伊藤
- そうですよね。
- 井部
- でも不思議なんです、3年前につくってた、
オール国産の日傘で、柄も長くて千鳥格子の
麻の素材のものがあったんだけれど、
つくったときは誰も見向きもしなかったんですよ。
ところが今年になって、それを置いていたら
「すっごいかわいいわね」って、
百貨店でとても好評をいただいたんです。
- 伊藤
- へえー!
- 井部
- なんだろう、この時代の雰囲気に
みんなが疲れてきたりしているところに、
木だったり天然素材の温もりだったり、
人はそういうものを求めるのかもしれませんね。
売り場にいると
「お客さんってよく見てるな」って思います。
私みたいに名もないブランドの傘のものを
「ブランド」として見るのではなくて
「もの」として見てくださる。
それで評価をいただくっていうことが一番嬉しい。
ただスッと見て
「すごい素敵ね」って言ってくれる方が
ものすごく多かったです。
- 伊藤
- うんうんうん。
「本当にいいわ」って思ったものを
選んでくださるんですね。
井部さんの日傘を差される方って
どういう感じの方が多いんですか。
- 井部
- それは、いろいろですよ。
年齢層で言うと、
30代後半ぐらいから上の方って感じでしょうか。
- 伊藤
- そのイベントを目指して来てくださるんですか。
- 井部
- いや、通りがかりだと思いますよ。
うちは、そこまでの訴求力がありません。
でも「以前にも買って持ってます」っていう方も
いらっしゃいましたよ。
- 伊藤
- 服の感じとかも本当にいろいろ?
- 井部
- もうほんっとにいろいろです。
百貨店のおもしろいところってそこなんです。
本当に人それぞれ。でもみなさん、
ご自分に合うものを探されていくからすごいです。
カップルの女性の方は、
ほとんどが、男性の方に見てもらってから選ばれますね。
男性の方は(機能重視の日傘よりも)
こういうものを好まれます。
- 伊藤
- そう思います、絶対そうですよ、
「こういう日傘を持っててほしい」って
思うんじゃないかな。
井部さん、ほかにお伝えしておいたほうがいいこと、
ありますか?
- 井部
- そうですね、あらためてこの40センチという
小さめのサイズ感でしょうか。
人の多い場所でもコンパクトに持って歩けるって、
とても便利かなと思いますよ。
お勤めで、日傘を持ってらっしゃる方で、
会社に1本置いておく、という方もいますね。
朝持って行く傘はコンパクトな機能系を使い、
ランチに出るときはちょっとおおぶりのものを使う。
- 伊藤
- すごーい。マメですね!
なるほどー。
- 井部
- でもこれは小さいから、そういう意味では、
1本で足りるかもしれません。
- 伊藤
- わかりました。井部さん、
今年も素敵なものをつくってくださって
ありがとうございました。
日傘と扇子って、使っている所作もきれいですしね。
そして涼しい!
こんなに暑い夏になるなんて、と思いますが、
これで乗り切ります。
- 井部
- ほんとう、いまは必需品かもしれないですね。
こちらこそありがとうございました。
(おわります)
2022-07-10-SUN