伊藤まさこさんが、
気持ちのいいパジャマをみつけました。
ブランド名はpageaérée(パージュアエレ)。
パリ在住のフォトグラファーである
篠あゆみさんが、
みずからの入院の経験をもとにつくった
「うんと快適な」パジャマと部屋着のブランドです。
パリと東京をむすんで、
このパジャマができるまでのことを中心に、
たくさんお話をうかがいました。
篠あゆみさんのプロフィール
篠あゆみ
多摩美術大学卒業後、スタイリストに。
1999年の渡仏をきっかけにフォトグラファーに転身。
2年半にわたった自身の闘病経験を生かして、
2021年春、着心地のよさを追求したパジャマのブランド
「pageaérée(パージュアエレ)」を発表。
01闘病生活のなかで考えたこと
- 伊藤
- 篠さん、こんにちは、
よろしくお願いします。
このたびはありがとうございます。
- 篠
- こちらこそ、ありがとうございます。
とってもうれしいです。
- 伊藤
- 以前、篠さんへのメールにも書いたんですけれど、
ちょっと体調を崩したとき、
pageaérée(パージュアエレ)のパジャマが
すごくありがたくて。
- 篠
- よかったです。
- 伊藤
- 今回、「weeksdays」で
初めて扱わせていただくブランドですから、
篠さんに、成り立ちからお訊ねしたくって。
パリにお住まいで、写真がご本業。
- 篠
- そうなんです。
- 伊藤
- 日本にいるときから、
フォトグラファーだったんですか?
- 篠
- 日本にいたときは、
スタイリストだったんですよ。
パリに引っ越してから写真をはじめて、
カメラマンになれるかどうか分からない状態での
スタートだったんですけれど、
いろいろご縁がつながって、
写真を仕事として生きてくることができました。
ただ、2017年、2018年の2年間、
病気をしてしまい、日本に戻って闘病していたんです。
- 伊藤
- そうだったんですね。
行ったり来たりではなく?
- 篠
- 治療してる間はパリに帰れませんし、
治療が終わっても半年ぐらいは、
しょっちゅう病院に行かなければならなかった。
その半年の間は、行ったり来たりも
ちょっとだけしながら、
基本的には日本にいたんです。
- 伊藤
- 2年間は長いですね。
- 篠
- そうなんです。
最初の病気がわかって、
手術して、入院して、
3か月後に今度は別の病気が分かって、
そこからパリに戻れなくなっちゃった感じでした。
二度目の病気がちょっと重かったので、
それだけで1年間ぐらい治療が必要でした。
その間に、好きなパジャマがなかった、
というのがpageaéréeを立ち上げる
きっかけになりました。
入院するのに高価なものは買えないけれど、
「でも、こんなのがあったらいいな」っていうパジャマが、
まったく見つからなかったんです。
- 伊藤
- 東京でもパリでも見つからなかった?
- 篠
- パリにいたとき、病気になる前は、
パジャマのありがたみとか、
パジャマを絶対着なきゃならない、
っていうシチュエーションがなかったんです。
それこそロングTシャツとか、
スエットみたいなものを着て寝ていました。
パジャマも持っていたんですけど、
コットンの大きいもので、ごわっとして、
あんまり着心地が良くなかった。
でも病気になると、入院のときに、
絶対にパジャマを持っていかなきゃならない。
前開きだったりとか、
病院の出すいろんな条件があるんですよ。
- 伊藤
- なるほど、前があかないと、
診察や治療のときに困るんでしょうね。
- 篠
- そうなんですよ。
だから入院するためにパジャマを買わなくちゃ、
と思って、お店に行ったら、
好きなものがまったくなくって、
「どうしよう?」と。
たとえ気に入ったものがあっても、すごく高くて。
日本のブランドでは
8万円なんていうパジャマもあるんですね。
- 伊藤
- うーん!
それはパジャマとしてはそうとう高価ですね。
- 篠
- あとは、イギリスのブランドで6万8000円とか‥‥。
いくら気に入っても、
いつ仕事に戻れるかもわからない状態で、
それを買うことはできなかった。
たくさん着替えなきゃいけないから、
枚数も要るんですよね。
結局、量産品のパジャマに落ち着きましたが、
体型がドーンと見えるのがすごくいやでした。
病院に入院してる間って、
忙しいですよね、わりあい。
- 伊藤
- そうなんですよね。
- 篠
- 寝てばっかりじゃなくて、
やれレントゲンを撮りに行ってくださいとか、
コンビニ行ってこれを買ってきてくださいとか、
病院の中を移動しなきゃならないですし、
お見舞いのかたがいらっしゃると、
個室じゃなかったから、
いわゆる談話室みたいな所に行かなくちゃならない。
みなさんはすごく素敵な、
いつもと変わらない服でいらっしゃってるのに、
自分はなんだかドーンとしたパジャマなのがイヤでした。
背が小さくて、ちょっと体型にコンプレックスもあるから、
直線のパターンの物を着ると、
なんだか丸太っぽい感じになるっていうか(笑)。
鏡に映った自分を見てイヤだなぁ、って。
- 伊藤
- 着心地はどうだったんですか。
やっぱり違和感が?
- 篠
- けっこうありましたね。
薬で肌が敏感になってしまって、
縫い目がちょっと当たっただけでも、
赤くミミズ腫れっぽくなってしまったり。
- 伊藤
- うんうん。
- 篠
- そんななか、友人がお見舞いに
キャミソールを買って届けてくれたんですよ。
それも、スイスの、
とてもいい肌着ブランドのものを買ってきてくれて。
- 伊藤
- はい。
- 篠
- それを着たときに、
あぁ、肌触りがいいって、
こんなに気持ちがいいものなんだ、と思って。
- 伊藤
- 自分がちょっと弱ってるときって、
すごく過敏になりますよね。
- 篠
- そうなんですよね。
それで、自分でパジャマをつくるなら、
肌触りが良いいものを、と。
- 伊藤
- それで「よし、ブランドを立ち上げよう!」
っていうことが、すごいですよ。
- 篠
- そうなんですよね(笑)。
ただ、パジャマだけじゃなく、
薬の副作用があって、いろんな体の不調、
陶器のカップの持ち手が冷たくて手がしびれるんですよ。
木のものしか持てないんです。
金属のフォークにもガーゼを巻かないと持てないし、
コップすら唇に付けられなくて、常温のお水すら飲めない、
冷たくてしびれる、ビリビリってくる。
そういうときに、
あっ、木のスプーンがあれば、とか、
ヘアーバンドがあれば、とか、
手袋があれば、とか。
- 伊藤
- いろいろほしいものが、そのときに。
- 篠
- そうなんです。
それでネットで探そうとするんですけれど、
そういう体力も気力もない。
ようやく探して買っても、
うわ、これはちょっと‥‥、
っていうものだったりするんですよね。
ですから最初は、
入院したときに購入できるおしゃれなアイテムが
一気に見られるようなサイトがあったらなぁ、
というのが発想のスタートだったんですよ。
ただ、実際にそれを集めてウェブショップをつくるのは、
私がパリに住んでいるということもあり、
一体誰がどうやって? って考えると無理がある。
じゃあ、作れるものから、っていうことで、
いちばん欲しかったパジャマをやってみようかな、って。
- 伊藤
- なるほど。
闘病なさっていたことが、
ほんとうに大きなきっかけだったんですね。
- 篠
- 長きにわたる闘病で、
副作用がひどかったというのもあって、
「今日をやり過ごすこと」で精一杯だったんですね。
だから将来的に写真に戻れるか、ということも、
まったく考えられなかった。
自分の未来が想像ができないんです。
そんな日々を過ごしていたなか、
あるとき、
「あ、元気になったらパジャマをつくりたいな」
って、ふと思った瞬間、
「あ! 初めて私、
未来のことを考えた!」と思ったんです。
- 伊藤
- へぇーー!
- 篠
- これは絶対にやった方がいいんだ、
と思えたのが、実際の行動につながりました。
- 伊藤
- なるほど、
そういうことだったんですね。
たしかに、縫い代の始末がすごい丁寧だったりする、
そこにはそういう理由があったんですね。
- 篠
- 肌が弱っているときでも、
当たってかぶれないように、ですね。
タグを絶対外に付けているのも、そうです。
- 伊藤
- そう! タグも気になりますよね。
- 篠
- 切っても、その切ったところが
肌に当たるんですよね。
(つづきます)
2022-08-21-SUN