「weeksdays」には何度か登場いただいている
「パリのチャコさん」こと、鈴木ひろこさん。
じつは6年ほどかけて、パリ発でメイドインジャパンの
下着づくりをしていたのです。
ブランドの名前は「LERET.H」(ルレ・アッシュ)。
その立ち上げの話を、オンラインで、
伊藤まさこさんがたっぷりききました。

鈴木ひろこさんのプロフィール

鈴木ひろこ すずき・ひろこ

スタイリスト、ライター、コーディネーター、
ファッションコンサルタント。
パリ在住29年。
スタイリストとして、雑誌や広告、
音楽関係などで経験を積んだ後、渡仏。
現在は、女性誌を中心に
パリをはじめ、ヨーロッパ各国で取材・執筆を行い、
ファッション撮影のキャスティングや
オーガナイズを手がける。
日々、パリの街を歩きながら、
人、モノ、コトなど
さまざまな古き良きものや、
新しい発見をすることが趣味。
著書に『フレンチ・シャビーのインテリア』
『大人スウィートなフレンチ・インテリア』
『パリのナチュラルモダン・スタイル』
『シャンペトル・シャビーの家』
(グラフィック社)などがある。
「weeksdays」では、オンライン対談
「パリのチャコさんと、おしゃれについて1時間。」
「いま、どんな風に過ごしてますか?」に登場、
その1年後のようすをエッセイで寄稿。
さらに「saquiはクチュール。」でもコラムを執筆。
などに登場。

●Instagram

03
バッグのこと、素材のこと、
そしていろんなこと

伊藤
あと、バッグのこともお聞きしたいな。
ひょっとして、下着とは、
つくってるところが別なんですか?
鈴木
いえ、おんなじ会社でやっていますよ。
なぜ下着のブランドなのに
バッグもやろうかと思ったかというと、
私、過剰梱包がほんとに嫌で、
そのためのかんたんなバッグをつくりたいというのが
最初にあったんです。
伊藤
ええ。
鈴木
日本では下着を買ったらシルクペーパーに包んで、
その後ボックスに入れて、最後紙袋に入れて、
「ありがとうございました」って、
してくださるでしょう? 
直接肌に⾝につけるものだし、
おもてなしも大事なことなんだけれど、
でもお家に帰ったら紙は取って捨てちゃうし、
箱だってちょっと取っておくかもしれないけれど、
あんまりちゃんと再活用はできていない。
そういう無駄なことがすごく嫌だったんです。
それで最初、シーチングで、
あの形の袋をつくったんですね。
伊藤さんが選んで下さった「ヌー」、
フランス語で「リボン」を意味しているバッグです。
でも結局、メーカーとの話し合いの中で、
これは商品にすべきという判断になって、
ベロアの生地でつくり、
いっしょに販売をすることになりました。
このバッグに関しては、ベロアで始めたけれど、
残布プロジェクトというか、
お洋服のブランドさんの残布は、
ストックする場所もたいへんで、
最後には破棄してしまうと聞くので、
それをなくすために、いろんなブランドとのコラボが、
エコロジカルな視点でできたらいいなと思っています。
ヨーロッパにいると、
そういうことを考える機会が多いですね。
もちろん、先々、ツイードだったり、
インテリアのファブリックだったり、
デニムだったり、
そういうふうにどんな生地を使っても
きっと合いそうだなということは、
頭の中にあるんですけど。
伊藤
なるほど! 今後もますます
たのしみになりますね。
チャコさん、ほかに、これだけは
伝えておきたいな、っていうことはありますか?
鈴木
やっぱり素材のことかな。
シレーヌのシリーズは、素材の95%が
セルロースを使っているんです。
これは、木材パルプとか、バンブーとか、
そういう樹木の皮をこそいで、
天然溶液を混ぜて繊維にするものです。
植物由来の素材で、シルクと似た特性があるから、
夏場はサラッと速乾性がある。
そして乾燥の激しい冬場は、
肌を保湿してくれる働きがあるっていわれています。
ごみとして処理するときは、自然分解で
土に還すことができるので、
再生素材とも言われています。
それが、すごくいいなぁと思って。
伊藤
なるほど。それは知りませんでした。
みんなからも、質問はありますか?
──
はい! 今回の下着が「シレーヌ・ブラ」と
「シレーヌ・スリップ」っていう名前なんですが、
どういう感じのフランス語なんでしょうか。
鈴木
「シレーヌ」はフランス語で
「人魚」のことです。マーメイド。
ブラの胸元が、きれいなマーメイドラインに
見えるようにつくっているところからつけました。
デコルテってね、自分がそうなんですけれど、
年齢とともに落ちてきちゃうんです。
でも寄せて上げてグッて胸の谷間をつくるのではなく、
落ちたデコルテでもきれいに見えることを、
すごく大事に思ってのデザインです。
そしてショーツのほうは
人魚とは関係ないんですけど(笑)、
シレーヌのブラと同じ素材ということですね。
──
ありがとうございます。
全然‥‥商品と関係ないんですけど、
「チャコさん」っていう呼び名は
どこから来てるか聞いてもいいですか(笑)?
伊藤
たしかに!
鈴木
そうですよね。
私の名前は「HIROKO」なんですが、
フランス人って「H」を発音しないんです。
さらに「R」も変な音になって、
「イーホーコ」みたいに、最初、呼ばれたんですね。
そんなふうに呼ばれるのもちょっと、と思っていて、
そんななかで、子供の頃からのニックネームが
「チャコ」だったのを思い出したんです。
妹のあだ名も「チャコ」で、
双子のようにおんなじような髪型で、
同じような服を着ていたものだから、
「どっちがチャコちゃん?」みたいになり、
そのうちご近所のおばさんとかから、
私も妹も、2人とも「チャコ」になったんですよ。
それで、「チャコ」だったら、
フランス人にも発音がしやすいし、
覚えてもらえそうかなと、
自分から名乗るようになりました。
──
伊藤さんとチャコさん、
2人の最初の出会いって、
どんな経緯だったんですか?
伊藤
わたしが『Lee』の取材でパリに行ったんです。
それをチャコさんがコーディネートをしてくださって、
チャコさんのこと、一気にファンになったんです。
心を掴まれました。
誰に対しても同じなの、チャコさんって。
鈴木
(笑)
伊藤
すっごくチャーミングで、お洋服もかわいいし。
全然変わらないですよね、
髪型とかも変わってない気がします(笑)。
鈴木
そうですね、『Lee』のお仕事で伊藤さんと、
パリでお会いしたのが最初で、
その後『ボンジュール! パリのまち』でしたね。
伊藤
はい、単行本をつくるのに、
コーディネートをしていただきました。
鈴木
そのときは撮影期間も結構長かったですよね。
1冊まるごとだったから、
すごく楽しかったです。
伊藤
楽しかったですね~! 
今は、あんなことができないなぁ。
それで、わたしのなかで、
パリといえば、という存在になり、
共通の友人も増えて‥‥、
という感じですよね。
saquiの岸山さんとか。
鈴木
そうです、そうです。
お仕事のリサーチで
パリのあちこちを回りたい、
というお友達をご紹介いただいたり。
──
ご本業がコーディネーター、
ということなんですか。
伊藤
元々はスタイリストですよね。
鈴木
はい、東京時代はスタイリストでした。
ミュージシャンの衣装とか。
TM NETWORKの衣装も、私の担当(笑)。
伊藤
えぇ?! 
すごい衝撃が!
鈴木
最初の頃ですよ。
音楽関係が多かったんです。レコードジャケットとか。
音楽系のカルチャー誌だった時代の
『宝島』の表紙とファッションページも
レギュラーで担当していたり。
伊藤
レディースばかりじゃなかったんですね。
なぜパリに行くことになったんでしたっけ?
鈴木
スタイリストが天職だと思っていたし、
楽しくお仕事もさせていただいていたんですが、
3年後、5年後、10年後の自分が
ちょっとだけ見えたっていうか、
1回、ニュートラルにしてみたいなぁって
思っちゃって。それが30ちょっと前でした。
で、3ヶ月かもしれないし、1年かもしれないけど、
少し外に行くのいいなぁと思って。
でもアメリカには全くご縁がなかったので、
ヨーロッパで、イギリスかイタリアかフランスかな? と。
イギリスは英語圏だし、いいかなと思ったけれど、
お天気がちょっと不安定なのと、
当時はお食事が美味しくなかった。
イタリアだと美味しいし、明るいしと思ったけど、
イタリア人は逆にすごく閉鎖的だと感じて。
伊藤
へぇー! そうなんですか。
鈴木
うん。本当に保守的な国民性なんです。
今は変わってきているかもしれないですが、
30年前はそうだった。
で、消去法でフランス。
ちょうどパリは村っぽいし、
ヨーロッパの中でもそこそこハブ的な位置でもあるし。
伊藤
それで、語学を習って?
鈴木
そう、なんにもできないで来ちゃったから、
まずスイスのローザンヌで、
若い子たちに混ざってフランス語を勉強しました。
──
語学留学で行かれて、そのまま住まれた。
鈴木
そのまま、そうです。
それはね、こちらで何か一旗あげたいっていう気合いが
なかったのがよかった気がします(笑)。
日本、大好きだし、ダメだったら日本にまた戻って、
スタイリストなのか、また別のことなのか、
なにかしよう、というくらいに思っていました。
そんなふうに肩に力が入りすぎてなかったのが
よかったかもしれないですね。
伊藤
何かを身につけなきゃっていうんじゃなくって。
そのときお仕事はどうしてたんですか?
鈴木
一応スタイリストのブックとかつくって
持って来てたんですけど、
最初は言葉ができないから何にもできなくて。
電話でアポも入れられないし(笑)。
そしたら日本時代のディレクターや知り合いが、
「パリにロケ行くから、暇だったら手伝ってよ」
と、コーディネーター的なことを
依頼されることが多くなっていった。
それで、段々、そっちにいった感じです。
伊藤
じゃ、わたしからも、全然関係ない質問を! 
この夏、Instagramで拝見していたら、
「この夏から解禁した」って、
ミニスカートを穿いていたじゃないですか、
チャコさん。
鈴木
そう(笑)!
伊藤
かわいい! と思って。
鈴木
え、ほんとに?!(笑)
伊藤
膝小僧とか出てましたよね? 
鈴木
出てました? 出てたね(笑)。
もともと、バカンス先の、
山の中やら、海の街やらだと、
開放的にしてたんですけど、
街の中では出さないようにしてたんですよ。
伊藤
そう、パリでは、わりと、パンツ派だった気が。
どういう心境の変化なのかなぁと思って。
鈴木
すご~く、暑かったからなの(笑)。
ほんとに暑かった。40度を超えたりして。
それでそのひと月ぐらい前かな、
南仏に撮影があって行ったんですけど、
とてもじゃないけど、南仏でなんて、
もうジーンズは間違いなく無理で! 
そっか、ジーンズって、こういう気候の中では
適してないんだっていうことが身にしみたんです。
で、南仏から帰ってきて、パリも暑くて、
でもドレスに素敵なのがあんまりない。
サラッと気持ちのいいワンピースみたいものは、
前年の引っ越し前の断捨離で、
皆に差し上げたりして持ってなくって、
それでミニスカートを穿いてみたら、
快適すぎて(笑)! 
‥‥っていうことだったんですよ。
伊藤
なるほど~。それが理由だったんですね。
黄色いミニスカートがとても素敵でしたよ。
鈴木
そう、黄色のサマーツイードのような素材のね。
あれは「rokh」(ロク)っていう、
韓国の男の子が立ち上げたブランドなんです。
数年前に、デザイナーにインタヴューする機会があって、
彼のデザインや考え方、
ファッションのあり方が素敵で、
いいなと思ったんです。
ちゃんと自分の中に軸がある人だった。
伊藤
ふむふむ。これからもチャコさんのインスタで
ファッションチェックをしていかなくちゃ。
鈴木
やだぁ(笑)!
伊藤
楽しみにしてます! 
ふふふ、いろんなお話が聞けて、
とっても楽しかったです。
ありがとうございました。
鈴木
こちらこそありがとうございました。
(おわります)
2022-09-07-WED