デザイナー・惠谷太香子さんにきく
「私が、シルクの下着を
すすめたい理由」
以前「cohan」の下着でご一緒した
デザイナーの惠谷太香子さん。
じつは、惠谷さんはもうひとつ、
シルク100%の下着のブランドを持っています。
それが今回ご紹介する「ma.to.wa」。
やわらかくて、よく伸びて、家庭でも洗え、
すぐに乾き、うーんと軽い。
ストレスフリーで着ることができるこの下着、
「weeksdays」では4つのアイテム、
2つのサイズ、3つの色を準備中。
惠谷さんに、シルクのこと、このとくべつな技術のこと、
たくさんお聞きしました。3回シリーズでお届けします。
その2 和の技術で、洋の仕立て。
このシルク素材が「ウォッシャブル」ということにも、
みなさん、とても驚いてくださいます。
この加工、じつはとてもたいへんで、
京都の小さな工房でやって頂いています。
どんなふうにすればそうなるのかは
企業秘密だということなんですけれど、
糸を「かせ」(枠に糸を巻いてとりはずし、
その糸を束ねたもの)の段階で入れて、
ウォッシャブルにしています。
洗いをかけて、温度管理と時間を
いちばんいい状態で加工をするんです。
この加工、歴史がとても古くて、
なさっているかたは「ほんの平安時代から」と仰います。
もともとは、京都御所の中に工房があったそうで、
やんごとなきかたがたの
お召物に使われていた技術だということです。
私個人では巡り合えなかったはずのご縁ですが、
ma.to.waとcohanの製造をしている
豊島通商さんが、
その工房とおつきあいがあったということで、
私にとって、それがとてもラッキーでした。
思い出すのですが、初めて見たとき、
ほんとうにびっくりしました。
ずっとやりたかったシルクの下着が、
この技術があればできるかもしれない! って。
今まで、自分のコレクションは、
ヨーロッパのハイブランドである
ランバンとかニナ・リッチの、
1960年代の生地のデッドストックを頂いて
つくっていたんです。
それはやはりウォッシャブルシルクで、
イタリアのコモという町でつくられているものでした。
エルメスのスカーフでも有名な産地です。
エルメスは、
いかにもウォッシャブルなものではありませんが、
特殊な工房で、コモでおつくりになっている。
そういえば、話が逸れますが、
3ヶ月ほど、コモの工房で、
シルクのプリント図案の修業をしたことがあったんですよ。
私がオペラ座の衣裳室にいたとき、
日本人がどういう図案を描いて、
どういう色使いをするかというのが知りたいと呼ばれて。
私、元々は着物の柄を描きたくて、
辻ケ花の勉強をしていたんです。
面白かったですよ、むこうでつくったものは、
「こんな柄? こういう色なの?」と
向こうの人にはあんまり評判はよくなかったんですが、
それでも気に入ってつくった色が、
日本に持ち帰ったら、まるで違って見えるんです。
光がまったく違うんですね。
‥‥とまあ、ヨーロッパのシルクしか知らなかった私が、
「シルクの仕事をしたい」と言っているのを、豊島さんが
「実は面白いシルクがあるんだけど、
どう扱っていいかわからない」と。
豊島さんの担当の方もずっと悩んでいたそうです。
何を作っていいかがわからないと。
それで私が「是非やらせて欲しい」と立ち上げたのが
ma.to.waなんですよ。
ずいぶん回り道をしましたが、願いが叶いました。
それがいまから3年半ほど前のことでした。
このウォッシャブルシルクは、
もともと和装のための技術ですから、
オペラ座で立体裁断を学んだ私にとって、
まったくの異世界でした。
それで洋装の下着をつくるというのは、
誰にとっても挑戦だったと思います。
ほんとは生地があってデザインを出す
という方が早いんですけど、
正直、その糸自体、リブ編みができるのか、
普通のマットなフライス編みしかできないのかもわからず、
開発がどこまでできるのかもわからないわけです。
ですからとにかく
「こんなものがやりたい」というデザインを出しました。
すると、それは糸番手は何番ですねとか、
匁(もんめ=重さ)を考えてもらい、
サンプルをつくり、そこから生地のバランスを見る。
そんなやりかたですすめていきました。
(つづきます)