今シーズンのsaquiがお届けするのは、
色がきれいで、あたたかく、
しかもウエストがゴムなのに、
足長効果のあるパンツ。
「色のきれいなものを身に付けたいな」
という伊藤さんのリクエストでうまれたパンツです。
そしてそこはさすがの岸山沙代子さん。
立体的かつうつくしいラインは、
「ほんとうにこれがウエストゴム?」と、
ちょっと驚く仕上がりなんです。
このパンツができるまでのことを、
ふたりの近況をまじえてお届けします。
岸山沙代子さんのプロフィール
岸山沙代子
大学の家政学部で被服を学んだのち、
手芸・服飾系の出版社へ。
働きながら「東京立体裁断研究所」に通い、
立体裁断を学ぶ。
別の出版社に転職後、伊藤まさこさんの担当に。
編集者歴10年を経た頃、
デザイナーになる夢をかなえるべく、渡仏、
パターンの学校へ通う。
パリでの3年を経て帰国、自宅をアトリエにして
「SAYOKO KISHIYAMA (サヨコキシヤマ)」名義で
自身のデザインによる服づくりをはじめる。
2016年「saqui」をスタート。
そこから年に2回のコレクションを発表しつづけている。
01成熟したのかな?
- 伊藤
- 岸山さん、こんにちは。
ちょっとだけ、久しぶりですね。
- 岸山
- ほんとうに!
伊藤さんはこの頃、
なにか変化はありましたか?
- 伊藤
- わたし‥‥というよりは、
周りの人たちを見ていて思うんですけれど、
これまで東京をベースに仕事をしていた人たちが、
別の場所へ移動をしているということかな。
鎌倉だったり‥‥。
- 岸山
- 私の周りにも多いんです。
友人が鎌倉に越したので、何か変化はあった?
と訊いたら、「着る服が変わった!」って。
- 伊藤
- ‥‥どんな感じになるんだろう?
- 岸山
- みんな、う~んと、ラフなんですって。
- 伊藤
- なるほど、わかる気がしますね。
土地のもっている空気に
なじむ服ってあるんですよね。
- 岸山
- 先日、パリで展示会を開いたんですけれど、
それはフランスでも同じなんですよ。
南仏に引っ越された、
パリのショールームにお勤めのおしゃれな方が
来てくださっておっしゃるには、
こんなおしゃれな服、着ていくところがないわ! って。
- 伊藤
- ええっ?!
フランスでも同じことが起きているの?
でも、逆の場合もありますよ。
南の島でのんびり育ったので、
四季と、都会の刺激を感じたいと、
東京にいらっしゃった方を知っています。
思えば、岸山さんのsaquiは、
ちょっと都会志向ですよね、
わたしはそこが好きなんです。
- 岸山
- ありがとうございます。
- 伊藤
- 岸山さんにはこのごろなにか変化がありましたか。
- 岸山
- パリで、展示会の合間に街に出たんです。
そうしたらね、以前はときめいたものごとに、
当時ほど、ときめかなくなっているんです。
例えば前よく行っていたお店に行っても、
「私の志向よりも、全然若いなぁ」と思っちゃったり。
- 伊藤
- それは、岸山さんが成熟したということじゃないかしら。
- 岸山
- そうなのかな。
ほかにも、蚤の市にも行くのだけれど、
前は、そこで見つけたパーツや布を買って、
自分で工夫してインテリアにしてみようとか、
そういうことを考えたものだけれど、
「もういいかな?」みたいな‥‥。
- 伊藤
- それは、洋服作り人として、
プロになったからですよ。
忙しいんですよ。
- 岸山
- そうかもしれないですね、時間がないから。
- 伊藤
- でもたしかにヨーロッパの人って、
家をよくする作業は、
ずーっと、やってますよね。
- 岸山
- ペンキを塗ったり棚を付け替えたり。
- 伊藤
- わたしもそういう興味はずっと持っていて、
今も、洗面所をリフォームしようと思っているんです。
だったらトイレも手をかけようかな? とか、
そうやって考えていることが大好き。
- 岸山
- そっか、今は、きっと、
洋服づくりに夢中なんですね、私。
- 伊藤
- そうですよ。あと子育てがあったり。
時間や考えることの配分がそっちに行っているの。
でも、わかりますよ、
パリでいいなと思っていた店が
若すぎると感じてしまうようになるって。
「前はキャー! とか言ってたのになぁ」って。
でもそれは、そのお店がターゲットの年齢層を変えたり、
バイヤーが代わったりするという理由があるかもしれない。
でも、いいじゃない?
そういうキャーって言える時期に
岸山さんはパリで修業ができたんだから。
- 岸山
- そっか。確かにそう。
そう考えればいいんですね。
- 伊藤
- それに、忙しさが一段落してからまた行ったら、
もっと別なときめきがあるかもしれないし。
- 岸山
- そうだ、そういえば、私、パリのシャネルに
初めて入ったんですよ。あそこ、怖いでしょ?
- 伊藤
- (笑)うん、怖いよね。
- 岸山
- 学生のときなんて、入れなかった。
- 伊藤
- フォーブルサントノレの?
- 岸山
- そう! そこで黒のツイードのジャケットを
いろいろ試着させていただいたんです。
- 伊藤
- えっ! 買ったの?
- 岸山
- 買えません、高くて!
でも、やっとあの憧れのお店に入れて、
店員さんと会話がちゃんとできました。
自分が大人になったのかなって嬉しかったですよ。
それでちいさな黒のバッグを買いました。
- 伊藤
- 楽しそう。それはまさしく「成熟」ですよ!
- 岸山
- そうなのかな。良かった、
そうやってきれいな言葉に置き換えてもらえて(笑)。
もう若い感性がなくなったのかしらと思っていたんです。
- 伊藤
- 違いますよ、パリのシャネルで
立派に買い物ができるようになったって、
すごいことですよ。
そういうふうに、急にできるようになることって、
年齢を重ねると、あるんです。
それで、パリでのsaquiの展示会はどうでしたか。
南仏の方には「おしゃれすぎ」って言われたけど‥‥?
- 岸山
- パリって、みんなシックな恰好をしているでしょう?
だからsaquiでもシックなものを多めに持って行ったのに、
評判がいいのは赤いコートやツイードのコートなど、
ちょっと派手めのものだったんです!
- 伊藤
- それは、逆に、
あんまりそういう服が無いからじゃないかなあ。
(つづきます)
2022-12-04-SUN