パリからやってきたMAISON N.H PARIS
(メゾンエヌアッシュパリ)の、
ふしぎなかたちをしたバッグ。
実用品なの? それともアクセサリー? 
これ、荷物の少ない伊藤まさこさんにとっては
「いつものバッグ」なんですけれど、
荷物の多い人はどう思うんだろう‥‥。
そこで、編集者でありライターでもある
(伊藤さんから見たらふだんの荷物が多めで、
しかも、すてきなバッグを使っている)
一田憲子さんのところに持って行きました。
一田さん、このバッグ、どう思いますか?
「weeksdays」初登場となる一田さんですけれど、
伊藤さんとは長いお付き合い。
ふたりの気の置けないトーク、どうぞおたのしみください。

一田憲子さんのプロフィール

一田憲子 いちだ・のりこ

会社員を経て編集プロダクションに転職、
フリーライターとして女性誌、
単行本の執筆などを手がける。
2006年、企画から編集、執筆までを手がける
雑誌『暮らしのおへそ』を、
2011年に『大人になったら、着たい服』
主婦と生活社で立ち上げ、ともに、現在も刊行中。
そのほか「天然生活」「暮らしのまんなか」
「クレア」「LEE」などで執筆。
東京をベースに、全国を飛び回り取材を行なう日々。

著書に『人生後半、上手にくだる』
(小学館クリエイティブ)

『大人になってやめたこと』(扶桑社BOOKS文庫)
『暮らしの道具の選び方 明日を変えるならスポンジから』
(マイナビ文庫)

『大人の片づけ できることだけやればいい』
(マガジンハウス)

『暮らしを変える書く力』(KADOKAWA)
など多数。

04
持ってるだけで会話が始まる

伊藤
一田さんは
服やバッグや靴に飽きることもあるんでしょうか。
その場合、どうしていらっしゃいますか。
一田
マイブームみたいなものはありますよ。
さきほどのバッグ「m0851」は、
『大人になったら、着たい服』を立ち上げた
2011年のちょっとあとから使ってきたから、
けっこう長くなります。
でも、その前に買ったものは、
すごく溜めていたけれど、
思い切って全処分しました。
伊藤
誰かにあげたとか?
一田
はい、そうして手放しました。
まーちゃんもそうでしょう?
伊藤
わたしもおなじです。
一田
私より回転が速いんじゃないかなあ。
スタイリストという職業柄。
伊藤
そうですね、シーズンごとに。
一田
去年と同じものを着て
メディアに出れないとか? 
伊藤
それは全然、べつに‥‥。
変えるといっても、
ホント、似たようなものが好きですから。
一田
それに「weeksdays」で
ご自身が欲しいものをつくられているから。
伊藤
そうなんです。それに、家の置き場所は一定ですからね。
だから「ここに入らなくなったら、人に渡す」と
わたしは決めているんですけれど、
一田さんはどんなタイミングで? 
一田
『大人の片づけ できることだけやればいい』
っていう本を出したときに、
その本に合わせてクローゼットの使い方を
整理収納アドバイザーのEmiさんっていう人に
アドバイスしてもらって大改造したんです。
以前は寝室にクローゼットがあったんだけれど、
朝、夫が寝てるのにそこ開けて着替えるのは不便だから、
リビングにクローゼットを
持ってきたほうがいいですよって言われて。
ハッ、そうか! ってなって。
そのときにギュッて服やバッグも処分したんです。
伊藤
わたしも実は
リビングに下着が入ってる引き出しがあります。
自分の動線を考えると、
「ここにあるべき」という定説って
あんまり関係ないんですよね。
一田
そう。私は下着は洗面所がいいって言われて
その時置き場所を変更しました。
伊藤
なるほど。
一田
けっこう便利になりました。
でも、バッグって、収納に困るじゃないですか。
しまいにくくないですか。
伊藤
わたしは小っちゃいバッグが多いから、
箱に立てて収納しています。
小さいバッグが入った箱が2個、
オープンラックに入ってます。
一田
そうか、小っちゃいから(笑)、
場所をとらないんですね。
ところが私の使ってきた仕事用のバッグって、
かたちも不揃いだし、大きいし、
中身が入っていないと直立しないし‥‥。
伊藤
一田さん、どうやって収納しているんだろう?!
一田
私はS字フックに全部かけてます。
伊藤
なるほど。
一田
じゃあ、まーちゃんにとって、
今回のバッグは「大きい」のね。
でもたくさん入れずに持ち歩く。
伊藤
そうなんです。
この大きさで全部革だと
見た目も重量も重いんですけれど、
網状になっているので軽さがあるんです。
一田
持たせていただいてもいい? 
わぁ、軽い! かわいい!
伊藤
わたし、小柄だから、
これぐらいのバッグで全面が革だと、
まるでバッグが歩いてるみたいになるんです。
一田
このデザインなら、持っているだけで
会話が始まりそうじゃないですか。
伊藤
確かそうですね。これがきっかけになりそうです。
一田
スタイリングの仕事のときは
さすがに荷物が多いでしょう?
伊藤
車で移動しますからね。
でも、スタイリストにしては少ないかもしれません。
もう「これ」って決め打ちみたいな感じで、
自分で持てる範囲って決めているんです。
若い頃、「用意したものが少ない」と
言われたこともありましたけれど。
一田
「これがダメだったらこっち、これがダメだったらこっち」
と、3番目ぐらいまで用意するかたもいますよね。
伊藤
そうそう。そうしたら友人が
「スタイリストとして引き出しがあるのはいいけれど、
引き出し全部を持ってこられてもね」って慰めてくれて。
溜飲が下がりました。
一田
さすが!
伊藤
ところで一田さんが
「一田憲子」としての仕事を始めた
きっかけって何だったんですか。
自分の名前でお仕事をするようになったのって。
一田
私はずっと、名前ナシの、
雑誌のいちライター時代が長かったんです。
2006年に『暮らしのおへそ』を立ち上げたときも、
クレジットは載っても、
自分の名前で仕事をしているというところからは
ほど遠い立場でした。でも、その頃、
ライターが1冊の雑誌を立ち上げるって、
あんまりなかったから、
ちょっと目立ったんですよね。
伊藤
そして2011年「大人になったら着たい服」を、
2016年にウェブメディア「外の音、内の香」を。
一田
それを立ち上げたのも大きかったですね。
でも、ウェブメディアは、すごくネガティブな発想で。
年をとって、雑誌の連載がなくなったとしたら、
書く場所がなくなってしまう、どうしよう? って思って。
伊藤
えぇ?? そんな。
一田
ライターって、オファーがないと
できない仕事じゃないですか。
だったら「ほぼ日」さんみたいな、
自分で自分のプラットフォームをつくっておけば、
マネタイズはできていないけれども、
バイトしながらでも、
「きょうこんなことあったよね」って書けるでしょ?
伊藤
えっ。バイトって?
一田
わからないですよ。
わからないけれど(笑)、
クヨクヨ気質だからそういうことを考えるの。
その時、書く場所があれば書けるじゃない、
誰かに頼まれなくても。
そういう場をつくっておきたいと思ったんですよ。
伊藤
まさしく糸井さんが「ほぼ日」を立ち上げたときの
発想と同じなんですね。
一田
そのことを糸井さんが書かれた本、
すり切れるほど読みました、私(笑)。
伊藤
オファーがなくなっても、バイトしてでも
書きたい気持ちって、
どういうことが原動力になっているんでしょう。
一田
ちょっと考えたことがあったり、
誰かと会って、あの人のこういうところがいいな、
とか思うと、書きたくなっちゃうんです。
書いて誰かに伝えたくなるんですよ。
書かなければ「あの人いい人だったね」で
終わるじゃないですか。
でも、どういうところが良かったのかとか、
自分のなかに落とし込むっていうのが
私にとっては、書くという作業なんです。
人でもものでも「わかりたい」、そして
書きながら「わかる」みたいことがあるんです。
それを誰かに渡して「そうだよね」って
言ってもらえるのが嬉しい。
伊藤
そうなんですね。おもしろいです。
それじゃ、ライターだった一田さんのところに、
「一田憲子」として依頼が来るようになったのは‥‥。
一田
「外の音、内の香」を立ち上げて、
そこからちょっとずつ、
単行本のオファーがくるようになりました。
それより前にもちょっとだけは出してたんですが、
ポツ、ポツみたいな感じだったので。
伊藤
「本を出しませんか?」ってくるじゃないですか。
それで、「じゃあこういうのにしませんか」っていうのは、
どちらが提案するんですか?
一田
出版社の編集者に提案してもらうこともあるけれど、
話し合って決めていくことが多いですね。
いま幸いなことに
とてもたくさんのお話をいただいているので、
出版が、だいぶ先になってしまうんですよ。
だから、2ヶ月に1回ぐらいお茶会をして、
将来的に出すものに関しての雑談をするんです。
そうすると出したい本がだんだん変わっていく。
その人も私もやりたいことを言って、
2人で話が盛り上がったほうへ行く。
伊藤
雑談のなかから、「あ、これだ」みたいな。
一田
そうそう、そんな感じです。
編集の人に掘り出してもらわないと、
1人ではできないものですから。
伊藤
自分って、自分にとっては「普通」じゃないですか。
それを人に聞いてもらって、初めて
「あ、ここがおもしろいんだ」って思ったりしますよね。
一田
「こういうことが知りたいんだ?!」とか。
伊藤
みんなやってることと思ってることが、
実はそうではなかったり。
雑談って、すごく必要ですよね。
一田
雑談大事。
伊藤
雑談のなかから生まれること、いっぱいありますよね。
一田
そうですよ! そうだ、思い出した、
バッグのお話しに戻してもいい? 
私、このあいだの『大人になったら、着たい服』で
大分に取材に行って、そこでバッグを見つけたんです。
超ピンクのバッグなんだけれど、
「how to live」(ハウトゥリブ)のもので、
珍しくそれを買ったんです。
伊藤
見たいです!
一田
持ってくるね。‥‥これ。
伊藤
わぁ!!! 
ホントだ、かわいい~。
一田
私としては珍しく遊びのバッグだったんですよ。
そしたら、これを持って外に出るのが楽しくて! 
めっちゃピンクじゃないですか。
だから、ネイビーのワンピースに合わせると、
めちゃくちゃバッグがアクセントになる。
これで思ったんです、
「バッグって、そういう役目もあったのね」って。
「weeksdays」のこのバッグも
たぶんそういう役目のなんですよね。
伊藤
すごい、さすがすぎる。
最後にみごとにバッグの話に。
一田さん、ありがとうございました。
久しぶりにゆっくりお話しできて楽しかったです。
一田
私も楽しかった! ありがとうございました。
また近いうちに。
(おわります)
2022-12-21-WED