夜のくらやみ、白夜のひかり
心地よい眠りを考える
今週の「weeksdays」。
「眠り」をテーマにしたエッセイのラストは、
スウェーデン在住の明知直子さんです。
極北の地の、極夜の日と白夜の日のこと。
あけち・なおこ
1979年生まれ。
フォトグラファー、コーディネーター、
ライター、通訳・翻訳。
千葉大学美術・図工教育課程終了。
その後、IDEEにてインテリアコーディネートに携わる。
2007年渡瑞。北極圏の街キルナに語学留学し、
スウェーデン最古の街シグチューナで写真を学ぶ。
現在、ストックホルムを拠点に
北欧の魅力を伝えるプロジェクト
「Handcrafteriet」(「手でつくる」の造語)にて、
幸せは自分たちで作る北欧のライフスタイルや
暮らしを彩るヒントを探っている。
「ほぼ日」では
2012年のほぼ日手帳springの限定カバーで
「ダーラナの春」を販売したさい、
ダーラナ地方と、ダーラヘスト(木彫りの馬)の
魅力を伝える写真のコンテンツに登場。
「weeksdays」では2019年11月に
冬支度のコラム「冬の愉しみ」、
2021年4月「いま、どんな風に過ごしていますか?」の
コンテンツに登場。
著書に、『北欧スウェーデン 暮らしの中のかわいい民芸』(パイインターナショナル)がある。
■明知直子さんのInstagram
■オオロラノートのinstagram
うちには1歳の赤ちゃんがいる。
よく考えてみれば、
つわりや骨盤痛にも悩まされた妊婦期間を含めると、
ここ2年は質のよい睡眠をたっぷり取れてる、
とは言えない日々を送っているのだと思う。
スウェーデン語には、よく寝ることの表現に
「子どものようにぐっすり寝る」
「切り株のようにぐっすり寝る」という言い方がある。
スウェーデンの子どものいる家庭では、
寝る前のひとときは
godnattsaga(おやすみの物語)の時間。
出来るだけリラックス出来るよう
部屋の照明を少し落として、
絵本を一緒に読む。
最後は人肌にあたためたオートミールでできた
赤ちゃん用ののみものでおなかを満たす。
飲んでいる途中から、視線がなんだかぽわーとして
一点を見つめはじめ、だんだん瞼が重たくなり、
飲み終わったらすっとそのまま寝ついてしまう。
下の子を寝かしつけている間、
なかなかか上の子をかまってあげられない。
彼は7歳でだんだん1人で寝られるようになってきたけど、
まだママやパパと一緒にいたいお年頃。
そんなときは、携帯のアプリで楽しめる
オーディオブックが親代わり(息子くん、ごめんね)。
2匹の眠れないねずみが
お花畑に遊びに行くことを空想して、
いつしか眠りにつくお話がお気に入りで、
親がすこし心配になる程コテッと瞬息で寝てしまう。
朝まで(私が)ぐっすり寝られるのはいつなんだろう、
と思っていた矢先、久しぶりに12日間のロケがあった。
そこで気づいたのは、出張先のホテルで迎える1人の夜は、
何とも贅沢な時間だということ。
取材が終わってチームと解散になり、
いそいそと自分の部屋に戻ってきたら、
まず部屋のランプを最低限つける。
シーリングタイプのランプはつけず、
フロアランプなどの間接照明のみ。
カモミールティーを淹れながらバスタブにお湯をため、
お風呂で体をあたためたら、
ジンジャーリリーのとっても良い香りのする
ハンドクリームを塗り、ベッドの中で文庫本を読む。
スウェーデン人の睡眠の専門家による
ポッドキャストを聞いていたら、
ぐっすり眠るための秘訣を話していた。
- 就寝2時間前から心と体を落ち着かせる
- ベッドサイドにメモ帳を用意し携帯は見ない
(浮かんだアイデアや気になることをそこに書き留める) - 眠りに入る時のルーティーンをつくる
- 日中(特に午前中)太陽の光を浴びる
- 日中適度に体を動かす
私にとって一番効果的だったのは、寝るムードを作ること。
お部屋全体を暗めにして、
調光を気にかけるのはとっても大切と気づいた。
そして、ふと北極圏の白夜の夜を思い出した。
スウェーデンで最初に住んだ場所は
スウェーデン最北にある北極圏の街で、
北緯67度に位置するこの場所では、
冬のあいだ太陽が地平線から姿を見せない
「極夜」と呼ばれる時期がある。
「冬、太陽が出ないのでしょう?
よくそんな場所に住んでいられたね!」
と今まで何人かのスウェーデン人に驚かれたこともあるが、
私は夏の白夜、沈まない太陽の方が体にこたえた。
どのくらい明るいかというと、
真夜中でも普通に新聞が読める明るさ。
夜中の12時に友人から「釣りに行こう」と誘われたり、
夜中の2時に裏山の頂上まで登って
ミッドナイトサンを眺めたりした。
自然と活動量も増えるので、体も疲れる。
24時間明るく新緑の勢いも異常なほどに思え、
なんだか自分も同じように
加速度的に年をとっているような不思議な感覚になる。
何より「いつも明るい」ということに
頭と体がついていかない。
自分の力でどうすることも出来ない自然現象に、
暗闇があと2ヶ月ずっと戻らないんだ‥‥と考えると、
なんだか軽くパニックになるようなドキドキさも感じる。
「冬に出来ないぶん、
夏は思いきり太陽の光を浴びて、
エネルギーをたくわえる。
そして冬は冬で内向的な自分を楽しむんだ。
冬眠する熊のようにたくさん寝て、
自分の住処にこもり、
内なる自分と向き合うんだよ」
とは友人の言葉。
冬のくらやみが必要なように、
薄暗くて、安心できて、
清潔なあたたかい場所で眠りにつけるということは、
太陽がめぐる日々の中どこかでバランスをとり、
機嫌よく健やかでいられるために必要なことなんだと思う。
フィンランド取材中に出会った素敵なナイトランプ、
やっぱり手に入れよう。