ずいぶん前からスカーフが気になっていた、
という伊藤まさこさんが、
昨年の春に出会った日本製のスカーフ。
それは素材も、つくりも、
色や柄も、本当に素敵なものでした。
ブランドの名前は「manipuri」(マニプリ)。
出会いから1年、この春、「manipuri」の、
「weeksdays」別注スカーフができあがりました。

スカーフって、じつは、
職人の高い技術がいかされたアイテム。
その制作の裏側を「manipuri」の長島邦彦さんと
鮫島典子さんのふたりにききました。
キーワードは「手」。
そう、manipuriのスカーフって、
手捺染、手巻きなんです。

長島邦彦さんのプロフィール

長島邦彦 ながしま・くにひこ

スカーフブランド「manipuri」
レディスブランド「TICCA」などをプロデュースする
株式会社FLAPPERSの代表取締役。
経営とともに、デザイナー、営業を担当。
セレクトショップ(BAYCREW’S)の営業職を経て独立。
有田焼、生花のアクセサリーSaletの卸売など
多岐にわたりブランドの営業、ブランディングを手掛ける。
趣味、というよりも「二足のわらじ」として農業に携わる。「最近はジャガイモを植えました」。
家庭では2男1女の父。
ビンテージ、家具収集、そして物件を探すのが好き。

鮫島典子さんのプロフィール

鮫島典子 さめしま・のりこ

manipuri営業企画担当。
大学卒業後、ファッション雑貨メーカーで
営業、企画、バイヤーなどを経験して、
株式会社FLAPPERSに転職、現職に。
趣味は歌舞伎観劇、野球観戦、
そして花や歴史名所、神社仏閣を巡る旅が好き。
「高所恐怖症だけど登山が趣味です」。

02
スカーフ文化が根付いてほしい

長島
僕、フランスでは、スカーフを探すのに、
ヴィンテージショップに行くこともあれば、
集積所みたいなところで買うこともあるんです。
伊藤
ええーっ?! そんなところがあるんですか。
長島
廃品回収の集積所です。
パリで、古着だけが集められる場所があるんですよ。
そこから、KILO SHOP(キロショップ:パリ生れの、
量り売りのヴィンテージショップ)みたいに、
まとめ買いをしていくんです。
そこで「スカーフがほしいんです」と言うと、
スカーフだけを用意してくれる。
もちろん品質にはものすごく差があるので、
見て、触って、いいものを選ぶんですけれど。
伊藤
それは質感で?
長島
質感はもちろん大事です。
シルクは触ってすぐにわかるんですが、
わかりにくいのは、化学繊維。
でもそういうものにいい絵が描かれている確率が高い。
コットンである確率も高いですね。
そこにムスリマ(イスラム教の女性)のかたがたの
ヒジャブ(頭や身体を覆う布)の古着が入っていたり。
一日中、その集積所で、
何千という布を触るんですけれど、
あんまり選り好みしていると
「何してるんだ、もっとまとめて買ってくれ」って
怒られちゃったりする。
伊藤
(笑)そういうものは、サンプルとして?
長島
それもありますし、いいものは、
ニットと古着を組み合わせた製品をつくる材料に
したこともあるんですよ。
伊藤
それ見たかったです! 
長島
すぐ完売しちゃったんです。
また、いいヴィンテージが集まったら(笑)。
伊藤
じゃあ、今、お手持ちのスカーフは、
“選ばれしもの”。
長島
そうです。デザインの参考にとってあります。
参考といえば、パリに行くと古本も探しますよ。
ジョルジュ・ブラッサンス公園の厩舎の近くで、
週末に古本市が開かれるんですよね。
伊藤
行ったことがあります! 取材しましたよ。
懐かしいな。
長島
あそこ、いいですよね。
安くていいものがいっぱいあって。
前回はミロのオリジナルのリトグラフがついた本や、
バレエの本、ポスターの本、いろいろと買いました。
伊藤
そっか、スカーフをつくるからといって、
デザインのヒントになるのは、
ヴィンテージのスカーフばかりじゃなく、
ありとあらゆる古いもの、なんですね。
長島
そうなんです。
文字の組み方とか、絵の使い方とか、
古書は、とっても参考になります。
伊藤
今回、デザインを考えていただく時に、
5人のデザイナーのみなさんが関わってくださいました。
みなさん、長島さんのスカーフや古書のコレクションを
見ているんですね。
長島
そうなんです。
伊藤
今回は、水玉をテーマにしようと決めて。
ほぼ日
そうですね。ドット柄。
ひとつテーマがあると、
デザイナーそれぞれの描き方が出て、
面白いですよね。
伊藤
面白かったです。
おひとり、おひとりの個性があって。
みなさん、プレゼンテーションで緊張してましたよ。
長島
ふだんしないような言葉づかいで! 
あれは結構、面白かったなぁ。
伊藤
ああいうことは、いつものことではなく?
長島
1個のお題に対して何人かでデザインを出し合うのは、
スカーフでは初めてです。
バンダナではあったんですけどね。
いつもは、できあがった柄をジャッジするので。
伊藤
大きな、ドーンとしたドットもかわいかったんですが、
やっぱり小っちゃい柄に全員の「かわいい!」が。
鮫島
端までデザインがあるというのが大事なんですよね。
そこが無地だと、
巻いたときに柄がない、と思われてしまうので。
伊藤
そうなんです。だからほんとに
スカーフのデザインって面白いし、
難しいなと思いました。
最終的には、オリジナルのデザインではなく、
定番のデザインを選んだのですけれど、
あの過程は、とても貴重なものでした。
長島
僕らも楽しかったです。
スカーフの面白さって、
巻き方によっても印象が変わることですよね。
首に巻くのと頭に巻くのでももちろん違いますし、
その巻き方によっても柄の出方が変わる。
伊藤
1枚の布なのに。
長島
そうですね。
でも、ほんと最終的なところは、
身につける人に委ねるほうが絶対にいい。
スカーフって、
その人が完成させるべきものだと思っています。
伊藤
パリで、「ハッ」とするような
スカーフづかいを見かけました? 
長島
スカーフの2枚づかいですね。
伊藤
2枚? どんなふうに? 
長島
2枚の端と端を結んで、
長い巻きもののようにして、
グルグルグルって首に。
伊藤
すごい! それ、すぐにわからないですよね。
巻いている姿から想像したんですか。
長島
はい。ボリュームたっぷりに、
異なるデザインが見えたので、
「あれ、絶対そうだよな」と。
1枚じゃ、絶対に出なさそうな色、柄だったんですよ。
そういう意味では、この水玉も、
お手持ちの別の柄のスカーフと
組み合わせていただくのも面白いかもしれないですね。
伊藤
頭に巻くのもよさそうです。
それにしてもパリの女性たちって、
なぜあんなに小物づかいが上手なんでしょうね。
長島
ほんとうにそうですね。
そして不思議と、日本人に響くオシャレなんですよね。
前回、NEBULONI E.(ネブローニ)っていう
靴のミーティングで、イタリアとフランスに行ったんです。
そうしたら、イタリアとフランスって全然違うんですよ。
イタリアって靴からして、
全部にビジューが付いてて、ギラギラしてる。
で、フランスに行ったら、
キラキラはあるんだけれど、
その使い方が、なんて言ったらいいんだろう、
ちょっとキッチュさがあるっていうか、
「控えめにちょっと見せる」みたいな。
そこの按配が日本人の感覚に
すごくマッチしてるんじゃないかなって思いました。
イタリアはもう「見て!」みたいな感じだから。
伊藤
そうなんだ! 面白いですね。
そういえば日本では、
まだまだ、スカーフを巻かない人が多いのかな?
長島
でも、だいぶ、増えましたよ。
伊藤
子どもの頃、母が巻いてたんですよ。
そういう記憶のある同世代の方、
多いと思うんですけれど、
1回、その流行というか、
女性たちが日常的にしていたスカーフというものが、
消えていったんですよね。
長島
僕は最初「日本人はスカーフのオシャレが苦手なのかな」
って思ってたんです。
ちょっと飛行機のCAの制服のイメージがあったりして。
スカーフって本来もっと自由なアイテムなのに、
あのイメージが強すぎるのかな。
伊藤
たしかに巻いていると、
そう言われたことがあります。
長島
それで、manipuriをつくるとき、
なるべくテイストが違うお店に
アプローチをかけたんですよ。
カジュアルなところからモードなところまで。
なぜかっていうと、タンスにしまい込まず、つけて、
生活に根付いてもらわないと文化にならないから、
だからカジュアルな人も巻けば、
モードな人がモードな巻き方もする、
スカーフがそういうものになったほうがいいな、と。
それはmanipuriじゃなくてもいいんです、
スカーフを根付かせたいという思いです。
だから、前よりもスカーフをする人が
増えているのであれば、よかったなって思います。
伊藤
たしかに増えていますよ! 
長島
嬉しいな。
スカーフって、ファッションの小物として、
買いやすいプライスだと思いますし。
manipuriは、とくにそこを意識しているんです。
伊藤
そういう努力が、いろんなショップの方、
そしてお客さまに通じたんですね。
ほかにも、販路を拡げることは続けられて? 
長島
はい、パリの展示会に出しました。
伊藤
パリに! 
長島
ふだん忙しいバイヤーの方々が
一同に会する場ですから、
いろいろな方に会うことができました。
新規の取引も増えたんですよ。
そして、それぞれ、オーダーの仕方が違うのが、
また、面白いんです。
伊藤
サイズや、柄がってことですか?
長島
はい。サイズにしても、
カジュアルめなところは65cm角という、
ちょっと小っちゃめのスカーフを
オーダーされるバイヤーの方が多いですね。
トレンチコートの中にボリューム感を持って、
というオーダーならば、88cm角であるとか。
伊藤
そっか、88cm角だと、
ストールほどじゃないけれど、
なんかちょっと襟まわりが寂しかったり、
ちょっとあったかくしたいけど心許ない、
っていうときに、ちょうどいいでしょうね。
長島
2回巻いてあたたかくもできるし、
涼しげに端を出してつけてもいいし。
そういうショップによる違いが、面白いです。
伊藤
バイヤーの方と話していると、
いろんな発見がありそうです。
長島
あります。
バイヤーの方って、自分たちの
「このシーズンはこういうふうにしよう」
っていう提案のもとでバイイングをしているので、
「これが必要」という明確な答えがあって。
伊藤
色もそうですよね。
長島
はい。同じ柄を選んでも、ショップによって
色がほんとに違います。
バイヤーのディレクションには、
テーマカラーがあるので、
それに当てはまった色を選びますね。
manipuriは同柄で3色ぐらいの色展開をするんですけど、
それぞれに、人気があるんです。
面白いですよ、ほんとに。
伊藤
そういうお店から、スカーフが、
街に出てゆくわけですものね。
わたしたちも、「weeksdays」を着ている人を見て、
自分たちが提案した以上のことが
返ってくることがあります。
たとえば70歳手前ぐらいのショートの白髪の方が、
全身を「weeksdays」で揃えてくださっていて、
すごくカッコよくて! 
「いつも見てるのよ」なんておっしゃられて、
ほんとうに嬉しくて‥‥。
わたし、こういうお店をやるなんて
全く思ってなかったから、
商品づくりには、そんなふうに
新たな人とのつながりがあるんだと、
そのことを嬉しく思うんです。
長島
たしかに。ものをつくっていると、
お客さまとのつながりが生まれますよね。
この仕事をしていなかったら、
全く知りえなかった人たちと。
伊藤
そう。ほんとに。
(つづきます)
2023-04-04-TUE