REPORT

キューブスツール、
あのひとの使いかた
1・湯浅景子さん・哲也さん

福岡の木工家具メーカーである「杉工場」と
「weeksdays」が、
あたらしい家具をつくりました。
それは、ましかくで、
立方体の一面だけをすぽんと抜いたような、
ふしぎなかたちをした木製家具。
なまえを「キューブスツール」といいます。
スツールですから椅子の仲間、なのですけれど、
この家具、使うひとによって、使い方は自由。

前回の、伊藤まさこさんの使い方に続き、
今回から3回にわけて、
伊藤さんが「あのひとに使ってみてほしい!」
というかたのところへ出かけ、
どんなふうに使ってみたいかを取材したようすを
レポートします。

まずは、名古屋で「コロンブックス」を運営する、
湯浅哲也さん・景子さんご夫妻です。

(取材・文=伊藤まさこ)

湯浅景子さん・哲也さんのプロフィール

ゆあさ・けいこ
画家、1973年生まれ。
名古屋を拠点に絵を描いている。
大学生の時、舞台美術の手伝いをきっかけに
絵を描き始める。
2000~2010年、
アートブックのセレクト書店「コロンブックス」を運営。
2011年頃より本格的に絵画制作に取り組み、
ここ数年は精力的に各地で展覧会を開催。
今は、(ずっと目標だった)海の近くに
アトリエ兼小屋を建てる計画が進行中。
好きなものは、昭和30年代の日本映画(成瀬巳喜男、
川島雄三、小津安二郎、増村保造監督作品、
森繁久弥の社長シリーズなど)、
海と古い建築物。
●website

ゆあさ・てつや
グラフィックデザイナー、1969年愛知県生まれ。
大学を卒業後、ギャラリー、アパレル、
印刷会社勤務を経て2010年に独立。
書店だった「コロンブックス」の屋号を引き継ぎ
デザインアトリエとする。
ブックデザインを中心にロゴマークからエディトリアルまで
デザイン・印刷ディレクションを手掛ける。
好きなものは古くヤケた紙。

伊藤まさこさんとの仕事に、
『テリーヌブック』
(パイインターナショナル/2012年)
『ニューヨークレシピブック』
(誠文堂信光社/2015年)のブックデザイン、
『伊藤まさこの雑食よみ 日々、是、一冊。』
(メディアファクトリー/2011年)の本文内紹介、
「&」やさしいタオル(ほぼ日)ロゴデザイン


昭和9年に建てられたという、
名古屋の日本陶磁器センター。
スクラッチタイル張りの外観は、
この界隈でも目立つ存在です。

一歩足を踏み入れると感じるのは、
時が育てた空気、それから厚みみたいなもの。

2000年にアートブックのセレクトショップとして
オープンした、コロンブックス。
名古屋に行くと、ここに寄って、
ゆっくり本を眺め、
店主の湯浅さん景子さんご夫婦と
おしゃべりするのが私の楽しみ
(現在は本づくりのアトリエとなっています)。

本とともに、少しずつ集められた
家具やオブジェが並んだ空間は、
とても居心地がいい。
本のセレクトとともに、
この空間が好き! という方も多いのではないかな。

ここにキューブスツールを置いたら、
どんな感じになるだろう? 

「最初、写真を見せてもらった時、
お酒の升のようだなって思いました。すごく日本的で」

と湯浅さん。
「じっさい置いてみたら、意外なほどに空間に馴染む」
という言葉の通り、ほら、しっくり。

「棚の中にお茶の道具を。
上には、ウォーターサーバーを置きました」

まさかスツールの上にキューブスツール、
その上にウォーターサーバーとは! 

スツールが額縁のような役割にもなっていて、
お茶の道具がきれいに映える。
この家具の違う一面を見た気になりました。

古いものと新しいもの、
ミニマムなものと手の跡が残るものなど、
一見、異なるものをミックスさせて
空間を作るのが上手な湯浅さん。
ウォーターサーバーの次は、
「こんなかんじ、どうでしょう?」
とスタイリングしてくれたのがこちら。

キューブスツールの上には、
真鍮の急須や、ぽってりした陶器のピッチャー、
少しざらっとした質感のベースを。
いろんな国から集まった湯浅さんの気に入り。
ほら、ここでも素材や国がミックスされている。

床に置いて、小さな棚のような使い方を。
「レコードがちょうどおさまるサイズなので、
上に小さなプレーヤーを置いてもいいかも」
と湯浅さん。なるほど。

オープン棚なので、中に入れる本の色合いを考えて。

この部屋の魅力のひとつは高い天井と白い壁。
それからおだやかに差し込む光。
使い込まれたフローリングもまたいい感じです。

オープン当初からのつきあいという、
ソファとローテーブル
(手前に見えるテーブルも)は、
ミニマムなデザイン。
これらの家具とキューブスツール、
きっと合うだろうなぁ‥‥と思っていたら、
やっぱり! 
まるで前からここにあったみたい。

「使ううちに、きっともっと馴染みますね」
と景子さん。

景子さんは画家。
いつも使っている画材を見せてもらうと‥‥。

なんとこれですべてなのだとか!
クレヨンや針など、こまごましたものは
お菓子の缶におさめ、
さらにキューブスツールに収納。

「棚の中にぴったり収まりました」。

「描き上げた絵を立てかけて見ることもできて、
いいですね」

上に置いたのは、
ウェグナーのYチェアをモチーフにした、景子さんの新作。
来年にかけて、続々と個展が開かれるそう。
(私もまた何か一枚欲しいなぁと
密かにねらっているんです。)

「2個並べたらローテーブルにもなりますね」

そうか並べて長方形のローテーブルに! 
取材にうかがうと、
自分の想像を超えた使い方を知ることができる。
勉強になります。

「これより、5センチ大きくても、
5センチ小さくてもだめ。
今のバランスがちょうどいい」

じつは景子さん、
新しいアトリエを構想中とか。

「壁には土や漆喰など、
質感のあるものを使いたいと思っているので、
家具はミニマムなものでバランスを取りたくて。
そこにキューブスツールを置いたらきっと合うだろうな」

それはぜひとも見せてもらいたい。
完成したらまっ先に遊びに行かせてくださいね。

2023-05-01-MON