REPORT

saquiのあたらしい
ふたつの春夏のコート。
麻のかっこよさを、全面に。

おまたせしました、大人気の「saqui」の服に
春夏の新作が登場です。
今回のアイテムは、コート2着、
ブラウス2着、ワンピース1着。
これから2回に分けて、
saquiのデザイナー、岸山沙代子さん
それぞれのものづくりについて、
たっぷりおききしたインタビューをお届けします。
まずは、2着のコートについて。
なお、今回のsaquiのアイテムは、
3月下旬~4月上旬ころのおとどけになる予定です。

岸山沙代子さんにききました。1

今回つくるsaquiのコートは、2着とも、
伊藤さんが「この生地、かわいい!」と
たくさんのサンプルのなかから
真っ先に反応してくださったリネンを使ったものです。
いずれも、春夏ものとはいえ、わりと地厚。
まずこちらの生成りの無地の素材については、
伊藤さん、すかさず
「これのトレンチが欲しい」って
おっしゃったんですよ。

伊藤さんからは、
それ以上のこまかな要望はなし。
そこからデザインをはじめたんですが、
実は、最初、デザイン画で描いていたのは襟付き。
じっさいにそれでパターンまで起こしました。

でもいざサンプルを仕立てようというとき、
「これじゃ地厚過ぎるぞ」と思い、
襟なしのデザインに変更をしたんです。

かなりの試行錯誤がありました。
なにしろ今回は、
このしっかりした生地を使うことが前提。
重ねて使う部分が増えて、厚くなれば、全体が重くなる。
かといって軽いリネンを使うと「ちゃち」に見えます。
そうは言っても、じっさいに着たとき、
重さを感じることはないと思うんですが、
長く気持ちよく着ていただくため、
すこしでも軽くしたいですし、
また、この生地は、ほんとうに価格が高いものなので、
じょうずに節約をして、
販売価格をおさえる必要もありました。
だから、端になる部分は切りっ放しにしたら?
と、いろいろ考えたんです。
袖の先や襟などは織り込んで縫うため、
厚い部分は4枚重ねになりますから、
どうしても厚く重くなってしまうんですね。
でも、その「切りっ放し」という選択は、
とてもファッショナブルな服ができあがり、
モードが好きな人にはきっと受け入れられても、
本当に幅広い年代の人に長く着てもらえるだろうか?
と考えました。
やはり、普通にちゃんと仕立てたほうがいい、
やっぱり縫い代は中に入れよう。
その解決策が「襟なし」というアイデアでした。

トレンチで襟がないということに
ちょっとびっくりされるかもしれませんが、
伊藤さんもノーカラーの服がお好きだし、
トレンチって、ちょっと暑い時期、
汗ばみはじめる5月、6月あたりにも着る。
そんなときに襟が汚れるのは嫌だなと思っていたので、
「そうだ、襟、取っちゃおう!」って。

そうしてできあがったこのコートは、
前身ごろはダブルの合わせ、共布のベルトつきと、
一見してトレンチとわかるスタイルでありながら、
襟がないこと、袖がボタンではなく
リボンになっていることなど、
saquiらしいデザイン、あそびのディテールを
たくさん入れた1着に仕上がりました。

このリボン、かわいいでしょう?
腰のベルトとあわせて3つのポイントがうまれるので、
襟元のすっきりした印象とバランスをとって、
トレンチといってもマニッシュではない、
上品なかわいらしさが演出できたと思います。

ボタンも、ふつうのトレンチだったら
第1ボタンをもっと下につけるところなんですが、
やや上に、そして第2ボタンよりも
ふたつのボタンの左右の間隔を広めにつけています。
素材は水牛で、マット仕上げの日本製のボタンです。
このコートは襟がないデザインなので、
あえて、ボタンに目を行かせることで、
バランスをとっているんですよ。

そして、首周りから胸へのふくらみ。
ここもこまかく調整をしました。
saquiの服はすべて立体裁断なのですけれど、
このコートは、かわいらしさだけではなく、
トレンチらしい「かっこよさ」が出るように、
ボタンを留めても、あけても、
さまになるようにパターンを引いています。
そして背中は、
いわゆるトレンチのベンチレーションではなく、
ちょっと長めのセンターベントを入れました。
裏地は背裏と袖につけていますから、
着やすく、脱ぎやすい。
シンプルに見えますけれど、
たくさんの工夫をこらしているコートなんです。

着方としては、もちろん全部留める着方もあれば、
上のボタンを2つぐらい外してもいいし、
全部外したままベルトだけを結ぶのもかわいいです。
そして、もう、何にでも合いますよ。
冬から春にかけては、
ウールのニットの上に着てもいい。
麻がオールシーズン着られる素材だということは
ずいぶん浸透してきましたから、
季節を問わず活用いただけたらと思います。

そして、このコート、これだけ厚地の麻なのに、
最初から硬い感じがしないのもうれしい特徴。
やはり、生地がいいからなんですね。
そして着ていくうちにますます柔らかくなって、
いい感じに育ちます。

この生地はイタリアの「Faliero Sarti」
(ファリエロ・サルティ)社のもの。
わたしはここの生地がとても好きで、
日本では使っているブランドが
たいへん少ないと聞きますが、
いま、saquiの服は8割方がサルティです。
この麻も、色の雰囲気、ちょっとネップがある感じ、
そして全体の上質感、いずれもサルティ社ならでは。
日本の生地屋さんが
「どうしたらこんな生地がつくれるんだろう?」と
驚くほどのものなんですよ。

立体裁断で、コートとしてのゆとりを入れ、
長めのつくりになっています。
サイズは36と38のふたつ。
えらぶときはご自身のお持ちのコートと
裄丈(首の下のタグ中央から、片袖までの長さ)で
比べていただければと思います。

コートは、もう1着あります。
こちらは、リネン81%、コットン19%、
撚りが目で見えるような質感のある太い糸を使い、
ランダムな波形のボーダー柄の入った、
たいへんニュアンスのある織物でつくった、
saquiの定番のかたちのコートです。

これも、サンプルの段階で、わたしと伊藤さんが
「一目ぼれ」をした「Faliero Sarti」社の生地。
これもまた「どうやってつくったんだろう?」と
不思議になるくらいのクオリティです。
Sarti社のいちばん得意とする
高級カジュアルという分野のもので、
こういうニュアンスのものって
日本にはないものなんですね。

生地からかたちを考えるのが
saquiのやりかたなんですけれど、
この服に関しては、この厚さをいかすには、
ジャケットかコートだな、と、まず、思いました。
そして波形のボーダーがすごく強い印象の生地なので、
シンプルなコートにしよう、と決めました。

定番、と言いましたが、
これはsaquiでとても好評をいただいていて、
もう何百着つくったかわからない、
ウールのコートのパターンをもとにしています。
もちろんそのままではなく、
ポッケを箱ポッケにしたり、
前はスナップではなくジップにしたりと
アレンジをしています。

パターンですが、一見なんでもないようでいて、
こまかく切り替えてダーツを入れた立体裁断です。
ダーツを入れることで、
たとえば裾がちょっとだけスリムになって、
着た時の印象がうつくしい。
紺の総裏をつけていますから、
するりと着られてきもちがいいですよ。
この生地、本当にシワが出ないので、
旅行にもとてもべんりです。

ジップはスイスの
「riri」(リリ)社のものを使っています。
光沢、色、かたちのうつくしさ、
どれをとってもすばらしいジップで、
パリ・コレクションのメゾンが
こぞって使うほどのメーカー。
ririのジップだと、「あえて、見せる」ことができる、
そのくらいきれいなんですよ。
実用品でありながらアクセサリーといってもいい
レベルのものだと思っています。

2019-01-21-MON