REPORT

あのひとと、t.yamai paris
2・色づかい
イセキアヤコさん

1995年、パリに暮らしていた
山井孝さん・自子(よりこ)さん夫妻が立ち上げた
レディースブランド、
t.yamai paris(ティー ヤマイ パリ)。
現在は日本に拠点をうつし、
ベーシックを軸に、甘さとモダンさをミックスした
大人の日常着づくりをつづけています。
(くわしくはこちらをごらんくださいね。)

このコンテンツでは、
ながくt.yamai parisのファンだという3人に
登場していただきます。
ひとりめは、セレクトショップ
「Havane」のオーナー、大坂友紀子さん、
ふたりめは、イギリス在住のイセキアヤコさん、
さんにんめは、パジャマのブランド
pageaérée(パージュアエレ)の篠あゆみさんです。

今回は、イセキアヤコさんが、
イギリスから送ってくださった
コラムと写真をおとどけします。

(文・写真=イセキアヤコ)

イセキアヤコさんのプロフィール

いせき・あやこ
イギリス在住。
アンティークやヴィンテージのジュエリーを販売する
オンラインショップ
tinycrown(タイニークラウン)の店主。
ほぼ日での読みものコンテンツに
『ブローチを探すイセキアヤコ』
『イセキさんのジュエリー雑記帖』がある。


着心地の良さやシルエットの綺麗さ、
t.yamai parisの洋服には
心惹かれる要素がいくつもありますが、
そもそも私がファンになったきっかけ、
それは「色づかい」でした。

今から二十数年前、
私は当時まだ京都に住む19歳の学生で、
週末に友人と神戸へ遊びに行ったとき
ある洋服のセレクトショップに入りました。

横長のハンガーレールに並んだ、シンプルながら
大人っぽいレディースの春夏アイテム。
端から順に見ていくなかで、ふと手がとまりました。
膝下丈のコットンスカートです。
ゆるやかな台形、ウエスト部分で色が切り替わり、
そこに同じ生地の布ひも(幅2cmくらい)
が通っていて、キュッと絞って
フロントで蝶々結びにできるスタイルでした。

濃淡の違う2色のグリーンが目をひきました。
シックで上品で、
なおかつ愛らしい色のコンビネーション。
そのスカートは、私が19年間生きてきた中で
いちども見たことがなかったような
美しい中間色をしていました。
タグにt.yamai parisとあります。
試着してみると生地は陽に透けるほど薄くもなく、
かといって厚くもなく。ほどよい張りがあって
そこも気に入りました。よし、決めた。
私は持ってきていたお小遣いを使い切る覚悟をして
レジに向かいました。

その後、次第にファッション誌で
t.yamai parisの洋服を見かけるようになりました。
どうも、デザイナーはパリ在住の山井孝さんという
男性であるらしい。
けれども当時はまだ公式サイトは存在せず、
日本にショップもなく、
私は雑誌の情報だけを手がかりに
山井さんのお洋服を探しました。
(今のようにオンラインですぐ検索できるという
時代ではなかったのです。)
そしていつか、パリにあるというショップへ
行ってみたいと夢みるようになりました。

地元の大学を卒業して就職し、結婚し、
私は勤め先の会社で行っていた
欧米の雑貨やジュエリーの買い付けの仕事を
フリーランスに切り替えてロンドンへ移住しました。
26歳の時です。
日本からイギリスへ引っ越す途中、
パリへ寄って行こうと決めていました。

初めての渡仏。到着すると翌日さっそく
リュクサンブール公園の近くにある
t.yamai parisのショップへ向かいました。
店員はフランス人と思われる若い女性がひとりいて、
私はたしかワンピースを購入したんだったと思います。
「思います」と書いたのは、
興奮していたせいでよく覚えていないからです。
私にしてみたら聖地に降り立ったようなものでした。
あんなに山井さんのコレクションを
一度にたくさん見たのは初めてだったのです。

いつしかt.yamai parisは東京にも店舗を構え、
私が日本を離れたのちに
京都の百貨店内にもショップができました。
一時帰国で帰省した際は京都の百貨店へ。
それ以外の時はパリの店へ。
両方に通いました。
購入したアイテムのなかには愛用しすぎて
着潰してしまったものも何枚かありました。

そんな私に、ついに運命の日がやってきました。
イギリスで暮らし始めて数年経ったころ、
友人の伊藤まさこさんの紹介で
山井さんご夫婦にお会いできることになったのです。
その頃、私の息子は5ヶ月の赤ん坊だったので
ベビーバギーと抱っこ紐持参でパリへ馳せ参じました。

午後のまだ明るい時間、待ち合わせ場所のカフェで
バギーをテーブルに横づけにして待っていると、
すらっと背が高く、すこしグレーの混じった髪の
素敵なジェントルマン山井さんと、
笑顔がチャーミングな奥様の自子さんが
「イセキさんですよね。はじめまして」と
声をかけてくださいました。
往年の推しブランドがある方は、
そのときの私がどんな気持ちだったか
きっと察してくださることでしょう。
私はもちろん、19歳のあの日に買った
スカートを履いていました。

仕事でフランスを頻繁に訪れるようになってから
気づいたことがあります。
冒頭の2色づかいのグリーンのスカート。
考えてみれば当たり前のことながら、
あれは山井さんがフランス生活で
研鑽してこられた色彩感覚の上に
あるものだったのだということ。
私が訪れた骨董市、活版印刷の名刺屋、
キャンディーの専門店、壁紙屋。
行く先々で、フランスには
日本の色の良さとはまたどこか違う
美しい色が溢れていました。

先日、私が日本に帰国していた際、伊藤さんが
今回weeksdaysで発売になるt.yamai parisの
シャツを見せてくださいました。
2種類、それぞれ2色ずつ。とりわけ私は
ゴールドのシルクタフタの半袖シャツを見て
嬉しくなりました。

金という難しい色にもかかわらず、
洗練されたトーン、落ち着いた光沢。
やっぱりさすがとしか言いようがありません。
試着させてもらうと空気のようにふわっと軽くて
更にびっくりしました。

山井さんはこれまでにリバティなどの柄生地も
幾度となくとり入れていらっしゃって、
私はそうしたシリーズも大好きなのですが、
このようにt.yamai parisらしい「色づかい」が際立つ
無地のアイテムも、個人的には非常におすすめです。

▲本文で色のことを書いたので、t.yamai parisのパターンの良さについても少し。写真の私物はトレンチコートとケープコートの中間のようなデザインのアイテムです。ラグランスリーブなうえに袖幅が広いので、ゆったりした袖のトップスの上にも難なくはおれて長年重宝しています。首元のボタンを全部とめるとスタンドカラーっぽい雰囲気になるところも気に入っています。

▲これは去年だったか、わりと最近購入したシャツです。山井さんのお洋服に出会ったときは19歳だった私も今はミドルエイジ。若かったころにはためらいなく着れたフリルも歳を重ねるにつれて慎重に選ぶようになりました。t.yamai parisのフリルは昔から年齢を選ばないところが好きです。このシャツも、襟なしのスッキリ感と寒色の縦ストライプが甘さに歯止めをかけていてフリルと好バランスです。

2023-06-20-TUE