糸をビーズで紡ぎ、編む。
指先の、ほんとうにちいさなところから、手づくりで、
まるで宇宙のような複雑さと美しさをもつ
ジュエリーをつくるFUA accessory(ふうあ)。
その主宰者で、デザイナーでもある
木村久美子さんに話をききました。
木村さん、いったいどうして、
この世界を構築しているんですか?
木村久美子さんのプロフィール
木村久美子
FUA accessory 主宰/ デザイナー
看護師を経て、手編み作家として活動後、
編みの技術で金属のようなジュエリーを作りたいと
鍵編みジュエリーブランド
『FUA accessory』を立ち上げる。
店舗は持たず、福岡を拠点に全国のギャラリー、
百貨店、セレクトショップなどで展開をしている。
01編み物をジュエリーに
- 伊藤
- こんにちは、木村さん。
今日は福岡からお越しくださって、
ほんとうにありがとうございます。
- 木村
- とんでもない、
こちらこそありがとうございます。
- 伊藤
- 福岡のどのあたりに?
- 木村
- 糸島寄りの市内になります。
伊藤さんも福岡には
よくいらしてますよね。
- 伊藤
- 福岡にはおいしいものもたくさんありますし、
とても好きなところなんですが、
コロナ禍のあいだ、3年ほど、
そんなに行くことができなかったので、
そろそろちゃんと伺いたいなと思っています。
木村さんには、最初、じつはわたしから、
ダイレクトメッセージでご連絡をさしあげたんですよね。
「何か一緒にできませんか」と。
- 木村
- はい。突然のご連絡に驚きました。
もう天にも昇るような気持ちで、
みんなで万歳したんですよ。
それで「何が一緒にできるだろう」と思いながら、
時間が経ってしまいました。
ちょっと引っ込み思案なものでして‥‥。
時間が経ってしまったら、
時代は移り変わるから、
伊藤さんはどうお考えになるのかなと思いつつ。
- 伊藤
- そうだったんですね。
それで青山のスパイラルで
催しをなさるというので、伺って。
それがたしか2019年のことでした。
片耳のちょっとおっきめなピアスを買いました。
2色だったかな。
- 木村
- はい。そのあとでコロナ禍になり、
しばらく時間があいてしまったんです。
今回のプロジェクトを進めようと
あらためてお話をさせていただいたのは、
2022年の暮れのことでした。
最初、私が考えていたのは、
結構フサフサしたタイプだったのですけれど。
- 伊藤
- そうでしたね。とても素敵でしたよ。
でも段々、私も年を重ねて、
もうちょっと耳にピタッとした
小ぶりのものでもいいんじゃないかなぁと
思うようになっていたんです。
- 木村
- はい。「コロッとして、ピタッとしているもの」
とおっしゃっていました。
- 伊藤
- それでFUAのラリエット
(留め具のない、ひも状のアクセサリー)を、
私がくるくるっとして、
「こんな印象のものがほしいんです」と。
- 木村
- 私たちのところのラリエットを結んでくださって、
「こういう感じのものを」と。
その結んだ頭のところを
昔ながらのボタンのような雰囲気で、
という話にもなりましたね。
- ──
- 伊藤さんはどのくらい
具体的なことをおっしゃったんですか。
絵を描いたりとか‥‥。
- 伊藤
- いえ、全然具体的じゃなかったんですよ。
「ビーズ、ぐるぐる、ボタン、ピアス、
ころっと、ピタッと」というような言葉で。
あとはお任せしました。
木村さんにきっと伝わったと感じたので、
きっといいものをつくってくださるだろうと。
- 木村
- フワッとしたイメージの中でも
昔ながらのボタンっていうのがキーワードでした。
それに「コロッとして、ピタッとしている」
というのは、私にしてみると
すごく的確な指示だったんです。
「亀の甲ボタン」という、
亀の甲羅のようなかたちのボタンをイメージしました。
そこから着想を得て、こちらを制作しました。
古着のコートのカフス(袖口)のボタンなど、
勝手にいろいろなイメージから、ふくらませて。
- 伊藤
- 素敵なピアスをつくってくださって、
とても嬉しいです。
木村さん、あらためてお尋ねしますが、もともと、
ブランド「FUA」の始まりはどんなふうだったんですか?
- 木村
- 12年ほど前に長女を出産したとき、
産休中、近所にちっちゃなお店ができまして、
そこの店主と友人になり、
私がもともとしていた編み物を、
取り扱いをしてみましょうということがスタートでした。
それは私の趣味でやっているものだったんです。
そのあとに「FUA」の名前をつけて、
だんだんと、今のようなかたちになったんですよ。
- 伊藤
- 趣味の編み物からスタート。
手を動かして何かをつくるのはお好きだったんですね。
- 木村
- 母がずっと家で機械編みをしていまして、
アーガイルのセーターとか、
すごくかっこいいのをたくさんつくってくれていたんです。
私は母に編み物を教えてもらいたかったんですけど、
絶対に教えてくれなくて!
- 一同
- (笑)
- 木村
- なので横から見ながら、
あぁ、こうするんだっていう感じで覚えました。
でもきちんと習っていないので、
かたちにならないんですけど、
そのかたちにならなかったことが、
多分よかったのかなぁと思います。
自分で、想像の中でつくっていったので。
- 伊藤
- そのときは作品としては
着るものをつくってたんですか。
それともアクセサリーを?
- 木村
- 巾着袋ですとか。
レース編みでちょっと品のいい、
大事なものを入れるための袋、というイメージでした。
でも「これ、私だったら買わないな」と思ったんです。
趣味の延長のような気がしていたんですね。
それでお金をいただくのであれば、
「もっと自分が欲しいものじゃないと!」
というところで、名前もちゃんとつけて、
アクセサリーに特化したんです。
- 伊藤
- 「これなら自分でお金を出して買いたい」
と思うものが、そのときからでき始めた。
- 木村
- そうですね。1個ずつ、でき始めて。
けれどもそのお店の友人は言いました、
「編み物のアクセサリーなんて誰も買わない」。
- 伊藤
- 厳しいお友達ですね。
- 木村
- 厳しいんですけど、一理あるなあって。
「金属のものはずっと残るからほしいと思うけど、
編み物のように儚(はかな)いものを
アクセサリーにするというのは、
そんなにイメージが湧かない」と、
消費者目線でしっかりと言ってくれたんです。
そこで火がついて。
- 伊藤
- 火が?!
- 木村
- はい。
「いや! 編み物はきれいなものだ!」と。
だからジュエリーに寄る編み物をつくりたい、
というふうに思いました。
とにかく金属と闘わなきゃと思って。
- 伊藤
- それでビーズを使うことに?
- 木村
- はい。編み物として編んだとき、
金属よりもステキなものを、と。
ビーズを使い始めたんです。
最初は、手芸屋さんで手に入る糸で編んでいたんですが、
それですとやはりちょっとほっこりしたものに
なってしまうので、
もっともっと洗練されたものをつくりたいと
糸を探し始めて、京都の糸にたどり着きました。
これ、絢爛豪華な帯のための糸なんです。
- 伊藤
- たしかに金属にはない柔らかさがありますよね。
今も、ほとんどが京都の糸なんですか。
- 木村
- そうなんです。
銀糸、金糸といわれているものですね。
コーティングがされていて、
私が使っているものはシルバーを原料とした糸ですが、
酸化で黒くならないようにとか、
肌当たりがいいようにとか、
帯なので100年たっても色褪せないようにと、
そんな基準でつくられている糸なんです。
それですと、ほんとにアクセサリーとか
ジュエリーにはピッタリなんですね。
ただし、肌に直接つけるということを
想定してつくっていらっしゃらないので、
そこは実験しながらやっていってるんですけれど。
- 伊藤
- たしかに肌に馴染む感じがするし、
「金属と闘える美しさ」がありますね。
やっぱり柔らかい感じがするところが
いいのではと感じます。
- 木村
- ありがとうございます。
光が入ったときの透け感ですとか、
そういったものはやはり編み物特有です。
この透け感に魅せられたんですよ。
(つづきます)
2023-07-16-SUN