糸をビーズで紡ぎ、編む。
指先の、ほんとうにちいさなところから、手づくりで、
まるで宇宙のような複雑さと美しさをもつ
ジュエリーをつくるFUA accessory(ふうあ)。
その主宰者で、デザイナーでもある
木村久美子さんに話をききました。
木村さん、いったいどうして、
この世界を構築しているんですか?

木村久美子さんのプロフィール

木村久美子 きむら・くみこ

FUA accessory 主宰/ デザイナー
看護師を経て、手編み作家として活動後、
編みの技術で金属のようなジュエリーを作りたいと
鍵編みジュエリーブランド
『FUA accessory』を立ち上げる。
店舗は持たず、福岡を拠点に全国のギャラリー、
百貨店、セレクトショップなどで展開をしている。

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●Instagram

02
はじまりのとき

伊藤
今回、「weeksdays」で扱わせていただくもののほかに、
FUAにはいろいろなタイプのアクセサリーがありますね。
とてもかわいい三角のものもありました。
木村
「折り紙」という名前がついています。
折ってかたちを変えているんですよ。
金属との闘い、と言っていますが、
よりジュエリーとして付加価値をつけたくて。
18金やプラチナも使っています。
肌に触れるので、より安心に
お使いいただけるようにという理由もありますが、
私、「himie(ヒーミー)」の下川さん
よくしていただいてるんですけども、
「編み物がベースだけれど、よりいいものにしていきたい」
っていうことを伝えたところ、
「絶対18金を使いなさい」と助言をいただいて。
そうしたら、今は、
ちょっと金属にも少し片想いし始めちゃって。
伊藤
最初は負けないぞと思ってたのに(笑)。
木村
はい、ちょっと好きになっちゃったんです。
伊藤
でも組み合わせたら、よりステキなものが。
かわいいですよ! 
ビーズはどこのものなんでしょう。
木村
ビーズは日本のものです。
広島でつくられています。
伊藤
古いものとかではなく。
木村
そうなんです。
以前はヴィンテージのビーズですとか、
フランスのビーズも使っていたんですけれど、
肌につけるものなので、
できるだけ新しいものを
使いたかったということもあります。
ヴィンテージのビーズも美しいんですが、
「受け継いでいただきたい」
というコンセプトもありまして。
伊藤
「ここから始まる」みたいな感じですか。
木村
そうです! FUAのアクセサリーの中には
「はじまりのとき」という名前をつけたものもあり、
そういう気持ちとリンクさせたくて、
新しいビーズ、現行のものを使っています。
日本のビーズはすごくいいものなんだよ、
という気持ちもありますし。
日本のガラスビーズ、海外での評価も高いんですよ。
伊藤
とても繊細ですものね。
それにしても、近くで見ても、
何がどうなってるのかが分からないです。
すごく緻密。
こういうものって、職人のみなさんが
手作業で数をつくっていくと思うんですが、
木村さんは、その最初の指示を
いったいどんなふうにしているんですか。
洋服なら「パターン」がありますけれど。
木村
私はまず手を動かしていくんです。
伊藤
まず、手。
木村
先ほど子供のとき母に編み物を教えてもらえなかったので、
自分で想像しながらかたちをつくっていった、
と申しましたけれど、それが今にもつながっていまして。
初めはデッサンも何もせずに、ただただ手を動かして
でき上っていくんです。
その時は、わりと無でつくっていくので、
もう意識が飛んでしまうぐらいな感じです。
「ゾーンに入る」という表現がありますけれど、
そういうものに近いかも知れません。
伊藤
それが長いものになるのか、
ちっちゃいものになるのか、
ネックレスになるのかピアスになるのか、
分からないままに手を動かすんですか。
木村
そうなんです。分からないです。
伊藤
何かヒントになるものとかあるんですか? 
たとえば自然のものとか、街歩いてて、とか、
そこでひらめいたりするデザインはあるんですか。
木村
はい。たとえば時計をこうやって見たときに、
「あ、丸だ」と思う。
そこから、丸いブローチがあったらいいなぁと思う。
そういうことはありますね。
私はそんなに海外にも行きませんし、
福岡が大好きなので、いわば福岡にこもっているんですね。
福岡は景色も豊かで、森も山もあるんですけれど、
そこを見たところでそんなイメージは湧かなくて、
それよりもたとえばこの机のこの枠の、
ここがかっこいいなって思ったら、
その枠を見ながらつくってみたりとか、
そういうふうなつくり方をしています。
もう身の回りすべてがイメージの原点です。
伊藤
特別なインプットの努力をしなくても、
すぐそこにヒントがたくさんあるってことですよね。
木村
そうですね、はい。
そういう部分は、母の影響がかなり大きいと思います。
伊藤
お母様は、なぜ教えてくださらなかったんでしょうね。
「教えて」って言っても駄目だったんですか。
木村
言ったんですけど、もう「めんどくさい!」と。
あと「今はお母さんの趣味の時間だから」って。
伊藤
なるほど、その集中ぶりは、受けついでいますね。
木村
そうですね。母は趣味でやっているので、
人様に販売するなんて! っていう
ベースがあるんです。
だから「私は販売をしたい」と言ったときに、
すごく反対を受けました。
伊藤
へぇ~!
木村
「人様に購入していただくのは大変なことだよ」と。
それでも勝手にやり始めてたので、
見せて説得をして、納得をしてくれてから
母は亡くなりました。
伊藤
そうだったんですね。
お母様に販売することを反対されたとき、
お友達に「編み物のアクセサリーなんて売れないよ」
と言われた時のように、
火がついたということも、やっぱりあるんですか?
木村
ありました。反対されればされるほど! 
でも行商に行っても、
福岡であまり取り扱いをしてもらえない時期もあって。
やっぱり「編み物のアクセサリー」っていうのが
手づくりの延長というふうに見られていたんですね。
ところがそういったときに、
ついてきてくれてたんです、母が。
伊藤
なんと!
木村
お腹も大きかったですし、
ちっちゃい子供もいたので。
そんな状態で行商に行って、ぜ~んぶダメで。
それでも母と父が車で送ってくれたりして、
そういうかたちで、
認めてはくれてはいないけれど、
「やっぱり心配だから、ついてってあげるよ」
だったんでしょうね。
伊藤
いえ、それは認めてくれたということですよ。
そんなふうに、どこのお店にも置いてもらえない、
という時代から、
今、とても人気が高くなった、
その間には、何かきっかけがあったんでしょうか。
木村
母が亡くなったとき、最愛の母だったので、
「運命は、私からこんなに
大事なものを奪っていく。
だったら、必ずめちゃめちゃいいことがあるはずだ」と、
スパイラルが主催の
「New Jewelry TOKYO」に応募したんです。
末広町で、開催していた頃の話です。
その主催者が福岡に来られるのを知って会いに行き、
「これ私がつくったんです」と、
そんな感じでグイグイいって、
「じゃぁ応募してみたら」みたいな感じで。
FUAが知られるようになったのは、そこからですね。
伊藤
へぇ!
木村
その後は、伊勢丹新宿店での
イベントに呼んでいただいたり。
2012年から始めたインスタグラムに
だんだん「いいね」がつき始めて、
そんなイベントの出店にも
インスタグラムで知ったという
お客様がいらしてくださったり。
伊藤
インスタってすごいですよね。
木村
周りもびっくりしてました。
集客がそこにつながるっていう意識が誰もなかったので。
最初は、おもしろそう、
犬のこととかを発信しようかなと始めたんですが、
アクセサリーをアップするようになったら、
いろんな方が見てくだるようになりました。
でもその頃は1人でやっていたので、
生産が間に合わなくなってしまって。
それが逆に、希少価値につながったようなんですが。
伊藤
なるほど。
じゃぁスタッフが1人増え、2人増えみたいな感じで、
今はおおぜい、いらっしゃるんですよね。
木村
はい、増えていってます。
最初に私がつくった原型をもとに、
そこから編み図を引いていくんです。
伊藤
なるほど、洋服でいうと、
立体裁断して、そのあと広げて製図する、
みたいなことですね。
その編み図を職人さんに渡して、
つくっていくわけですよね。
木村
そうなんです。
伊藤
木村さんみずから、
職人の1人としても働いてるわけですよね。
今何人ぐらいでつくっていらっしゃるのでしたっけ?
木村
10名ほどで編んでいます。
もう、ほんとに凄腕の方々が来てくださって。
伊藤
そんなみなさんを、
どうやって探したんですか?
木村
求人は出したことがありません。友達の紹介で、
自然と集まってきてくださって、
みんないい方ばっかりでですね。
勉強熱心ですし。
──
拝見していて思うのですが、
意地悪なことを考えていたら、
これはつくれないと思います。
こんなきれいなものって。
伊藤
ほんと。
木村
実際、つくるときにはみなさんに、
「嫌な気持ちのときにはつくらないでください」
「落ち込んだときとかイライラしてるときもつくらないで」
と伝えています。
空気を編んでいくので、
ほんとうに、艶がなくなってしまうんですよ。
そうも言ってられない多忙なときもあるんですけれど、
できるだけフラットな感じでいてくださいと。
編み物はほんと不思議で、生き物だなぁと思います。
私も。ほんとは模様編みにもチャレンジしてみたいし、
三國万里子さんのような大作もつくってみたいという
憧れはあるんですけど、私には不向きで。
それでも自分が気に入ったものをつくれたらいいかなと。
伊藤
さきほど、さらりと、
編み図があるという話をしましたが、
かなり複雑に見えるアクセサリーにも
ちゃんと編み図があるということですよね。
それもすごいと思うんです。
木村
おっきいネックレスですとかは、
6畳のお部屋が全部ビーズの糸で
もうヘビの家みたいな感じに
糸がもうとぐろを巻いている場所で編んでるんです。
職人のみなさんには
ご自宅で編んでいただくんですけど、
部屋を1つつぶして編んでくださって。
まずビーズを糸に通すところから。
なので量産ができないんですよ。
伊藤
そんななか、「weeksdays」のために
かたちにしてくださって
ありがとうございました。
木村
こちらこそありがとうございます。
(つづきます)
2023-07-18-TUE